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ポルブは、酒をあおると続けた。
「最初は、あいつの教科書や筆記用具を盗んだりさせられたんだ。その程度なら、大したことないだろうと思って、数人で何回か盗んだ」
ペリオンは、くだらないことに熱心な奴らだと呆れたが、顔には出さなかった。
「それで、教科書なんか盗られたら、彼女は困っただろう?」
ポルブは、鼻を鳴らした。
「ふんっ、あいつはすぐ取り返した。あの頃は、どうやって取り返したのか不思議だったが、今になって考えると、あいつには、護衛がついていたとしか思えない。教科書も筆記用具も、魔法で封印して隠しておいたのに、そこからいつの間にか消えて、元の場所へ戻っていた。あいつが、授業中で身動きできない間でも、元に戻っていたから、誰かが戻したとしか思えない」
「やったのは、それだけなのか。そんなのダメージを与えるほどのものじゃない。留年した不良連中なら、もっと質の悪いことを思いついて実行したんじゃないのか?」
「・・・・・」
またもや当てずっぽうで言ったのだが、これも図星らしくポルブは話すのをやめた。
ペリオンは、ポルブの耳元で囁いた。
「リーユエンは、今、学院に戻ってきて、俺と同じ第二回生の担任をしている。当主は、リーユエンが何者なのか、素性を知りたがっていらっしゃる。おまえが、有益な情報をもたらしてくれたら、当主の覚えもめでたくなる、だが、分かっているだろうが、役に立たないものを切り捨てるのは、躊躇わないお方だ」
ポルブは、在学中のリーユエンのことなど話したくなかった。けれど、サラザルの家から切り捨てられたら、今にも魔力が枯渇しそうな自分は、全く無力で、生活できなくなるのは明らかだった。凡庸な自分が、サラザルの名がなければ、魔導士としてはやっていけないことはよく分かっていた。結局、ポルブは知る限りの、在学中のリーユエンについて、話し尽くすしかなかった。
「一回生の終わり頃、リーユエンは二週間連続で学院を休んだことがあった。あいつが出てきた週から試験期間だった。みんな、あいつは試験勉強がしたくて、講義をサボったんだろうと噂した。だが、あいつは戻ってきた時、目が見えにくそうだった。それに気がついた奴が、廊下で足を伸ばしたら、見事に引っ掛けられた。無様に転んだと思ったのに、廊下にふわりと四つん這いで着地した。その尻を蹴飛ばそうとしたら、そいつの尻を誰かが思い切り蹴飛ばしてきた。振り返っても誰もいない。多分、それは見えない護衛の仕業だったんだと思う」
ペリオンは、首を傾げた。
「学院島の中は、登録した者以外は、立ち入れないはずだ。見えない護衛なんて、あり得ないだろう」
「そうだな、それは最大の謎だ。だが、確かに誰かがあいつを守っていた。そうでないと、何度か大怪我をしていたはずだ。あいつは七回生のカスパルにまで目をつけられていたんだ」
「カスパル?」
「黄色の色眼鏡をかけた、アオサギ族の嫌な野郎だった。七回生で、親父が玄武国の高官だったから、徒党を組んで偉そうにしていたんだ。どういう訳だか、あいつはリーユエンのことを激しく嫌っていた。嫌がらせばかりして、学院から追い出そうとしていた」
その当時、リーユエンは、兌陰大公の孫娘ドルーアに毒を盛られ一時的に失明し、一週間欠席した。ドルチェンが法力を入れて治療し、ようやく見える状態になったが、視力は完全には回復しておらず、まだ輪郭がぼやけて見えていた。
ある日、次の試験の開始時間が迫り、急足で歩くリーユエンは、上級生が伸ばした足に気がつくのが遅れ、自分の足を引っ掛けてしまった。
「あっ」
そのまま、地面へ顔からツッコミかけたが、隠形していたダルディンが、法力を飛ばし無事に着地させた。
「おい、チビッ、何やってんだっ、痛いだろうがっ」
わざと足を出した上級生は、リーユエンが悪いとばかりに、立ち上がりかけた彼女のお尻を蹴飛ばそうとした。
それを見たダルディンは、上級生のあまりの質の悪さに腹が立ち、そいつの尻を蹴飛ばしてしまった。ダルディンは、凡人との諍いには干渉しないという条件で、学院島への立ち入り許可が下りていた。ところが、思わずやってしまったこの行動のために、規約違反と判定され、許可を取り消されてしまった。
許可の再申請を出したが、審査会を通す必要がある。その審査会は月に一度しか開かれない。審査会までの二週間、試験期間中で欠席したくないリーユエンは、やむなく、護衛なしで学院の中で過ごすこととなった。
黄色の色眼鏡をかけたカスパルは、学院在籍七年目、アオサギ族の中でも、先祖代々魔導士を輩出した名家の一員だった。鳴物入りで入学したのに、第二階梯を目指す修行でつまずいてしまい、学科の成績は優秀なのに、卒院できないまま七回生となっていた。
自分とは対照的に、導引術も調息法も究め、指導の余地なしと教師に言わしめ、すでに第三階梯以上と噂されるリーユエンの存在は、カスパルにとって目障りでしかなかった。
学科の成績も良く、落第しかけた者へカンニング道具を貸したり、他にも魔力が一時的に増す薬を融通したりで、カスパルに逆らえない学生は数多くいた。カスパルは、彼らを使嗾し、リーユエンを追い詰め、学院から追い出そうと画策した。
翌々日、リーユエンは、魔獣調整学の試験会場、森の中の演習場へ急いでいた。
(もう疲れた。やっぱり『三年で卒業計画』へ変更しようかな・・・二年で卒業は無謀だったかも、でも学費が勿体無いよな。一年分あれば、交易の費用に回せるもんなあ)
顔の半分は火傷の痕があり、黒いフード付き外套をいつもまとう無表情なリーユエンは、陰気臭いチビだと思われていた。けれど中身は、メンタル強強、転んでもただでは起きない不屈の子供だった。
玄武国へ初めて来たとき、兄弟同然のジャガー族のカリウラと、狐狸国で仕入れた薬剤を運び込み、高値で売り捌き、大儲けしたほど度胸がある。
実はリーユエンには先見の能力があり、未来のことが見通せるのだ。その能力で、仕入れを巧みに行い、狐狸国の面々と交易を行い、もう何度か驚異的な利益を叩き出していた。だから、少しでもまとまった金があるのなら、交易に回したいのだ。
それに早く卒院したいのには、もう一つ事情があった。




