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魔導士学院生は、今日も元気ですっ!(落ちこぼれ呼ばわりされても、くじけません)  作者: nanoky


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 ツカリーゼは話を聞いてゾッとした。


「それって発見が遅れていたら、凍死してたわよ。私の記憶では、あの夜は冬の嵐で大荒れで、その四日後にもう雪嵐が来て、森の中なんて、雪に埋もれて誰も入れなくなっていたもの」


「私は、内臓もひどく傷ついていたので、そのまま老師の塔で、厳冬休暇の間、療養させていただいたのです」


「まあ、可哀想に、大変な目に遭ったのね」

 ツカリーゼは話を聞きながら、リーユエンが一回生の他の担任を信用しないのは、学生の頃にそんなひどい経験を、実際にしたためだろうと気の毒に思った。


 あの時、リーユエンの意識が戻った翌日には、もう厳冬期特有の雪嵐が学院島でも吹き荒れた。

 強風が荒れ狂い、雪は地吹雪となり、学院島に残った少数の人々は、ただ宿舎にこもり、雪嵐が過ぎるのをじっと待ち続けた。

 

 そんな誰も出歩かない雪嵐の中、古塔を訪れた者があった。


 扉を何度も叩かれ、ようやく気がついたグリムエール老師は、昼なお暗い中、手燭を手にして一階へおり、扉を開けた。


「ヒ、ヒエェッ」

 老師は目を見開き、後ろへ数歩よろめいた。


「中へ入っても良いか」

 目の前の巨大な雪の塊から、ごく低音の声が響き、老師は慌てて扉を全開にし中へ招き入れた。

 

 訪問者は、六尺六寸近い大男だった。しかも、雪を払い除けた顔は、光沢のある細かな鱗に覆われ、人というより蛇に近い顔立ちだった。


「猊下・・・わざわざお越しになられたのか」

 グリムエールは、法座主猊下の行幸に驚愕した。


「リーユエンに会わせてもらおう。それに、そなた、ヨーダムに法力を寄越さぬよう意見したそうだが、その理由も聞かせてもらおう」

 

 猊下の用件を聞いたグリムエールは冷静さを取り戻し、深々と揖礼した。

「畏まりました。どうぞお入りください。リーユエンの元へ案内いたしましょう」


 寝台で上半身を起こしたリーユエンは、鎧戸をピッタリ閉ざした窓から聞こえる、風の唸り声に耳を済ませた。

(今って朝だよね。もの凄く暗い、夜みたいだ。きっと雪嵐のせいだ)


 すると、扉の方から足音が聞こえてくるのに気がついた。

(あれ?誰か、来る。老師の足音以外にもう一つ・・・・これって、猊下だっ)

 リーユエンがハッとした時、扉が外から叩かれた。


「リーユエン、起きておるか、お客人が来られた、中へ入るぞ」

 老師の声が聞こえた。


 リーユエンは「どうぞ、お入りください」と、返事をした。


 扉が開き、二人が中へ入ったとき、リーユエンは痛みを堪えて起き上がり、猊下へ揖礼しようとしていた。


 猊下は、驚くほど素早い動きで彼女へ近寄り、

「そんな事は不要だ。傷に障るだろう、寝ていなさい」と、言いながら、壊れ物を扱うようにそっと抱き上げ、ベッドへ寝かしつけた。


「猊下・・・ごめんなさい」

 リーユエンは小さな声で謝った。


ドルチェンは驚いて、リーユエンをのぞき込んだ。

「なぜ、謝るのだ」


「・・・気をつけなさいって言われていたのに、怪我をしてしまいました」


 ドルチェンは、頭を撫でてやりたいと思ったけれど、あいにく雪嵐の中を無理に飛行してきたため、手が冷え切っていた。

「怪我は、誰でもするものだ。今は、養生しなさい。わしは、グリムエール老師と話があるので、後でもう一度来よう」

 

 リーユエンはドルチェンを見上げて、頷いた。

 

 二人の様子を見ていたグリムエールは、猊下が、リーユエンに格別の思し召しがおありなのだ、と言っていた、ヨーダム太師の言葉は真実なのだと納得した。

 猊下の声は優しく、リーユエンを大切に思っている様子は、皆から恐れられる法座主猊下の姿とは、かけ離れたものだった。


 グリムエールは、それならば、尚のこと、たとえ第一位のお方である猊下に対してでも、言うべき事は言わなければならないと、覚悟を決めた。たとえ逆鱗に触れ、命を失うようなことになっても、すでに齢は八百年を越え、肉体は今にも滅びそうな状態なのだから、恐れる必要などないのだ。


 応接室に通され、長椅子に腰掛けた猊下は、薄緑色の目をグリムエールへ向けた。

 その眼差しは、リーユエンへ向けたものとは全く異なり、氷点下の冷たさだった。


「内臓まで傷ついている。ひどい暴行を受けたとしか思えないが、一体何があったのだ?」

 

 グリムエールは、自分がリーユエンを発見し救出したときの状況を丁寧に報告した。


 猊下は、「そなたが彼女を助け出してくれたことには礼を言う。しかし、法力を送るなと止めたのはどうしてなのだ」と、問うた。

 

 グリムエールは、最後まで言う前に、もしかしたら、自分の心の臓が捻り潰されるかもしれないと思いながらも、努めて冷静な声で言った。

「猊下が法力で完治させてばかりでは、あの子は、自分自身の本当の体の状態を知ることがないままとなるでしょう。

 猊下、よくお考えになっていただきたい。

 あの子は、玄武に比べたら、体も脆く、寿命も短い凡人です。

 学院へ通わせるにあたって、猊下は、万全の安全を目指されたのであろうと推察申し上げます。

 しかし、それでも、このような事故が起こってしまったのです。


 幸い、この度は、私が発見し、一命を取り留めることができましが、また、いつこのような事が起こるやもしれません。

 そうなると、あの子自身が、自分の体の弱さを自覚し、さらに用心を重ねなければ、将来は厳しいものとなりましょう。さらには、法力に頼り切ってしまうようになれば、万が一法力を得られない状況に陥ったとき、恐ろしい絶望を味わうことにもなりかねないのです」

 

 ドルチェンは、頬杖をつき、口をへの字に曲げた。非常に不機嫌ではあったが、グリムエールが衷心から言っている事は分かっているので、黙って聞いていたのだ。

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