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リーユエンは、三年以内に卒院の約束を果たすため、学院受験の前にドルチェンと、調息法や導引術の修行に励み、ヨーダム太師が、正式に階梯認定試験を受ければ、第五階梯到達者として認定されるだろうと断言するまでに上達した。
(猊下の指導は荒っぽいから、何度心臓が止まったかわからない。その度に法力を入れて蘇生させるから、何回生き返ったかわからないほど辛い修行だった)
リーユエンは、入学してから、自身でいろいろ調べ、単位を計算し、自分が履修すべき科目を、最短で全て履修する方法を検討し、順調に履修すれば二年で卒院できると見込みを立てた。
その日の午後は、演習林の中で、『魔獣調整学』の実技試験が予定されていた。
リーユエンは、正真正銘の魔獣(無調整の野生の一番凶暴なやつ)を使役していたが、それは秘密にして隠していた。そうしておかないと、魔獣調整学のピセツキー教授が知ったら、調整しようと取り上げてしまうからだ。
リーユエンの使役する魔獣は、対価に生気を求め、しかも大喰らいだった。そのため、魔獣から生気を奪われるリーユエンの体はガリガリに痩せて肉つきが悪かった。ピセツキー教授に取り上げられて調整してもらった方が、本人のためには良さそうなものだが、魔獣は魔窟に堕ちたリーユエンを助け出し、ウマシンタ川まで連れていってくれた命の恩人なのだ。生気を奪われても、魔獣を手放すのは、恩人を裏切るような気がして、リーユエンは魔獣に学院の中では決して顕現するなと、命じていた。
実習会場に着き、しばらく待つうちに試験の開始時間となり、ピセツキー教授が壇上へ上がり、受験生へ、試験の説明を始めた。
「今日の試験は、魔獣の捕獲と運搬だ。この森の中に魔獣を二十頭放している、それを捕まえて、ここまで運んできなさい。方法は問わない。一頭も捕まえられなければ、不合格だ。複数で協力しあって捕まえることも認める。なお、捕獲中の事故、負傷は、諸君で対処するように、どうしても手に負えない事態以外、私は介入しない」
説明が終わるや、学生たちは森の中へ散っていった。リーユエンも、森の中へ分け入った。
(今日の受験生は三十人いた。一人一頭なら、十人分足りない。グループで捕まえるのを前提にした頭数なのかな)
森の中の魔獣の気配を探りながら、リーユエンはトボトボと歩き続けた。木漏れ日が時たま、顔に降り注ぐと、リーユエンは右目を顰めた。まだ目の具合が本調子ではなくて、眩しくて涙が滲んだ。
ハンカチを取り出し、目元を拭いている姿を、遠くから見た上級生は、
「あいつ、途方に暮れて、泣きべそをかいてるぞ。ざまあ見ろ。調息や導引が少しくらいできるからって、あんなチビが、魔獣調整学の実習に参加するなんて生意気なんだよ」と、悪口を言った。
けれど、もし彼が、リーユエンの作戦を知っていたら、絶対彼女と組みたいと思ったに違いない。
学生たちが、魔獣を探し回る一方で、魔獣の方も学生たちの周りを密かに徘徊し、様子を伺っていた。
魔獣にも知能の高いものもいるし、魔獣調整学の実技試験は毎年ほぼ同じ内容なので、学生たちが森中に散らばり、何をしているのかは、魔獣の方もよく心得ていた。だから、魔獣の中には、学生を揶揄おうと待ち構えているものもいた。
学生たちは何人かのグループに分かれ、電撃棒や巨大なタモ網、投げ網など、さまざまな対魔獣用魔道具を手に魔獣を探し求めた。知能の高い魔獣は、彼らの前に突然姿を現し
「ガオオォォーっ」と、一声鳴くやサッと隠れて、撹乱させた。
「あっ、今のは、魚目赤毛猿大穴熊だ。追いかけろっ」
頭部が赤毛の猿で、目玉は大きな魚眼、体は頑丈な黒か焦茶の長毛に覆われた体長四尺ほどの穴熊だった。知能が高く、一頭の雄が数頭の雌を従えて行動する魔獣だった。
リーユエンはそれを遠くから醒めた視線で眺めた。
(頭が赤毛の大穴熊は、もともとは、人を誘い出して喰ってしまう妖魔の類だ。動きは敏捷だし、悪知恵が回るから捕まえるのは大変なのに・・・)
そんなことを考えながら、一人森の中へ分け入った。完全に無人の、最近古木が倒れて、広々とした草地となった場所を見つけると、その古木に腰かけた。
(そろそろ、誘い出してみようかな)
誰もいないのをもう一度確認し、リーユエンは懐から親指ほどの大きさの小瓶を取り出した。
(へへっ、この瓶の中には、精製水と、指先を針でついて採取した、私の血の一滴が入れてあるんだ。これで何かが寄ってくるはず…)
リーユエンは白いハンカチを取り出し、それに瓶の中身をこぼして、ひらひらと動かした。すると空から、力強い羽ばたきで風を巻き起こし、双頭の巨大な蛇食い大鷲が降下してきた。
双頭の大鷲は地上へ降りると、二つの頭を傾げ、リーユエンを値踏みするようにじっと睨んだ。リーユエンは今度は懐から、三日前に捕まえて燻製にした蛇を丸ごと取り出した。
「お近づきの印にあげるよ。燻製にしたんだ」
それはリーユエンの腕の太さと胴回りが同じくらいの三尺ばかりの蛇六匹の燻製だった。双頭の鷲はそれぞれの頭で三匹ずつあっという間に丸呑みにした。
「ねえ君たち、私を実習会場のピセツキー教授のところまで運んでくれないかな」
巨大な鷲は双頭を上下して、リーユエンの前で嘴をカチカチと鳴らし、翼をバサバサと広げ、威嚇した。
「わしにものを頼むとはいい度胸だな」
リーユエンは肩をすくめ、
「魔獣を捕獲して運搬しろって言われたけれど、君たちが私を運んでくれたって構わないよね。君たちみたいな強い魔獣を捕獲するなんて、恐れ多いことだもの」と言い、ニヤッと笑った。




