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魔導士学院生は、今日も元気ですっ!(落ちこぼれ呼ばわりされても、くじけません)  作者: nanoky


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「わしは、学院で勉学したいという、リーユエンの希望は叶えてやるつもりだ。だが、卒院後は、明妃として、ずっと離宮に留まらせる予定だ。あそこにいる以上、もう、危険な目に遭う事はない」

 

 不機嫌な口調で断言しながらも、ドルチェンは、ドルーアがリーユエンに毒を無理やり飲ませたのは離宮の中であった事を思うと、自分で断言しながらも、自信が持てないでいた。


 グリムエールは、猊下の御気色が悪いことをひしひしと感じ取っていた。

 けれど、言うべきことを言わずに済ます訳にはいかなかった。


「離宮に留め置かれる事はひとまず置き、私の申し上げたい事を続けます。

 法力ですぐさま治してしまう状態が続けば、リーユエンは今知っておくべき、肉体や精神の苦痛や、自分自身の限界を知らないまま成長することになりましょう。

 それでは、他人の痛みを思いやることもできない、言い方は悪いかもしれませんが、石塊のような血の通わぬ存在と変わりありません。それは、とても生きているとは言い難い状態です。

 せめて学院に在籍している間だけでも、凡人として過ごし、己の限界を知り、助け合うことを学び、世間との関わりを持つべきでしょう」


「肉体的な苦痛を言うなら、あの火傷の痕を見たであろう。

 それに、魔獣を抑えるために神聖紋まで入れたのだぞ、苦痛なら、もう十分すぎるほど味わい尽くしておる。

 それに明妃として崇められる存在になる者が、今更、心の苦痛や、凡人の下等下劣な心情に煩わされることなど不要だ。学業を終えれば、離宮に留まり、瑜伽業を、わしとともに勤めてもらわねばならんのだ。


 己の限界を知ったり、凡人同士で助け合うだと・・・くだらないっ、そのような事は、修行の妨げだ。不要だ」

 

 グリムエールはため息を押し殺した。


(グリムエールの独白)

 猊下は尊貴のお方、公平無私のお方ではあるものの、やはり玄武、人外の存在なのだ。


 凡人の、まだ子供と言っていい年頃のリーユエンと、どのような因縁をお持ちであるのかは知らないが、あまりに冷酷な処遇だと思った。


 離宮で贅沢三昧させようが、おそらく猊下の顔色を伺い、瑜伽業の結果に一喜一憂する玄武八大公に神経を擦り減らす生活を送ることになるであろうに、その惨めさが、このお方には理解できないのだ。


 離宮に閉じ込め、幽閉同然の生活を送らせることが最上の選択と信じて疑うことがない、この愛情は溢れんばかりにありながら、どうしようもなく愚かなお方に、どう理解させれば良いのだろうか。


 猊下は、苛立たしげな調子を滲ませ、


 「一体、お前は、わしにどうせよと言いたのだ。わしの決定の何がいけないと言うのだ?」と、尋ねた。


 圧倒的な法力を持つドルチェンは、その気になれば、齢八百年越えの大魔導士であろうとも、瞬殺できる。気に入らなければ排除すれば済むことで、それが許される至高の存在であるのだ。


 けれど、ドルチェン自身は、無闇に命を奪う事をよしとしない玄武だった。圧倒的な法力は玄武の国のために使うことがあっても、己の私情のために使う事はかたく戒めてきた。ただ唯一の例外が、リーユエンなのだ。


 「猊下、わしが申し上げることがお気に召さないのであれば、どうぞ命を奪っていただいてかまいませぬ。ただ、どうか最後まで堪えてお聞きいただきたい」

 

 猊下は瞑目し、腕を組んだ。


 「わしは、法理に背く行為をせぬ限り、無闇に命を奪ったりはしない。そのような事は心配せずとも良い。言いたいことがあるのなら、全部言うが良い」

 

 グリムエールは、話した。

「自明の事ですが、玄武と凡人では、成人になるまでの過程は全く異なります。

 玄武は、親の情を知る事なく、深山幽谷の清流の中で亀として百年を過ごし、人形となった後、初めて親子の名乗りをあげ、玄武の家ごとの成員として過ごすようになると聞き及んでおります。


 けれど、凡人は生まれ落ちた時、すでに父母は定まり、親の世話を受けて育つのが一般なのです。

 もちろん、孤児になったり例外はありますが、幼い頃に同じ凡人に世話されて大きくなるのが通常なのです。

 凡人は凡人と関わることで、生きる術を学び、情も養われてゆくのです。


 リーユエンは、今ちょうど、生きるための術を学び、凡人らしくあるための情を育む時期にあります。

 今、この時期に猊下のお考えの通り、離宮に閉じ込め、凡人との関わりを絶ってしまえば、おそらくリーユエンは情を知る機会を失い、情に欠けた、石や岩、水や氷と変わりない、無機質な成人に育ってしまうでしょう。

 情を知らねば、みずみずしい花を咲かせる事はできません。乾き切った荒地の枯ればなとなるのです。


 なるほど、離宮に留め置かれれば、猊下の御心に沿う素直な方には、おなりになるでしょう。しかし、玄武国第二位の高貴な明妃が、ただあなたの顔色や反応をうかがう、奴隷に等しい存在になってしまうということでもあるのです」

 

 それは実に腹立たしい諫言だった。

 

 実際、これを聞いたのが、ドルチェン以外の八大公であれば、聞き終えた瞬間に、グリムエールは間違いなく瞬殺されたであろう。

 

 けれど、ドルチェンは千年前、生き神であったリュエの、生気に欠けた姿を実際に見知っていた。

 リュエが己の感情を表す術を知らず、密かに苦悩し、最後の、最後に、身を挺して己を救ってくれた事は、決して忘れることができなかった。


 確かに、あの時、リュエの心の動きをもっとよく分かっていれば、彼女をみすみす死なせずに済んだかもしれなかった。

 今度こそ、リーユエンを守り切るとかたく決意はしているが、確かに自分の選択が本当に正しいのか、何より、それが本当にリーユエンの幸せになるのか、ドルチェンにも迷いがあった。

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