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五人の生徒を指定の席へ連れて行くと、ニエザは、上段にある教職員のテーブルへ行き、リーユエンの姿を探した。
ところが、リーユエンの席であるはずのところに彼女の名札はなく、別人の名札があった。
訳が分からず、テーブルを見ながら、ぼうっと突っ立つニエザを、ツカリーゼが見つけて声をかけた。
「ニエザちゃん、どうしたのよ、ぼんやりして、早く座りなさい」
ニエザは、ツカリーゼを見上げた。
魔導士塔へは、度々おやつの差し入れを持っていくので、ツカリーゼとニエザは顔見知りだった。
「リーユエンが、まだ来ていないんです。それに席もないし・・・どうなってるんだろう」
「えっ、リーユエン先生は休職中でしょう?」
ツカリーゼは、くっきりした眉を寄せ、顔を傾げた。
「今日は、魔導術概論の講義の日で、私は、彼女を送ってきて第五学舎の前で降ろしたんです。
もう、講義は終わっているはずなのに、ここにいないし、それに、今日は講義したのだから、晩餐の席があるはずなのに、彼女の席はないみたいだし」
ツカリーゼは話を聞いて、まず席がないことが気にかかった。
「ニエザちゃん、私について来なさい」
ツカリーゼはニエザを連れて、食堂の配膳部を尋ねた。
配膳部には、何十年も勤務するターチャというベテラン職員がいて、スイーツのレシピ交換をし合うツカリーゼとは仲良しだった。
ツカリーゼは、すぐターチャを呼び出した。
ターチャは話を聞いて、心底驚いた。
「えっ、リーユエン先生の席がないって、でも、休職中でしょう?晩餐出席の届けは出てないわよ」
今度は、ニエザが驚いた。
「ええっ、今日は帰って来るって教務課へは届けは出しているのに・・・」
ツカリーゼは、口をひん曲げた。
「ニエザちゃん、それ、たぶんドロメル派の職員が、配膳部へ書類を回さなかったんだわ。昔からよくある嫌がらせなのよ」
「そんなあ・・・リーユエンは晩御飯を食べられないのか」
ニエザは、あんなに疲れ切って戻ってきたのに、リーユエンが可哀想だと思った。そこで、まだ姿を見ていないことを思い出した。
「リーユエン、どこへ行ったんだろう。一人で魔導士塔へ戻ったのかな」
ニエザは、この時、自分の席がないのに気がついたリーユエンは、がっかりして、魔導士塔へ一人で戻ったのかもしれないと思った。
ニエザは、リーユエンのことが気になり、晩餐のご馳走も味がよく分からなかった。
そのあと、生徒を絨毯に乗せて、大急ぎで魔導士塔へ帰る途中、風がますます強く吹き出し、大粒の雨が降ってきた。
もちろん絨毯は、ニエザが張った障壁結界が雨を弾くので、中は快適だった。
皆、リーユエンは魔導士塔へ戻っているだろうと思ったのに、塔の中に人の気配はなかった。
ニエザは、真っ青になった。
「帰ってきていない・・・リーユエン、君、一体どこへ行ったんだ」
その頃、職員宿舎の自室へ戻ってきたツカリーゼも慌てていた。
「嫌だ、私の人形ちゃんたちに異変が起きているわ」
綺麗に飾りつけてあったはずの人形が、いくつか横倒しになっていた。
「どれが倒れちゃったの?
明妃殿下の人形、どうしてよっ、これってしっかり台座までつけておいたのに、
それに、あれっ?リーユエン先生と、ちびリーユエンまで倒れているじゃないの!」
ツカリーゼは慌てて三体の人形を手に取り、真面目な顔つきになった。
「これ、ただ倒れたんじゃないわね」
ツカリーゼが自作する人形には、傀儡術で強力な守護魔法をかけてある。
三体の人形には、みな、その守護魔法から、本体の異常を知らせる警告が出ていた。
「ニエザちゃん、リーユエンが見当たらないって言っていたわよね・・・」
リーユエンの人形を取り上げたツカリーゼは、大粒の雨が降り頻る中、外へ飛び出した。
「守護人形ちゃん、本体のリーユエン先生がどこにいるのか、私に教えてちょうだい」
ツカリーゼは、魔力を流しこみ、人形を宙へ浮かべた。
ツカリーゼの前を、人形が宙に浮かんだまま、本体のリーユエンを目指し動き始めた。
(ツカリーゼ教授の特別解説)
守護魔法をかけた人形は、本体と特別なつながりができるのよね。
言っておきますけど、プライヴァシー侵害なんて、私の本意じゃないのよ。ただ、本体に危機がある時は、人形に反応が起きるように作ってあるのよ。
そして、本体がどこにいるか、人形が突き止めてくれるの。
しつこいようだけれど、あくまで、本体が危機にあるときだけですからね。
私は、ストーカーなんてしないわよ。フンッ。
それは、玄武国の夏の終わりを告げる冷たい雨だった。この雨が何度か降ると、雨はいつしか雪へと変わり、そしてやがて真冬となり、地吹雪が激しく吹き荒れる厳冬期へと変わるのだ。
魔導士外套が雨にぐっしょり濡れてきたツカリーゼは、障壁結界を張り巡らし、自分自身と人形が雨に濡れないように守った。
やがて、ニエザがリーユエンを降ろしたという第五学舎の、灯りの消えた黒々とした姿が雨の中に見えてきた。
ところが、ここで人形は、第五学舎から突然向きをかえ、その奥の林の方へ進み始めた。
「林の中なの?そんなところで、何をしているのよ」
不思議に思いながら、さらに暗い林の中へ踏み入った。
足元はぬかるみ始め、滑りやすかった。
足元を取られないように気をつけながら、ツカリーゼは暗闇の中、それでなくとも、黒い魔導士外套を着て見えにくい、リーユエン人形の後を懸命に追った。
突然、人形が止まった。
そこは、学院島が浮遊島になった時から生えているトウヒの巨木の前だった。
古木となったトウヒの幹には、大きな樹洞があった。
ツカリーゼは、まさかこんなところに本当にいるのかしらと思いながら、真っ暗な樹洞の中をのぞき込んだ。
ちょうどその時、空に稲妻が走り、辺りが真昼のように明るくなった。洞の地面に真っ黒な魔導士外套が見えた。
「リーユエン先生、見つけたっ」
ツカリーゼは、樹洞へ飛び込んだ。




