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魔導士学院生は、今日も元気ですっ!(落ちこぼれ呼ばわりされても、くじけません)  作者: nanoky


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 ツカリーゼは、東三条通りと山猫筋の交差点にある、噴水広場の池の縁に腰掛けていた。

 

 昨夜、リーユエンは生徒が寝静まった遅い時刻に宿屋へ現れたが、その後、また姿を消してしまった。その短い時間に、彼女が引率の礼を言おうとするのを制し、

「明日、山猫筋の噴水広場で、十時に待ち合わせよ、壁紙と家具を買いに行くから、必ず 来るのよ」と 指定したのだ。

 

 翌日、学院生徒は夏季休暇に入り、自由行動となった。

 辺境地帯にある学院島へ帰るより、都で解散した方が、学生・生徒は家族のもとへ帰りやすいため、学院長は現地解散としたのだ。

 

 噴水水広場の時計塔が、十時の鐘を鳴らしても、リーユエンの姿は見えなかった。

 

 通りの向こうから黒いフードを被った長身の若者が、早足でやって来た。


「ツカリーゼ教授、お待たせしました」


「えっ、あなた、リーユエンなの?」

 

 ツカリーゼは、目を見開き、口を開いて、呆然となった。

 若者だと思っていたら、フードを払い退けて現れた顔は、確かにリーユエンだった。けれど、何という違いだろう。普段の厳しい表情が消え、頬は薔薇色に染まり、紫眸は艶めかしく輝いて、口元さえも、なんだか今日はふっくら艶艶して見えた。


「?」

 

 黙り込んだツカリーゼを、リーユエンは不思議そうに見た。


 それで、ようやく我に返った彼は、

「あ、あんた、ギリギリ間に合ったからいいけれど、旦那とイチャイチャしすぎて、寝坊でもしたのかって心配したわよ」と、思わず嫌味が口から出た。

 

 リーユエンは、目を見開き頬を見る見る赤らめ、視線を伏せた。

 

 女に興味のないツカリーゼでさえ、その様を見て、思わず鼓動が乱れた。

(ワッ、だめよ、こんなの、ヤバすぎる、色気ダダ漏れじゃないのっ)

 

 ツカリーゼは、リーユエンのフードを引っ掴み、頭から被せて、顔を隠した。

「ちょっと、色気漏れ漏れすぎるわよ、フードを被っておきなさい」

 

 フードを頭へ被せた時、空気の動きと共に花の香が広がった。ツカリーゼは鼻を蠢かした。昨夜も香っていたが、茉莉花の匂いがふわっと漂ってきた。


「あんた、明妃殿下と同じ香水つけてるの、これって都の流行りなの?」

 

 リーユエンはビクッとした。

「エッ、まだ匂いますか・・・」


 ツカリーゼは、フードからこぼれ落ちたリーユエンの髪を一房手にとった。

「あら、それに髪の毛、ツヤツヤじゃないの、美容院にでも行ってきたの?」

 

 髪は艶やかで、しっとりひんやりとした手触りで、鏡のような光沢があった。


「ちょっと手入れをしてもらったもので・・・」


「ふうん、あんた、本当はいいお家の奥様なのね」

 

 もう核心に迫りそうで、ヒヤヒヤしたリーユエンは、慌てて話題を変えた。

「今日は、壁紙と家具を見に行くんですよね。どこの店に行きますか?」

 

 リーユエンの問いに、ツカリーゼは

「マッテオ兄弟商会へ行きましょう。あそこなら、全て揃うでしょう」と言い、歩き出した。


 タロナは、夏季休暇をウラタナ村で過ごす予定だが、その前に曽祖母と母と待ち合わせし、都見物に行くことした。


 信玄袋を背中に斜めがけしたタロナは、約束の待ち合わせ場所である噴水広場へやって来た。その時、ちょうど、ツカリーゼとリーユエンが話をしながら、噴水広場の向こう側から歩いてきた。


 タロナは、フードを被って顔を隠していても、リーユエン先生を見つけ損なったりしない。美しい颯爽とした歩き方で、すぐ先生だとわかった。


「リーユエン先生!」

 タロナは、駆け出した。

 

 自分を呼ぶ声に振り返ったリーユエンは、タロナに気がついた。

「タロナ」

 

 満面笑顔のタロナは、リーユエンの側で急停止し、彼女を見上げた。リーユエンはタロナを見下ろし、「昨日は、よく頑張ったね」と、声をかけた。


「あれ?先生、見てたの?」

 不思議そうに見上げるタロナへ


 「少し時間ができたから、会場へ入って見ていたわ」

 まあ、見ていたのは嘘じゃないからいいだろうと思い、リーユエンは答えた。そこへ、


「タロナ、待たせたね」と、曽祖母のタルタネアと母親のアイナが、向こうから歩いてきた。

 

 タロナは、「大おばあちゃんとお母さんだ」と、うれししげに声を上げた。

 

 リーユエンは、フードを脱ぐと、タルタネアとアイナへ、

「タルタネア様とタロナのお母様へ、ご挨拶申し上げます、タロナの担任リーユエンでございます」と、丁寧に揖礼した。

 

 アイナは、美しいリーユエンに真っ赤になり、

「偉い先生に丁寧なご挨拶いただいたら、恐縮ですよ」と、狼狽えた。


 けれど、曽祖母のタルタネアの方は、リーユエンの顔に視線が釘付けとなった。

(ええっ、どうして、この女が担任なんだい?一体どういうことだい?)

 

 共情治療士のタルタネアは、患者として一定の割合で紛れ込んでくる、極度に嗜虐傾向が強い者や、治療不可能な偏執症状を持つ者など、外観からは分かりにくい危険な患者を避けるため、優れた骨相鑑定術を身につけていた。

 彼女には、リーユエンという教師が、昨日、猊下の横にいた、あの贅を尽くした白金に輝く女と同一人であることがすぐに分かったのだ。

 

 リーユエンは、タルタネアの微妙な表情の変化に気がつき、曽祖母に正体を気づかれたのかも知れないと恐れた。けれど、今は、あくまで、ひ孫の担任の身分で通してしまおうと思った。

 

 リーユエンは、母親のアイナへ、

「タロナは、前期は、大変真面目に努力していました。後期も真面目に課題に取り組んて、一層成長することと思います」と、にこやかに話しかけた。

 

 アイナは、担任が娘を褒めるので、すっかり感激した。

 

 傍で見ていたツカリーゼは

(何、何、何、どうなってんのよ。いっつも無表情で、何考えてんだかわからないリーユエン先生が、こんなに愛想笑い浮かべて、保護者と和やかに会話するなんて、随分世慣れた態度で、私には真似できないわ)と、驚いた。

 

 タロナも、リーユエンが褒めてくれたのが嬉しくて、ぴょんぴょん飛び跳ねた。

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