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その同日、ペリオンは、学院内の図書館へ行き、理事会議事録の閲覧申請を行った。
父であり、サラザルの当主でもあるデリオンから、リーユエンが在籍中、姿を隠して彼女の護衛を務めていたのが何者なのか、調べ出せと指示を受けた。
ペリオンの知る限り、学院島への立ち入り許可は、理事の中で審査会を開き、審議して許可を発行していたはずだった。それで、議事録を調べ、審査会の記録を確認しようと考えたのだ。
まだ夏季休暇中のため、図書館の中は閑散としていた。
しばらく待つと、申請が通り、司書が別室へ案内してくれた。
「八百五年から八百七年の間の理事会議事録です、閲覧が終わりましたら、こちらのベルを鳴らしてください」と、説明すると司書は立ち去った。
ペリオンは、テーブルの上に積まれた議事録の一つを手に取り、頁を開けた。
ポルブから聞いた出来事があったのは、確か期末試験の頃だから、八百五年の第十二月から八百年の第三月の間のどこかで開かれているはずだ。
目当ての審査会は、議事録によれば、厳冬休暇明けに直ちに開かれていた。ただ、関係者の名前は、魔導術で厳重に隠されていた。
『生徒某の負傷の原因は、特定できないものの、体格差の大きい他学年の生徒・学生からの攻撃により被った可能性を否定することはできない。
申請者某は、生徒某の身の安全をはかるため、付き添いの申請を再度行い、合わせて、正当防衛の範囲で、攻撃を仕掛けてきた場合に限り、相手方の戦意を喪失させる権限の付与を求めた。
協議の結果、生徒某の生命身体に対して、急迫の事態が実際に生じたことを鑑み、これを許可する』
ペリオンは、首を傾げた。
(相手方の戦意を喪失させる権限の付与だと・・・そんな権限聞いたこともないぞ。そんな権限を認めたら、収拾がつかなくなるだろう。どうして、この時に限って、このような奇妙な決定がなされたのだ。相手は、とてつもない権力者なのか・・・本当に、一体何者なのだ)
せっかく調べた議事録だが、大した手懸りにならなかった。
デリオンへどう報告したものやら、ペリオンは、頭を悩ませた。
ところが、その頃、デリオンは、偶然にもリーユエンの正体を掴むための有力な情報を手に入れた。
その日、デリオンの姿は、妻と娘を引き連れ、三条東上がる犬鷲通りにある宝飾店蒼華堂内にあった。
デリオンには、息子が三人、娘が四人いる。
今日は正妻とその娘二人を連れていた。
正妻のオリナラは、無類の宝飾品好きだった。
宝飾品の買い物は、時間がかかり面倒くさいので、同行したくはないのだが、十六歳を迎える双子の姉妹のために何か買ってやりたいと言われ、断りにくく、付き合うことにしたのだ。
けれど、デリオンは、オリナラについて来たことを後悔していた。
(お茶はもう三杯め、宝飾品の箱を開けるのは、確か、もう三十回目だ。これだけ見てもまだ決まらないのか)
店に来てから二時間近く オリナラと双子の姉妹、リテデアとラナデアも、首飾りに、髪飾り、耳飾り、腕輪と、次々に品物を見ることに余念がなかった。そこへ、他の客との商談を終えた店主が姿を現した。
店主はにこやかな笑みを浮かべ、デリオンと妻、娘たちへ挨拶した。
妻は店主を前に、突然思いついたように言った。
「ご店主、そういえば、この間の叙勲式典、明妃殿下の装いは素敵でしたわ、特に、あの胸元を飾る虹色に輝く七連の瓔珞は素晴らしいお品でしたわねえ。ああそれに、髷の後ろの金剛石を飾りつけた歩揺簪も、素晴らしいお品でしたわ」
店主は大きく頷き、「少々お待ちください」と言うと、席を外した。
少しして、店主は漆塗りの宝石小箪笥を持ってきた。
「奥様、どうぞご覧ください。さあ、どうそお嬢様方も・・・こちらが。明妃殿下にお納めしたのと同じ仕様の首飾りでございます」
そう言いながら、小箪笥の扉を開き、次に下の引き出しを取り出した。
「そして、こちらが耳飾りと歩揺簪でございます」
オリナラの目が見開かれ、輝いた。娘二人も歓声を上げた。
「きゃーっ、これが、明妃殿下が身につけていらっしゃった首飾りなの」
リテデアが、冷静に指摘した。
「でも、この首飾りは全部金剛石だわ。殿下の首飾りは虹色に光る石だったわ」
店主は大きく頷いた。
「お嬢様の仰せの通りでございます。
実は、あの石は、大牙の国で産出する希少な魔石でございまして、明妃殿下への献上品でございます。
猊下より、石をその魔石へ変更するようご注文を承りまして、差し替えたものを納品いたしました」
そこでまた、リテデアの指摘があった。
「そういえば、式典で、明妃殿下が身につけていらした瓔珞は、虹色の石以外に月長石も飾られていたと思います」
デリオンは、娘リテデアの観察の鋭さには、いつも感心するのだが、その関心の幅は自分の興味のあるものに限られるのが、残念なところだった。
店主は、またもや大きく頷いた。
「さすがリテデア様、そこまでお詳しく見ておいでになるとは、ええ、その通りなのです。
明妃殿下からも、離家のパオギム様より、離家の領地内で産出する月長石をお譲り頂いたので、是非使いたいとの仰せがございまして、そちらの石に差し替えたのです」
デリオンが、それに反応した。
「今、離家と言われたが、それは玄武八大公家の一つ離家のことなのか」
「はい、左様でございます」
デリオンは内心驚いた。
代々明妃は、玄武の中から選出されてきたのに、ドルチェン猊下が指名したのは、凡人であったため、八大公家と明妃は折り合いが悪いと言うのが、情報筋の一致した見解だからだ。
デリオンは、いかにも妻に付き合い退屈なので、世間話がしたくなったふうを装い、人の良さそうな笑みを浮かべて、店主へ尋ねた。
「そのパオギムというお方は一体何者なんだね?よければ教えてくれないか」




