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魔導士学院生は、今日も元気ですっ!(落ちこぼれ呼ばわりされても、くじけません)  作者: nanoky


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(5)

 離宮内の猊下専用の客間に移動したふたりは、そこで猊下を待った。

 

 一時間ほど過ぎた頃、空気に重みが増したように感じ、強力な法力が圧となって波のように押し寄せてきた。そして、暗めの鬱金(うこん)色の燕尾(えんび)帽、薄墨色の長衫に、利休鼠色の袍をまとう、長身で隆々たる体躯のドルチェン猊下が、入ってこられた。

 

 ふたりは、立ち上がり、猊下へ深々と拝礼した。猊下は右手を振り、

「ここには私用で来ておる。礼儀は不要だ。楽にせよ」と、言った。そして、椅子へ腰掛けると、膝の上で手を組み、ふたりへ、薄緑色の、宝石のように透明な光を放つ目を向けた。


「太師、わしに用があるそうだが、何だ?」

 

 猊下は、いつも単刀直入に下問する。

 玄武国第一位の法座主は、誰にも気兼ねをする必要がないのだ。だが、ひとつだけ例外があり、それが最愛の妃、明妃であるリーユエンだった。

 

 ヨーダムは、猊下の弱みを十分知り尽くしているので、今回は、そこを突破口にするつもりだった。

「先ほど、ウラナから聞いたのですが、狐狸国のミンズィが明妃と話をしたそうですな」

 

 端正で精悍な猊下の顔の中で、形のよい眉が微かに中央へ寄り、うっすら縦皺が現れた。


「明妃殿下は、()(ところ)に長く留まるのを、好まれないお方です。ミンズィの話に心を動かされたのではありませんかな」

 

 猊下は、今度は、太師をはっきりと睨んだ。並の凡人なら、それだけで気絶したかもしれないが、ヨーダムは齢七百年越えの大魔導士である。人外の大玄武に睨みつけられても平然としていた。けれど、その横では、学院長が、ヨーダム、頼むから、猊下に喧嘩を売るような真似はやめてくれと、内心で(わめ)いていた。


「ヨーダム、あてこするような言い方はやめて、早く用件を言え」

 猊下は、圧を込めて、低い声で静かにうながした。

 

 ヨーダムは椅子から立ち上がり、猊下の前へ進み出ると、跪拝した。学院長も慌ててそれに続いた。

「猊下、明妃殿下:リーユエンを魔導士学院へ、遣わしていただきたいのです」

 

 ドルチェンは、こめかみを手で揉んだ。

 

 ヨーダムが来ていると聞いた時から、嫌な予感しかなかった。その予感が的中した。どうして、離宮に来る者、来る者、皆、揃いも揃って、明妃に頼み事をするのだろう。

 

 明妃は、わしの妃、明妃に頼み事をしていいのは、本当ならわし一人だけ、明妃が頼み事のために時間を使っていいのは、わしだけのはずだ。それなのに、彼女の時間は、他の者の頼み事のためにどんどん削られていき、最近では、一緒に過ごす時間さえ十分取れない有様なのだ。

 それなのに、ヨーダムの奴め、明妃を魔導士学院へ派遣しろだとっ…

 

 ドルチェンの眸は縦長に変じた。しかし跪拝から起立したヨーダムは続けた。

「猊下、お腹立ちは、ごもっともだと思います。けれど、離宮へ閉じ込めようとなさっても、リーユエンは、おそらくまた交易へ旅立ってしまいますぞ。それならば、魔導士学院へ派遣した方が、玄武国内に留まるのですから、猊下のお心に叶うのではございませんかな」


 ドルチェンの顔に微かな逡巡が現れた。それは本当にごくわずかな変化であったけれど、長い付き合いのヨーダムは見逃さなかった。

 

 ドルチェンは、ヨーダムが見破ったとおり迷っていた。

 

 国外へ交易に出してしまえば、危険が多い、それに大牙の国で母親の死の真相を知ったリーユエンは、表面には出さないけれど、心の傷は深かった。まだ、その傷も癒えない精神状態で、遠出をさせたくなかったし、それに、一旦国外に出してしまえば、リーユエンを我が妻だと公言する、あの東海大帝がいつ現れるやもしれない。やはり、どのような手段であろうとも、玄武国内に留めておきたかった。


「一体、明妃を派遣したいとは、どういう事情なのだ?」

 

 その言葉に、学院長は進み出て、猊下へ、二回生クラスのクラス編成表と、指導計画書を、恭しく差し出した。


「猊下、どうぞ、ご覧ください。そして、我らの苦衷をお察しください」

 

 猊下は渋々といった(てい)で書類を取り上げた。

 

 ヨーダムは、内心、よしっと拳を振り上げた。

 

 猊下は、法力があまりに強大なため、恐ろしいお方だと思われているが、実際は面倒見のよい、おおらかで優しい玄武だった。魔導士学院の窮状を理解されれば、必ず救いの手を差し伸べてくださることは間違いなかった。

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