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(リーユエンの独白)
第三クラスの演技が終わった。
怪我人も出なかったし、五人とも予想以上に頑張ってくれた。すぐそばへ行って、褒めて褒めて、褒め倒したかった。けれど、今は明妃活動中なので、それができないのが、実に残念だ。
あの法陣は、プトラン宮殿の地下都市で営業する、モグラ爺さんの古書店で買った、古い魔導書で見つけた法陣だ。
法陣にも流行があり、昨今の流行は、攻撃・防御に特化した実用一辺倒で、あのような観賞用の法陣には人気がない。けれど、仮に失敗しても実害がないし、成功すれば華やかで見栄えがするから、歓迎式で生徒が行うには、調度いいかなと思った。
ただ、問題もあった。
本来なら、宝相蓮華を咲かせる法陣を、何人もの魔導士が一気に何十個も空へ打ち上げて、光の華を空から散華させる仕様なんだ。けれど、未熟な生徒に、そんな術はできないから、蓮華のサイズを大きなものに変更し、法陣も単純なものへ分解し、五回重ねがけすることで術を作動させ、一輪だけを、最後に完成させ、その華から散華するよう仕様変更したんだ。術式を一から組み直すのと同じだったから、結構面倒だった。
それに練習期間も気を使った。
まだ未熟な生徒の霊力や魔力をむやみに費消させると、気脈が痛み体を壊してしまう。だから、最初の半月は、調息法と導引術、二つの基礎訓練に費やし、後半の半月は導引術の中に調息行気を取り込み、意識しなくても両方できるまでにした。そして、最終の二週間だけ、霊力を使う指導期間にした。
第一クラスや第二クラスの子は、一ヶ月以上も魔力発動の練習をしたせいで、随分疲れた様子だったけれど大丈夫だったのかな?魔力発動って、結構体力消耗するんだよ。
たった二週間の実践練習では、失敗しても仕方がないと思っていたけれど、生徒たちは一致団結し、見事成功させた。猊下も大層喜んでいらっしゃったので、本当によかった(嬉)
二回生模範演技終了の後、三、四回生の模範演技、そして専門課程学生による模範演技が続いた。それと並行して、学院主催の前夜祭として、広場の中で学生主催の屋台や見せ物小屋が出店した。
「氷、氷をもっと作れ、かき氷が爆売れだあっ」
「きゃー、ツカリーゼ先生のフィナンシェ、おひとり様三十個まででお願いします」
「はーい、皆さん、調整魔獣、氷原じゃこう牛の生乳から作ったアイスクリーム、整理券をまずもらってくださーい」
「冶金錬成術で作った守護魔石のペンダントはいかがですか、お値段お得ですよう」
「八卦法陣学による八卦占いはいかがですか、よく当たりますよう」
「傀儡術クラブの人形オークション、もうすぐ始まります。落札希望者は、あちらで参加申し込みにご記入願います」
大勢の人々が、初夏の長い白夜を、そこで楽しんだ。
そして日没後、出店の撤収が行われ、その場で解散式が行われた。
ゴドロフ学院長が、集合した学生・生徒たちを見回し
「それでは、ここで解散し、夏季休暇へ入る。下半期も、諸君たちのますますの刻苦勉励精進を期待しておる。夏季休暇を楽しみなさい」と、上半期終業を宣言した。
その夜、都の薄暗い横丁の一角、間口の狭い古びた酒屋へ入るペリオンの姿があった。
外と同じく薄暗い、カウンター席のみの店内に、目的の男がいるのを確認すると、その隣に腰掛けた。
「久しぶりだな、ポルブ」
盃を持ち無精髭を生やした男が不機嫌な顔で、ペリオンを見上げた。目は充血し、目の下には隈がある。無理な魔力出動を続けたために、体が悲鳴をあげ、魔力不足を補おうと、魔力覚醒薬に頼り続け、中毒症状一歩手前のポルブの姿に、ペリオンは眉を微かに寄せた。
「・・・なんだ、本家の若様が俺に何の用だ?」
そう言いながら、グラスをつかむポルブの手は震えていた。彼は、もうすでにアルコールの奴隷状態だった。
ペリオンは、店主へ黒ビールを注文し、それに口をつけ喉を湿らせた。
「ポルブ、お前が学院にいた頃、リーユエンも在籍していただろう。どんな奴だった?」
「・・・そんな奴は知らん」
ポルブは仏頂面で酒を一気に飲み干し、立ちあがろうとした。けれど、その足は縫い付けられたように微動だにしない。怒りに顔を歪め、ポルブはペリオンを睨みつけた。
ペリオンは、肩をすくめ薄笑いを浮かべた。
「悪く思うな。お前の影を縫い付けたのは、当主から直々に調べろとご命令を受けているからだ。お前の在籍期間と、リーユエンの在籍期間は重なった時期がある。たった二年で学院を卒院した伝説の神童だ。おまえが知らないはずがない」
そう話しながらペリオンは、酒の追加を注文し、ポルブの前においた。ポルブはそれをまた一気にあおった。
「あいつの事なんざ思い出したくもない。あいつは魔物だ」
憎々しげな口調に、ペリオンは左眉を上げた。
「随分、嫌っているんだな。何か、あったのか。まさか、虐めたら仕返しにでもあったのか?」
当てずっぽうで言ったのだが、図星だった。ポルブの顔はどす黒さを帯びて赤らんだ。
「あいつの情報を集めているんだ。何でもいい、お前の知っていることを話してくれ」
ポルブはグラスを握りしめ、歯軋りした。
「あのチビは、陰険な野郎だ」
ペリオンは、驚いた。
「チビ?チビだったのか、どれくらいの背丈だった?」
「ふんっ、俺の胸にも届かない、まるっきりガキだ。それにガリガリに痩せていた。顔の左半分は紫色に焼け爛れて、不気味だった。あんな奴がどうして学院へ入れたのか、皆、不思議がっていた。けれど、調息も導引も、教師は、皆、教えることがないと言って、すぐさま五、六回生の専攻学科へ進んじまった。俺たちなんか、ごぼう抜きにしてだ」
ペリオンは、今の姿とは似ても似つかないリーユエンの風貌の説明を聞いて、それは同名の別人なのだろうかと疑ったが、導引術や調息を完全に習得していたというのなら、やはり同一人なのだろうと考え直した。
「それで、おまえはリーユエンと関わったのか?」
「あいつはお高く止まって誰とも付き合おうともしなかった。だが、五、六回生や、何回も落第している七回生以上の連中は、あいつのことを面白く思わなかった。演習中も陰で、嫌がらせをしていたんだ」
ペリオンは黙ったまま、ポルブが話を続けるのを待った。
「俺は関わりたくなかったが、七回生以上の連中から、おまえらも参加しないなら、演習で失敗させるぞと、脅された」
こんな話をしながら飲む酒はまずいだけだ。ポルブの眉間の皺はますます深まった。




