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「あっ、バレたか」と、パオディンは苦笑いした。そして、
「俺は、大工仕事が得意なんだ。リーユエンには、ものすごく世話になってるから、ここの修理も手間賃はタダで請け負ったんだ」と話した。
ツカリーゼは、(ハハーン、やっぱりリーユエンは、玄武と何か繋がりがあるのね)と思った。けれど、下僕ではなさそうだ。
何となく表情から察したパオディンは
「リーユエンと俺はマブダチなんだ。俺の魂は、リーユエンが救ってくれたからな。この程度の恩返しじゃ全然足りない」と、明るく宣言した。
リーユエンは、(それ以上言うなっ、ツカリーゼ教授に感づかれたらどうするんだ。頼むから、もう、黙っていてくれ)と冷や冷やする思いで、青筋が立ちそうなこめかみを揉んだ。
ツカリーゼは、受け皿に茶碗を戻すと、リーユエンへ訪問の目的を切り出した。
「リーユエン先生、昨日、あなた、何だかお悩みがあるように見えたから、様子を見に来たのよ。一体どうしたの?」
リーユエンは紫眸をツカリーゼへ向けた。陽光に煌めく紫眸は神秘的な色合いに輝いたが、そこには苦悩の色が見えた。それに気がついたもう一人、ロージーが口を挟んだ。
「リーユエン先生は、旦那様のご用と学校行事が重なってしまい、お困りでいらっしゃるのですわ」
リーユエンは、口をパクパクさせたが、何も言葉が出なかった。
ツカリーゼは、目を見開き叫んだ。
「リーユエン先生、あなた結婚してたのっ」
ロージー以外の生徒も仰天した。
「先生、人妻なんだ」(モンシェン)
「先生、旦那さんいるのか」(マルテン)
「先生、いつ結婚したの」(ハンツォン)
「旦那様はどんな方ですか」(タロナ)
ロージーは立ち上がり、掌を優雅に上下させ、皆に静かにするよう促した。
「リーユエン先生の旦那様はとってもご立派なお方なんです。それで、公の行事が叙勲のある日と重なってしまったの。旦那様のご予定の方が先に決まっているので、今更予定変更もお願いできないし、奥様であるリーユエン先生は、この行事の間中、旦那様とご一緒しなければならないの。それで、引率が途中からできなくなるので、どうしようかとずっと悩んでおいでなのです」
(うわぁぁ、サンロージア、ギリギリ、きわきわの説明ありがとう)
内心ロージーに感謝しつつ、リーユエンは、引き攣り笑いを浮かべ、
「その行事も都の中で行われるので、途中までの引率はできるのですが、前日と当日がどうしても無理で、悩んでいます」と、付け足した。
ツカリーゼは、その説明で納得したが、さらに問うた。
「学院長には相談したの?」
リーユエンは口をへの字に曲げた。
「相談しました。そうしたら、師兄のワリーロフ教授に頼んだらどうかと・・・」
「はあ?あんな冶金錬金術馬鹿の先生に、二回生の引率なんて務まるわけないわよ」
「・・・ですよね、私は担任なので、責任を果たさなければならないのはわかっておりますが、夫の用事は公のものなので、学校行事を優先させるのは難しくて・・・」
ロージーは立ち上がり、
「さあ、パオディンさんとヨーディンさんは作業にお戻りくださいな、私たちは茶碗を片付けてしまいましょう」と、他の者たちをその場から遠ざけ、自分も離れた。
ツカリーゼは、試しに意見を言った。
「同学年の担任たちに引率を頼めばいいんじゃないの?仲が悪くて頼む気がしないの?エスメルはともかく、ペリオンなら大丈夫でしょう」
しかし、リーユエンは首を振り、躊躇いなく言った。
「生徒五人を、代替先も見つけないまま、いきなり寄宿舎から追い出そうとしたエスメルも、それを黙って傍観したペリオンも信用できません。あんな無責任な先生方に私の受け持ち生徒の引率をお願いしたくありません」
ツカリーゼは、リーユエンが見せた一面に非常に驚き、感心した。
(いっつも冷淡に見えるから、生徒のことなんか、どうでもいいのかと思っていたけれど、そんな事なかったのね。すっごく責任感強いじゃないの。それに単なる好き嫌いで、他の担任を忌避していたのではなかったんだわ)
「なるほどね、確かにあなたの言うことは、一理あるわ。寄宿舎追い出しの件は、話を聞いた私も酷いと思ったもの」
ツカリーゼは、リーユエンのことを、ますます好ましく思えてきた。それで、最初は予定もしていなかったことを決意した。
「わかったわ、そういうことなら、その二日の間、私が引率してあげるわ」
「えっ!」
リーユエンは、また固まった。
「もう、なんて顔するのよ、私はよく気がつくし、傀儡術が使えるから、他の用で生徒と一緒にいない時でも、傀儡で目を光らせて置けるのよ。だから、生徒の安全は保証するわ」
「本当に、お願いしてもよろしいのですか?」
「ええ、構わないわよ。可愛いおチビちゃんだったあなたが、こんなに立派な先生になって、学院に戻ってきたのだから、あなたの生徒ちゃんたちの面倒を見てあげるわ」
「へっ、可愛いおチビちゃん?」
リーユエンは、何のことかわからず混乱した。
ツカリーゼは、リーユエンを斜めに見て、ニヤリと笑った。
「あなた、よく冶金錬金術科の研究棟へ出入りしていたじゃない。火傷の痕が綺麗に治ってよかったわねぇ」
「先生・・・私のことをご存知だったのですか?」
「もちろん知っていたわよ。あなた、大きな本を抱えてリスみたいにちょこちょこ歩いて、お人形みたいに可愛らしかったじゃない。でも、話しかけようとしてもいっつも、すっとどこかへ消えてしまうのよ。もしかして、私のこと避けていたの?」
リーユエンの表情が、また固まった。
「やっぱり、避けてたのね。どうしてなのよ、あなたが神童って言われるほど優秀な生徒だって知っていたら、絶対私の弟子にしたのに〜」
(うわっ、ツカリーゼ教授は、やっぱり拗らせたら大変そうだわ)
逞しい体を、悔しさに身悶えさせるツカリーゼを横目に、リーユエンはため息を押し殺した。




