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魔導士学院生は、今日も元気ですっ!(落ちこぼれ呼ばわりされても、くじけません)  作者: nanoky


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「学院長」


「突然来て、すまない。たまたま予定が空いたので、塔の改修がどうなったのか見ようと思ったのじゃ、実に素晴らしい、この塔が出来上がった当時のことを思い出して懐かしくなったよ」


 階段を降りてきたリーユエンは、学院長へ

「どうぞ、ごゆっくりご覧になってください」と声をかけた。


 そのまま、庭へ出ようとするリーユエンを、学院長は引き留めた。

「せっかくだから、一緒に見ようではないか」

 それからあたりを見回し、パオディンの気配がないことに気がついた。

「パオディン殿はいないのか?」


「パオディン様は、改修工事も終了し、修行の方も順調で第六階梯へ到達されましたので、法学院への入学準備のため、離家へ帰られました」

 

 あの落ち着きのない若玄武が、第六階梯によく到達できたものだと、学院長は感心した。


「この短期間で、あの玄武二人を第六階梯まで引き上げるとは、さすがリーユエンじゃのう」


 リーユエンは肩をすくめ、薄っすら笑った。

「修行法が彼らにあっていたようですね。ちょっと痛かったですけど」


 リーユエン自身も手首が折れて、猊下の法力で直してもらったほどの荒業だった。

 学院長は現場を見ていないので、ただ笑って頷くだけだった。

 本当のことを知ったら、真っ青になって震え上がっていただろう。

 

 一階、二階、三階と学院長は一部屋ずつ見て回った。

 そして、「おう、ここは以前グリムエールの実験室じゃ、彼奴は、一度、魔導火薬の実験で分量を間違え、壁に穴をあけおったのじゃ」とか、思い出を楽しそうに語った。


 リーユエンはそれを聴きながらも、学院長の様子に疑念を抱いていた。

(忙しい学院長が、こんな古い塔へただ感傷に浸るためにくるなんて、絶対におかしい、この爺さんは油断ならない寝技師なんだ。一体、本当の目的はなんなんだ?)


 すべての部屋を見回っても、学院長はまだ帰ろうとしない。

 短い夏の晴天のもと、リーユエンは学院長を東の庭園へ案内し、お茶を淹れ、昨日ツカリーゼが差し入れてくれた焼き菓子を出した。

 

 お茶を始めてしばらくすると、学院長はリーユエンへ話しかけた。

「去年の大嵐で、この塔がボロボロになってしまった時は、もう朽ちるにまかすしかあるまいと思っていたが、これほど綺麗に修復できたのは、実に幸運だった。

 それに随分費用もかかったが、学院の負担は最低限で済んで、あなたには感謝してもしきれない」

 

 リーユエンはただ微笑んで沈黙していたが、学院長の指摘は大袈裟なものではない。

 古跡修復保存局に掛け合い、補助金の申請を通したし、それでも不足した分は明妃の化粧料から一部を賄ったのだ。


「修復できてようございました。けれど、学院は創立六百年なのに、塔の調度品も壁紙も八百年以上前の古典期のものだなんて、不思議ですね」


「あの塔は、ヨーダムやわしの師父の魔導士塔なのだ。それを学院島へ移築したからなのじゃ」


「学院長や太師の師父がお住まいの塔だったのですか?」


「そうだ、我らが師父、ゴルゴンゾーラは、齢千五百歳の頃に亡くなられた。偉大な魔導士でいらっしゃった。

 わしもこの塔には、思い入れは強いのじゃが、あまり入れ込んだ姿を、学院長という立場上見せるわけにもいかず、修復費用も、あの金額が、出せるギリギリじゃった。あなたの骨折りには本当に感謝しておる」

 

学院長は、お茶をグッと飲み干した。そして、生真面目な顔つきでリーユエンを見た。


「わしが、いつまでも帰らないので、不思議に思っておいでだろう」


 リーユエンは学院長が、ここへ来た目的をやっと明らかにする気になったかと思い、黙って頷いた。


「去年、大嵐の回避に失敗した学院島は、直撃を受け、被害は甚大だった。

 

 この学院を創立したのは、ご存知の通り、六百年前だ。

 創立者である我々は、学院内の絶対的な中立性を保とうと腐心し、学院全体を、何者の侵入も許さない特殊な結界の中に置くことにした。そのために、浮遊島を作りあげ、学院の敷地全体を宙に浮かせることで島全体を結界内に包み込み、なおかつ、一定の軌道で周回し続けることで、いずれかの八大公家の領地内に長く留まり、その干渉を受けることがないようにしたのだ。

 

 浮遊島をつくり上げたのは良いが、その動力機関によって島を浮上させるには、魔導動力炉からの莫大なエネルギー供給が必要だった。そのために、我々は大量の太極石が必要だった。

 ところが、あの頃は、猊下も即位されて百年余り、猊下は明妃を立てることを頑なに拒まれ、お一人で瑜伽業にのぞまれていた。そのためなのか、太極石の品質も今一つで量も少なく、プドラン宮の地下都市の動力を保つためにほとんどを使いきる状態で、浮遊島の動力源をどうすれば良いのか我らは頭を悩ませたのじゃ」

 

 学院長の話を聞きながら、リーユエンはお茶のおかわりを淹れた。


 学院長はそれを一口飲んで口を湿らすと話を続けた。


「その時、巽陰大公殿下が、ご自身が明妃をされていた頃、瑜伽業のたびにご自分用にと保管されておられた太極石を使うようにと、ご提供くださったのだ。それをありがたく頂戴し、学院島をようやく飛行させることができたのだ」

 

 リーユエンは、学院長の話ぶりを回りくどいと感じた。

 それは、厄介事が持ち込まれる前触れなので、話を切り上げてしまいたかったが、話題は学院についてで、今は教師の立場である以上、学院長の話を聞くしかなかった。

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