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「昨日、都から魔導動力機関整備士がきて、動力機関の点検整備を行ったのじゃ。
その際、先般での大嵐回避失敗が話題に上がり、整備士は動力炉も合わせて点検を行ったのじゃ」
ここで学院長は一瞬黙り込み、その眉尻は一気に下がった。
リーユエンの心の中では警報音がなり響いた。
「動力炉を開けた整備士が言うには、エネルギー源の太極石の劣化が進んでおり、取り替えなければ、学院島の運行に近々支障が出るそうだ。
わしは、念の為、魔導工学部のザカリン教授にも確認をとった。
教授も整備士と見解は同じじゃった。それに教授は、昨年大嵐回避失敗の原因は、おそらく動力炉からの魔導力の供給が安定しないために、動力機関が出力不足となり、軌道変更が遅れたことが原因だろうと言っておった」
リーユエンは眉間を指で揉んだ。ここまで言われたら、もう、結論は出てしまった。
「大至急、大量かつ高品質の太極石が必要なのですね」
学院長は、情けない表情のまま頷いた。
「そうなのじゃ、全くその通りなのじゃ」
リーユエンは考え込んだ。
去年、瑜伽業で石を十年分作り出したが、その八割方は使用先が決まっていた。残りの二割では、学院島の動力炉の取り替えには足りない。
「そうすると、至急、瑜伽業を行う必要がありますね。猊下と連絡をとって、日程を調整いたします」
結局、そう答えるしかなかった。
リーユエンは学院長を恨めしく思った。
整備点検を行うなら、もう少し早くして欲しかった。今から瑜伽業の予定など立てたら、後期開始当初からいきなり授業や講義に穴を開けることになるのだ。その間の第三クラスの代替授業や、まだ代替講師を務めている魔導術概論を休講して、果たして、補講なしに乗り切れるのか、頭の痛い問題ばかりだった。
リーユエンはため息をついた。
「瑜伽業の前後で一月ほど学院島を離れなければなりません。その間の調整を至急行わなくては・・・」
「もちろん、瑜伽業の準備期間も、瑜伽業中も、その後の休養期間も学院の方で便宜を図るから、瑜伽業に専念してくれ」
学院長は、頭を何度も下げた。
その後、直ちに、法座主府へ、学院長から学院島の動力炉内の太極石の交換のため、太極石の支給申請が提出された。
学院長が出した申請は、正規ルートからのものなので、実際に太極石の支給があるのは、通常早くて数年後、遅いと数十年後というのもあり得た。というのも、太極石支給は、優先順位が厳密に決まっているのだ。
最も優先順位が高いのは、玄武国首都であるプドラン宮の中の数十ヶ所に及ぶ動力炉への供給だった。
次が八大公家への支給、その次は医療機関への支給、その次は・・・と、延々と続くので、今まで申請を出したことのない魔導士学院島が、最悪浮遊島が墜落するかもしれないため、太極石の交換の緊急性が高かろうとも、法座主府の役人の判断で、勝手に優先順位を上げることはできないのだ。
学院長は、リーユエンへ迷惑がかかるとわかっていても、学院島の安全を守るため、彼女へ直接頼み込み、言い方は悪いが裏ルートから、太極石を確保しようとしたのだ。
学院の卒院生でもあるリーユエンは、事情を聞いたからには、学院長の頼みを断るはずがないし、明妃を寵愛する法座主は彼女の願いなら、瑜伽業を行う決断を下すだろう。
魔導士学院創立時、現法座主ドルチェンの作り出す太極石はあまりに品質が悪く、浮遊島の動力炉の使用に耐える品質ではなかった。その時、巽陰大公カーリヤの特別の厚情で、太極石の寄付を受け、魔導士学院は創立開院できたのだ。
それに、プドラン宮殿内の動力炉内の太極石を頻繁に取り替えなければならない原因も、明妃を立てることなく、法座主一人で不完全な瑜伽業によって質の劣る太極石しか支給できなかったことによる弊害なのだ。去年十年分作り出したからといって、まだまだ安定供給にはほど遠い状態なのだから、瑜伽業の決定は、学院島以外にとっても歓迎すべきことだった。
夏季休暇明け早々に臨時の職員会議が招集された。会議の場で学院長は、早速リーユエンの休職を発表した。
「リーユエン先生が、やむを得ない事情のため、一ヶ月間の休業に入ることになった。そのため、その間の代替授業など支援協力をお願いしたい」
リーユエンは、学院長の横で大人しく議事の進行を聞いていた。
ところがそこへエスメルが挙手して割り込んだ。
「休職されるって一体どういうことですか?夏季休暇が終わったばかりで、いきなり休職して、自分の分担を他の先生へ丸投げするなんて、リーユエン先生、あなた一体どういう了見なの。学院長に言わせないで、ご自分で事情を、皆に説明するべきよ」




