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魔導士学院生は、今日も元気ですっ!(落ちこぼれ呼ばわりされても、くじけません)  作者: nanoky


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(36)

(・・・ここは?)

 目覚めたエスメルが最初に見たのは、灰色がかった白い天井だった。

(えっ、勝負は・・・あの女との勝負はどうなったの?)

 

 上掛けを乱暴にめくり、エスメルは跳ね起きた。


 そこへ医務室担当の医療士が入ってきた。

「エスメル先生、気がつかれましたか、体にはどこにも異常はないので、いつでも帰っていただいて結構ですよ」


「・・・体に異常がない」

 エスメルは、思い出した。リーユエンが第四の法陣を発現させ、それが天へ急上昇し、落雷があった。自分は落雷の衝撃波に呑み込まれたのだ。


(そうだわ・・・あの瞬間、私の体を黄金の円蓋(ドーム)が取り囲んだ)

 

 それは一瞬に起きたことで、落雷の衝撃波と大音響、沸き起こった凄まじい土煙で何も見えなくなったのだ。けれど、彼女の体が、あの黄金の円蓋に守られたのは間違いなかった。


(あの障壁結界は誰の仕業なの?演習場は内部の者以外の魔力干渉は排除されるはず、だとしたら、あの円蓋もリーユエンが?・・・でも法陣を立て続けにに四つも操ったのよ、その状態で、私を守る障壁結界をさらに発現などできるの?そんな使い手がいるなんて、聞いたこともない。それにリーユエンは八百七年卒院よ、私より二十年も後に卒院した若手じゃないの、階梯(かいてい)到達だって私より下か、同列の第三階梯到達者のはずよ。彼女に、そんな術使えるはずがないわ)

 

 エスメルは医務室を出た。


 ドロメルの一員である医療士の一人が彼女へ

「ご当主様が、貴賓室でお待ちです」と、声をかけてきた。


(お父様、きっとお怒りだわ・・・どうしよう、私の火竜の術があんなにあっけなく破られるなんて)

 

 重苦しい気分のまま、エスメルは学院長舎内にある貴賓室へ向かった。


 学院長室の手前の廊下で、演習場から戻ってきた学院長が彼女を見つけ、声をかけてきた。

「エスメル先生、もう大丈夫なのか?」

 学院長は柔和な表情で言った。


「はい、もう大丈夫です。衝撃波で気を失っただけです」

 エスメルは、淡々と答えた。実際は、腑が煮えくりかえっていたが、強靭な意志力で冷静さを装った。


「怪我がなくて何よりじゃ、火性のぶつかり合いは怪我がつきものじゃから、心配したが、何事もなくてよかった」

 学院長は、いかにも好々爺然として言うが、腹の内では、私が負けてざまあ見ろと思っているに違いないと、エスメルは考えた。


「ご心配おかけして、痛み入ります。父を待たせておりますので、失礼します」

 学院長へ一礼すると、エスメルは貴賓室へ向かった。

 

 ノックして中に入ると、長テーブルの奥の大きな長椅子に、父であるドロメルの当主が不機嫌な顔で腰掛けていた。


 エスメルは、部屋へ入るやすぐさま跪き、

「ご期待にお応えできず、申し訳ございませんっ」と、叫ぶように謝った。

 

グレゴルは、エスメルに近寄り、腕を取って立ち上がらせた。そして、

「怪我はなかったのか」と、尋ねた。


「はい」


「バシンッ」

 いきなり平手打ちが飛んだ。

 

 エスメルは、歯を食いしばった。グレゴルは、娘を睨みつけ

「何という無様な負けだ。そなたは、ドロメルで火魔法の最高の使い手なのだぞ、それが、あのように負けてしまうとは・・・」


「・・・・・・」

 

 グレゴルは、娘に近寄り、赤くなった頬へ、自分の手をそっと当てた。

「当主として、結果が出せないそなたを叱責した、許せ」と、ささやいた。

 

 エスメルは、苦悩の色を湛える父の鉄灰色の瞳を見て、自分の不甲斐なさが悔しくてならなかった。

 

 グレゴルは、席に戻ると、彼女へ座るよう促し、そして

「あれだけの大技を使い、その術を破られながら、そなたはどうして傷ひとつ負わなかったのだ、一体あの瞬間何があったのだ」と、尋ねた。

 

 エスメルは、正直に、落雷の瞬間目撃した黄金の円蓋について、報告した。 

 

 グレゴルの眉間に深い縦皺が寄った。

 

 学院内におけるドロメルの絶対的優位を確立するどころか、名声が地に落ちかねない完敗ぶりに、娘を厳しく叱責した。けれど、エスメルの戦法に責めるべき点がないことは、彼自身にも良くわかっていた。貴賓室で一時間ほど待つうちに、最初の激怒が収まったグレゴルは、沈着冷静な当主の顔を取り戻していた。


「そなたの戦いぶりは見事であった。ドロメルの火精の使い手として、そなたの業を凌ぐ者はいない。そなたを指導した師として、そなたの戦い方に瑕疵があったとは思わぬ。しかし、リーユエンの業がそれを上回ったのだ」

 

 グレゴルは、エスメルを腰掛けさせると、シャオロンポウ教授の解説を聞かせた。聞くうちにエスメルにも自分が対戦したリーユエンの業の底知れなさがわかってきた。


 グレゴルは、難しい顔で腕組みをし、

「これほど複雑な法陣を連続技で発現させながら、なおかつ、お前に対して障壁結界まで施すなど、もはやヨーダム並みの大魔導士でなければ不可能なはずなのだ」と言い、考え込んだ。


「一体、どういうことなのでしょう。そんな魔導士がいるなんて、私は今まで耳にしたこともありませんでした」


「サラザルの当主は、あれだけの業が使えながら、魔導士登録もなく魔導士名鑑にも名がないのなら、玄武八大公あたりの下僕魔導士ではないかと言っておった」


「玄武の下僕なら、そもそも学院の教師になることなど、主である玄武が許さないのでは?」

 

 玄武八大公のそれぞれの家に仕える凡人の魔導士は、実際に何人かいる。ドロメルの一族の中にも、代々仕える者がいた。しかし、彼らは、凡人との交わりはほとんど絶っており、顔を合わせるのも数十年に一度くらいだった。


「玄武の下僕ならば、主の法力を分け与えられ、自身の力では到底なしえないほどの、強力な法術を使いこなせるのだ。それに惹かれて、自由を失うことになっても下僕となる者が後を絶たない」


「リーユエンもそうなのでしょうか?」


「その疑いは大いにある。そして、もしそうならば、学院長を引きずり落とす絶好の機会になるかもしれない。そなたは、引き続き学院に残り、リーユエンをさぐれ、そしてサラザルよりも早く、奴が玄武の下僕である証拠を見つけ出せ。良いな」


「承知しました」

 エスメルは、リーユエンが玄武の下僕である証拠を掴み、学院から必ず追放してやると心に誓った。

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