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魔導士学院生は、今日も元気ですっ!(落ちこぼれ呼ばわりされても、くじけません)  作者: nanoky


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(どうして、ヨーダム太師の直弟子たちって、無愛想な人ばかりなのかしら)

 

 論文目録の写しを手に入れ図書館を出たツカリーゼは、その後、教員舎の自室へ戻り、手土産の焼き菓子を手に、法陣魔導術学部の冶金錬成術学科研究棟へ、ワリーロフ教授を訪ねた。

 

 ワリーロフは厳しい表情で、ツカリーゼの魔王のような凶悪な面を見た。


 ツカリーゼは、精一杯の愛想笑い(それでも迫力がありすぎて恐ろしい)を浮かべ、ワリーロフへ「差し入れよ」と、自作の焼き菓子を花柄の袋に入れてリボンがけしたのを手渡した。

 

 ワリーロフは、焼き菓子を受け取った。ツカリーゼの焼き菓子の味は絶品だ。それに、受け取りを拒否したら、どんな目に合わされるかわからない。恐ろしくて断れなかった。


「何の用で来た?」

 

 黒い長髪を無造作に後ろで束ね、魔導士服の上に、強力な防火及び耐熱術を施した灰色の作業服を着たワリーロフは、青い目を眇めてツカリーゼを見た。


 ツカリーゼは、懐から例の論文目録を取り出し、ワリーロフと自分の間にあるテーブルに置いた。

「あなたの弟分について、教えて欲しいのよ」

 

 ワリーロフは、ツカリーゼの置いた目録をチラッと見た。

「何も教えることはない」

 

 無愛想な顔のまま答えた。そして腕組みした彼は、難攻不落の城砦のように口を閉ざした。


 けれど、ツカリーゼは諦めない。

「あら、そんな事言わないで欲しいわ。『竜石錬成による瞬間錬成兵器術』って、あの子の卒論でしょ。あの火傷痕のあったおチビちゃんよね、先生が指導したのでしょ。色々ご存知のはずよね」

 

 ワリーロフの下まぶたがピクピクと痙攣した。


(ウフフフッ動揺しているわ。やっぱり何か訳ありなのかしら?)

 ツカリーゼはさらに攻め込んでみることにした。


「まさか、代作だったり?」


「馬鹿なことを言うなっ」

 ツカリーゼの言葉を遮り、ワリーロフは大声を上げた。

「リーユエンは天才だ。私は基礎的な技術を指導しただけだ。あの方は、独力で設計から制作まで一人でやり遂げたのだ」

 

 ツカリーゼは、一瞬違和感を覚えた。ワリーロフは今なんと言った。そうだ、「あの方」と言ったのだ。


「へえっ、本当にひとりで作ったの?」

 

 ツカリーゼが左眉だけ器用に釣り上げて、不信気に言った。ワリーロフは突然立ち上がり、奥の書棚から、分厚いファイルを持ってきた。


「これを見るがいい。君は五階梯到達者だ、見ても構わない。これが論文の草稿と、草稿の元となった実験デーダのノート、メモ類だ」


(ワリーロフちょろいっ、こんなお宝資料を見せてくれるなんてお人好しすぎるわっ)

 ツカリーゼは内心歓声を上げながら、資料に目を通した。線の細い流麗で几帳面さがうかがえる小さな文字を読み進めるうちに、彼の顔色が変わった。


 「何、これ、本当に二回生の子が、こんなデータを取ったの。これ、恐っそろしく高度な冶金錬成術じゃないっ、どうなっているのよ」

 ツカリーゼは悔しがった。こんな優秀な子だったなんて、あの当時にそれを知っていたら、冶金錬金術教室からひっ攫ってでも、自分の弟子にしたのに〜と残念でならなかった。

 

 悔しがるツカリーゼを眺めながら、ワリーロフは得意げにフフンッと鼻で笑った。

「師弟は、魔導士学院入学時、すでに調息・導引法は完璧に収め、魔導術概論全五巻はすべてそらんじることができた」

 

 ツカリーゼは椅子からいきなり立ち上がり、両手をテーブルについて、ワリーロフを見下ろした。

「調息・導引法ならあり得るかもしれないけれど、一巻千五百頁の魔導術概論五巻全部を諳んじたですって・・・そんな馬鹿な」

 

 ワリーロフは、ツカリーゼへ座るよう手振りで促した。

「信じられないのも無理はない。しかし、私は、冶金分野については、口頭で質問したが、全て正確に答えた。それに全巻諳んじているとおっしゃったのは、ヨーダム太師なのだ」

 

 ツカリーゼは、そんなの出鱈目よねと言いたかったが、ヨーダム太師の言葉に偽りがあるはずがない。太師は、魔導士界最高の使い手であるだけでなく、人格者として皆から厚く敬われてきた存在なのだ。


「リーユエン先生って、どんな人なの?」

 ツカリーゼは、人となりを知りたくて質問した。けれどワリーロフは首を振った。


「私は、その質問に答えられる立場ではない。リーユエンと親しいのはニエザだ。彼に尋ねるべきだ」


「ええっ、ニエザですって、あの魔導士塔の引きこもり男の?」

 

 ニエザは魔導士学院を百年ほど前に卒院し、それ以来、ヨーダム大師の魔導士塔に引き篭もったきりだった。魔導士の会合に姿を現すこともなく、ほとんど忘れられた存在だった。

 

 ワリーロフは、ハーブ茶を淹れて、ツカリーゼに勧めた。

「リーユエンは学院へ入る前、しばらくの間大師の魔導士塔で暮らしていたそうだ。ニエザは側にいたので、よく知っているはずだ」

 

ワリーロフは、そう言うと、ハーブ茶に口をつけた。それから、ツカリーゼの持参した焼き菓子を食べて、少し表情を緩めた。


「そう言えば、リーユエンを学生の寄宿舎で見かけたことがなかったけれど、一体どこから通っていたのよ。太師の魔導士塔からだったの?」


「知らない。私は何も知らないのだ。ニエザに聞けば良い」


「ニエザを紹介してよ。私、彼とは知り合いじゃないから」


「…私も、その…親しくない。交流がないのだ」

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