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その頃、プドラン宮の地下最深部、暗黒の闇に包まれた玄武洞の中て、瑜伽業が始まった。
ドルチェンに対面し、結跏趺坐したリーユエンは、自身の意識を深海へ潜るように降下させた。
意識の降下とともに、観想は深まり、やがて意識は空となり、肉体は消え、紅蓮華へと変容した。すると深淵の闇の向こうから、黄金の光を放つヴァジュラ(五鈷杵)が現れ、紅蓮華の花芯を貫いた。
リーユエンの中央経絡へ、激しい風の流れとともに、ドルチェンの陽気が水量豊かな瀑布のように流れ込んできた。
リーユエンは、自身の核から陰気を放出し、その陽気の流れにぶつけ、中央経絡から心の臓にほど近いチャクラへ流れを集中させた。
陰気は闇となり、陽気は光となり、互いを追いかけ激しく回転し、やがてお互いをとらえて交わり始めた。だが、そこへ突然、青白い光を放つ、強力な陽気が現れ、三つ巴となり、さらに激しく回転し始めた。
それは、東海大帝が彼女へ分け与えた陽気だった。三つの極から生じる予測のつかない回転の中、紅蓮華の花はさらに広がり大輪の花を咲かせ、花芯から一気に光の粒子を放出させた。
その光は、黄金と青と紫の光が混じり合い、激しい稲妻を発し、やがて互いが結びつき、結晶化し、石へと姿を変えていった。
三日三晩に渡り続いた瑜伽業が終了した。
外から扉が開けられたとき、洞の中をのぞいた玄武たちは、異変に気がついた。
そこに、今まで目にしたことのない、不思議な結晶構造を持つ太極石があった。
巽陰大公カーリヤは、その石を震える手で持ち上げた。
「これは、二極じゃない、三極の石だ。五千年前の瑜伽行で一度だけ現れた伝説の三極石だよ。これがあれば、プドラン宮の動力炉は一千年だって保つだろう」
巽陰大公が驚愕した三極石は、扉の向こう一杯に広がっていた。
巽陰大公は、手にした石を押し頂き、拝礼した。
「ありがとう、明妃、ありがとう。よくぞ、この三極石を生み出してくれた」
扉が開いた気配に、ドルチェンは意識を取り戻した。そして、向かいの蓮華座にいるリーユエンの異変に気がついた。
ドルチェンは、蓮華座の上で倒れ伏し意識のないリーユエンを抱き抱えた。
(なぜ、これほど衰弱したのだ。瑜伽行で、何か間違いでも起こったのか)
不安な気持ちでいるところへ、巽陰大公が石を持って中へ入ってきた。
「猊下、ご覧あれ、三極石が現れたよ」
リーユエンを抱き抱えたまま、ドルチェンも呆然とその黄金と紫と青に輝く石を見つめた。
「馬鹿な・・・どうして三極石が」
カーリヤもリーユエンの異常に気がついた。
「明妃はどうしたんだい?様子がおかしいよ。早く、離宮へ連れていっておやり」
離宮へ戻ったあと、カーリヤは一個だけ持ち出してきた三極石を見つめながら、うっとりとしてため息をついた。
その隣では、ドルチェンが憮然とした表情で座っていた。
二人へお茶を勧めながら、ウラナが尋ねた。
「それは、一体、どういう石なのでございますか?」
カーリヤは、石を手に持ったままウラナを見上げ、意味ありげな笑みを浮かべた。
一方、ドルチェンは、
「三極石など伝説だと思っていたのに、どうして、私とリーユエンの瑜伽業で、そのような石が、しかも大量に現れたのだ」と、カーリヤの反応とは対照的に、その声には、不満がこもっていた。
「あまり、大っぴらには言えない話なんだが、五千年前の瑜伽行で現れたのは、理由があるんだよ。その時の明妃は、他の玄武を好きになってしまい、法座主を毒殺したそうだ。そして、好きな相手が法座主となり、晴れて、その玄武と瑜伽業へ入った。
ところが、業の途中で、明妃の体内から先代法座主の陽気が現れ、二つの陽気の流れと、自身の陰気の流れ、三つの流れを制御しきれなかった明妃は、内傷を起こして死んでしまった。
ただ、偶然にも一部が三極石となり、玄武洞の中に現れたそうだ。」
ウラナは、話を聞くうちにドルチェンの不機嫌の理由に気がついた。
「まあ、恐ろしい・・・でも、それなら、どうしてリーユエン様が・・・」
カーリヤはお茶を一口飲むと、大きくため息をついた。
「ダルディンに聞いたのだが、リーユエンは、東海大帝から法力を分け与えられたそうだ。
その上、猊下の前でこんな事を言うのは申し訳ないが、東海大帝は、リーユエンの事を妻扱いしているからね。だから、瑜伽業の最中に、あのお方の陽気が、猊下の陽気と張り合うように流れ込んできたのだろう。
リーユエンは、二つの陽気の流れを見事に制御し、三極石を生み出したわけだ。そうそう、太極石の方も、今度もしっかり十年分あるらしいよ」
ウラナは眉尻を下げた。
「まあ、それでは、随分お疲れになった事でしょう」
「そうなんだよ、今回の瑜伽業は、リーユエンには負担が大きかったと思う。
内傷は起きていないが、疲労困憊だから、ゆっくり休ませてやっておくれ」
その翌日も、リーユエンはずっと眠り続けた。そして、翌日の夜半が過ぎ、日付が変わった頃、目覚めたリーユエンは、寝台からそっと起き上がった。
(ああ、まだ頭がクラクラする。気分が悪い。まさか東海大帝の陽気まで煉り合わせることになるなんて、瑜伽業キツすぎるよ)
ふらつく体で、魔導士服とフード付きの外套を着込むと、リーユエンは足音を忍ばせ、中庭へ出た。そこでしばらく待っていると、空から絨毯に乗った兄弟子ニエザが現れた。
リーユエンは絨毯に乗り込むとすぐさま横になった。ニエザは、元気のないリーユエンの様子を気にしながらも、絨毯を離陸させ、学院島へ向かった。




