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(リーユエンの独白)
また、頼まれごとが増えた。こんなの最初に聞いていたのと違いすぎる…
私は、叙勲授与式も、その後の歓迎式典も、猊下とご一緒に、明妃として臨席しなければならないのに、私が不在の間、生徒の引率を誰にお願いすればいい?
学院長は師兄のワリーロフ教授に頼めばいいなんて、呑気なことをおっしゃるけれど、あんな融通の効かない、冶金錬金術馬鹿(師兄、悪口をどうかお許しください、だって、本当のことだからしょうがないし…)に、第三クラスの、しかもサンロージアまでいるのに、任せられるわけないだろっ(怒っ)
これから、集団演技の指導もしなきゃならないし、私は一体どうすればいいの(嘆)
その日の晩餐も、二回生担任の空気は冷え切っていた。
エスメルは、模範試合で完敗してから、リーユエンのことを妙に意識しすぎて、会話ができなくなっていた。
ペリオンは、情報通のサラザル一門である自分が、名士の親族であるタリナを見逃していたショックから、まだ立ち直れないでいた。
リーユエンは、プドラン宮殿に行ったあと、自分が準備も含めたら、おそらくまる二日不在となる間、生徒たちの引率をどうすればいいのだろうと、引き続き頭を悩ませていた。三人が三様、暗い表情だった。
それを眺めたツカリーゼは、
(どうしたの、三人とも黙り込んで・・・全く今年の二回生担任同士の人間関係は最悪ね。まあ、同学年の担任同士仲が良くないなんて、ドロメルとサラザルがいがみ合う影響で、珍しいことではなくなったけれど、でも、そうだとしても変よ。エスメルに完勝したリーユエン先生まで、元気がないなんて、どうしてなのかしらね)と、不思議に思った。
翌日、その日は、月に三回ある授業が休みの日で、寄宿舎の学生は、皆、掃除や洗濯、それに購買部へ日用品の買い出しに行ったり、苦手科目の復習に励む日だった。
ツカリーゼは、軽くパリッとした食感に仕上げたパイ生地に、特製カスタードクリームを交互に何層も重ね、仕上げは粉砂糖を振りかけた、自信作の、大きなクリームパイを手土産に、森の中の魔導士塔を訪れた。
今日は防音結界もなく、パオディンとヨーディンは学院の休養日も関係なく突貫工事中だった。
生徒たちは、西側の庭園で、浴場の清掃と衣服や寝具の洗濯、そして、リーユエンは南側の庭でロージーと二人で、洗ったシーツを干していた。ロージーは声を潜め
「リーユエン、都へ行ったら離宮へ戻るんでしょ?」と、尋ねた。
リーユエンは、それよりさらに小声で、
「ギリギリまであなた方と一緒にいるつもりだけれど、式典の前日と当日の二日間は、一緒にいられないと思う」と答えた。
「そうよねぇ・・・その間どうしようかしら、私は、家族へ、都に行きますと、今朝、手紙をコクマルカラス便に頼んだの。それを読んだら、誰か見に来てくれるかもしれないわ。お兄様が来てくれないかしら」
ロージーは意味ありげな上目づかいで、リーユエンをチラッと見た。けれどリーユエンは、無反応だった。
(もう、リーユエンったら、お兄様のこと、今だって好きなんでしょう?)
その時、庭の向こうの茂みで、枝がパキッと割れる音がした。リーユエンは、ハッとして、そちらの方を見た。それは、何か重いものが枝を踏みつけて割れる音だった。
すると、上空から蝙蝠の翼を羽ばたかせ、ソアラスが降りてきた。
「リーユエン、茂みの向こうに大男がいるぞ。あれ、人形使いのおっちゃんだぞ」
ソアラスの大声が辺りに響くや、茂みの向こうから大きな菓子袋を抱えたツカリーゼ教授が、恐ろしい形相で現れた。大股で歩き、あっという間にリーユエンとロージーの前にまでやって来るや、ソアラスを指差した。
「人形使いのおっちゃんですって、なんて失礼な魔獣なのっ、リーユエン先生、魔獣の躾をちゃんとしなさいよっ」
恐ろしい形相で言われ、リーユエンは、ヒイーッと固まった。
ロージーが、洗濯バサミを手にしたまま、にこやかに
「ツカリーゼ教授、このような辺鄙な場所までお越しいただき、恐縮です。私たちに、何かご用でしょうか?」と、尋ねた。
知能は高いが、空気なんて決して読まない魔獣のソアラスは、人の形になるやツカリーゼへ、
「主を怒るな、怖がってるじゃないかっ、あんたが 人形使いなのは本当のことだし、どこからどう見てもおっちゃんだろ、おばちゃんには見えないぞ」と、さらに怒り増し増し口撃を加えた。
「やめなさいっ、ソアラス、ツカリーゼ教授へ失礼なことを言うのはやめなさい。教授は、人形使いではなくて、傀儡術の達人です」
リーユエンが厳しい声で注意した。
(けれどおっちゃん発言については、何も言わなかった)
そして、ツカリーゼへ、
「ソアラスが失礼なことを申し上げ、お詫びします」と、丁寧に揖礼した。
ツカリーゼは、
「あら、わかってるのならいいのよ。はい、これ、お土産、そろそろお茶の時間よ。みんなで食べましょうよ」と、箱を差し出した。
それを見た瞬間、ロージーは目を輝かせた。
「ツカリーゼ教授、お手製のお菓子ですね。味は絶品、ほとんど手に入らない幻のスイーツではありませんか!」
自分のお菓子の値打ちをよく理解しているロージーの言葉に、ツカリーゼはすっかり気分が良くなった。
庭の一画に、白いシーツが干され風にはためく日当たりの良い南の庭園で、五人の生徒と、パオディンとヨーディンも集まり、賑やかな茶会となった。
パオディンとヨーディンは、塔の修繕をしていると聞かされたツカリーゼは、
「あなたたち、寄宿舎を追い出された上に、修繕しなきゃ住めない塔で寝泊まりしているのね、可哀想に」と、同情した。
リーユエンは、
「ここは静かなので、導引術や、調息法に取り組むには、良い環境なんです。ただ、去年の嵐が想定外で、まさか屋根まで抜けているとは思いませんでした」と、話した。
パオディンは、
「もう、屋根は塞いだぜ。扉も修繕したし、階段も強度が増すよう補修したから、来週にでも、内装工事ができる友達を連れてくるよ。夏季休暇のあとは、みんな塔で寝泊まりできるぜ」と、胸を張った。
陽光が降り注ぎ、地面に直敷した敷物の上で、座ってお茶をしていた者たちを、明るく照らし出した。その時、パオディンの瞳が縦長であることにツカリーゼは気がついた。
「あなた、もしかして、玄武なの?」




