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熟考したデリオンが、ようやく口を開いた。
「確かに、おまえの指摘にも一理ある。だが、気がかりなことがある。ポルブは、リーユエンには護衛がついていたと言ったのだろう?」
デリオンは頷いた。
「学院の敷地は、部外者は立ち入り禁止なのだ。立ち入り許可が必要なはずだ。
通常、許可が下りても、長くて数時間の滞在だ。保護者ですら、事前の申請が必要なのだ。それが、毎日始業から終業まで、ずっと学院の中で、リーユエンのそば近くにいたのが事実なら、通常ならば、あり得ないことだ。
そこまで長時間の許可を得たのなら、学院の経営に、強い影響力のある者が、後ろについているに違いない」
「学院の経営にですか。彼女は、ヨーダム太師の高弟だそうですから、ヨーダム太師でしょうか?」
「いや、ポルブは護衛の存在には気がついたが、実際に姿を見たことはなかったそうだな」
「はい、護衛の姿も見たことがあるのかと尋ねたら、一度も見たことがないと言っていました」
「半日以上、その護衛は、隠形術を続ける力があったのだ」
「陰護衛ではないのですか」
陰護衛なら、主人の影と同化して潜むので、隠形術より力の費消は遥かに少ないのだ。
けれどデリオンは頭を振って否定した。
「違う、陰護衛はあり得ない。学院島は特殊な結界の中にある。陰となって潜むことはできないのだ」
「隠形術で半日以上、それを毎日となると、確かに只者ではありませんね」
デリオンは、息子へ視線を向けた。
「だが、ポルブの話では、リーユエンが氷漬けになったとき、護衛は救助に現れなかった。
それは、おそらくその時は、学院島に立ち入れなくなっていたのだろう。
そして、その後、リーユエンへ手出ししたら、その分だけきっちりお返しがあった、とあるが、それは、護衛が反撃することを認められたと言うことだ。
おそらく審査会が開かれ、立入条件の変更があったはずだ。審査会の記録を当たれば、その護衛の正体が掴めるはずだ」
なるほど、審査会の記録か、図書館で調べればいいかと、ペリオンは思った。デリオンは続けた。
「審査会の裁定に異議申し立てができ、なおかつ学院の中で直接制裁を認めさせるほどの権力者となると、実際にできそうな者は限られてくる。おそらく、リーユエンの背後には玄武がいる」
ペリオンも頷いた。確かに、今では、それが確信に変わった。
リーユエンは玄武の家付きの魔導士に違いない、正体を突き止めれば、それは学院長を抑え込む切り札となる。夏季休暇を犠牲にしてでも、絶対に正体を突き止めようと、ペリオンはプドラン宮殿から学院島へ戻ることにした。
リーユエンも学院島に戻ってきた。
翌日の朝、塔の南側の庭園で、パオディンとヨーディンが二人並んで、リーユエンから指導を受けようと待機していた。
リーユエンは中庭に出ててくると、パオディンとヨーディンへ、六尺棒を手渡した。
パオディンは、少し垂れ目加減の目を大きく見開き、両手に乗せられた六尺棒をじっと見下ろした。
しばらく経って顔を上げるとリーユエンをじっと見ながら尋ねた。
「リーユエン、俺が修行したいのは調息法と導引術だぜ、どうして六尺棒が出てくるんだ?」
リーユエンは厳しい表情で冷静に言った。
「夏季休暇の間に、パオディン様とヨーディン様は、魔導士認定階梯の、第六階梯まで修得していただくのが、目標です。そのために、まず、雑念を全て追い出していただきます」
「雑念?」
不思議そうに問うパオディンへ、リーユエンは紫眸が冷たく光る目を細めて言った。
「今でも、こんな面倒臭い修行をするより、さっさと探検へ行きたいと思っておいでなのでしょう?」
「うっ」
まさに図星を刺され、パオディンは返事もできず、ヨーディンと顔を見合わせた。
「でも、どうして六尺棒なのですか?雑念を払うなら、観想を行えば十分じゃありませんか」
押されっぱなしの主を見かねて、ヨーディンが口を挟んだ。
それには答えず、リーユエンは、今度は自分自身の六尺棒を取り出した。それを軽く旋回させると、空気がうなりをあげた。そして、六尺棒を脇に挟み込み、ピタッと止めた。
「オオッ」
二人揃って、見事な棒捌きに思わず感嘆の声を上げた。
「夏季休暇は二ヶ月しかありません。その間にさっさと第六階梯まで上がっていただきます。お二方は玄武でいらっしゃるのですから、修行に入れる状態さえ整えば、ご自身の力ですぐ階梯が上がるはずです。ただ、私のお見受けしたところ、あまりに雑念が多く、観想したぐらいでは、容易にそのような状態に心身が達するとも思えません。まず、玄武十式五十変化を修練し、心身を鍛え上げることで修行のできる状態になっていただきます」
そう言い終えるや、リーユエンは凄まじい一撃をパオディンへ見舞った。
慌てて、自分の棒で受けめたが、パオディンは数丈先まで吹っ飛んだ。
二対一の打ち合いは、数回の休憩を挟み、夕方まで続いた。
その日の夕方、パオディンとヨーディンはボロボロになっていた。
二人は涙で汚れた顔を見合わせ、「俺たち生きていてよかったなあ」と抱き合った。
身体中、手加減なしの棒の一撃で、あざだらけだった。全身が痛み、熱を持ったような状態で、何も考えられなかった。
西側の庭園にある風呂場まで、二人で支え合い、よろよろ歩いて、死ぬほど沁みる痛みをこらえ、入浴して汗と血と汚れを落としあった。
「リーユエンは化け物か?俺たち武術の心得のない素人とはいえ、一応玄武なんだぞ。
それなのに、俺たち二人がかりで打ち掛かっても全然敵わないなんて、嘘だろ?」
風呂桶に浸かったパオディンは、ぐったりして呟いた。




