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そこでデリオンは、妻と娘へ声をかけた。
「せっかく来たのだから、おまえたち、首飾りと耳飾り、髪飾り一式、私が買ってあげよう。
ゆっくり選ぶといい」
そして、店主へ機嫌の良い笑みを向けた。
「妻と娘たちには、じっくり選ばせてやりたいのだ。だが、私は宝飾品のことは門外漢だから、ご亭主、忙しいところ申し訳ないが、私と世間話をしてもらえるだろうか」
サラザルのご当主が、家族三人分宝飾品を一式、わざわざお求めになる以上、無碍な態度は取れないと思った店主は、店内の奥まった一画にある応接スペースへ、デリオンを案内した。
「先ほどのパオギム様というのは、どういうお方なのかな?」
あくまで世間話の形で、デリオンは店主へもう一度尋ねた。
「離陰大公ルーデラ様の甥ごさんでございます。ルーデラ様の亡くなった弟君の息子さんでございまして、そのパオギム様は、宝飾品の加工を趣味にしておられます。
大きな声では申せませんが、細工の方は今ひとつなのですが、使用なさいます宝石は、それはもう品質の良いものばかりでして、それで、私の方でも取引させていただいているのです」
「ほう、そのような玄武がいらっしゃるとは初耳です。それで、明妃殿下に石を献上なさったというのは、一体どういう経緯からなのですか?」
「私も詳しい話は存じあげませんが、パオギム様のご子息のパオディン様が、明妃殿下に大変お世話になったそうです。パオギム様からお聞きした話では、パオディン様は、現在魔導士島で魔導士塔の修復工事を担当されていて、それが終了次第、明妃殿下から調息法や導引術のご指導をしていただくそうです」
デリオンの脳内で、ペリオンが定期的に送ってくる報告書、それに自分が実際に話したリーユエンの姿、そして店主の話が全て結びついた。
(そうか・・・そういうことなのか・・・しかし、にわかには信じ難いことだ)
まだ半信半疑の状態であったところへ、ラナデラの声が聞こえた。
「リテデア、明妃殿下の首飾って随分長いのね、私がつけたらお腹の下になってしまうわ」
その声を聞いた店主は微笑んだ。
「みなさま、驚かれますね。明妃殿下は、猊下と一緒におられるので、遠目には小柄な方に見えますが、実は、身長は六尺ほどおありなのです」
デリオンは、それでほぼ確信した。
「ほう、随分長身なのだな」
「ええ、六尺六寸近い猊下と並ばれましたら、それほど大柄には見えませんし、実際ほっそりとしたお方でございますから」
デリオンは、妻と娘二人にそれぞれ首飾り、耳飾り、髪飾り、それに腕輪と指輪まで買ってやった。
かなりの出費にはなったものの、そんな事は気にもならなかった。
デリオンは、ヨーダムが送り込んだリーユエンの正体をついに突き止めたと確信した。
ただ、予想外の大物であることに驚き、珍しく戸惑っていた。
この価値ある情報をどのように取り扱うべきなのか、その夜、書斎に一人こもり熟考した。
そして、ペリオンへ暗号文の書簡を認めた。
その三日後、コクマルカラスの特急便が、デリオンからの書簡をペリオンへ届けた。
当主からの暗号で書かれた書簡を読み進むうちに、ぺリオンの右眉が跳ね上がった。
サラザルの当主として、いつもなら、冷徹なほど明晰な分析をしてみせるデリオンにしては、そこに書いてある内容は周りくどく思えた。
『リーユエンの正体を探るのは、中止だ。お前は、リーユエンの行動に協力しろ。決して対立するな。
彼女からの頼みなら、どのようなことでも引き受けよ。決して悪い心証を持たれないよう、十分気をつけろ。
ドロメルの連中がリーユエンと対立するようなら、お前は絶対にリーユエンの味方をしろ。
ドロメルがリーユエンにどのような態度を取ろうとそれを仲裁する必要はない。放置するのだ。
リーユエンには、サラザルは恭順している事を態度で示せ』
ここまでくどくど書いてくる以上、当主はリーユエンについて、何らかの情報を掴んだに違いない。
それなのに、正体については一言も触れていないのだ。
サラザルの使用する暗号は高度で複雑だ。それを用いた書簡は、第三者が読み解く事はほぼ不可能なのだ。
当主の性格からすれば、ここまで具体的に指示を出している以上、何らかの情報を入手し、すでに分析し結論が出ているはずなのだ。
その結論を示さず、指示だけ書き送ってきたことで、ペリオンは、自分が、下っ端の、使い捨ての駒のように扱われている気がして、面白くない気分だった。
そして、最後に追伸があるのに、気がついた。
『ここまで読んだおまえは、面白くない気分でいるに違いない。
私が情報を開示せず、指示だけ書き送ったことに納得ができないだろうと理解している。
しかし、今回は、それができないのだ。
リーユエン一人ではなく、彼女の背後の存在、それがあまりに厄介なのだ。
お前は何も知らない方が自由に行動できる。どうか、理不尽だと思っても私の指示に従ってくれ。
それが、サラザルを守ることにつながるのだ。いいか、リーユエンには絶対に逆らうな」
(父上がここまで書いてくるなんて、一体、リーユエンは何者なんだ?)
疑問はあったし、納得いったわけではないが、ペリオンもまたサラザルの一員である以上、当主の命令には、従うしかなかった。




