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一丈は大体三メートルくらいです。(基本尺貫法設定かな・・・いい加減です)
八卦は、『当たるも八卦当たらぬも八卦』のあの八卦です。
これから始まるリーユエンの戦法は、易経から勝手に拝借しました。(勝手に借りてすみません)
ヨーダム太師は続けた。
「あなたが、法陣八卦法を発動させれば、あの者たちは衝撃を受けるに違いない。圧倒的な力の差を見せつけるのだ。そうしなければ、あの者たちは、魔導術の真髄を知ることもないまま、低俗な派閥争いを続け、いずれ魔導士の水準は落ちるところまで落ちてしまう。
あの者たちの目を覚まさせるため、今回は、禁書内容に触れようとも構わない。あなたの力を見せつけてやりなさい。いや、是非、お願いしたい」
師父との通信を終わらせ、魔導鏡を消したリーユエンは、深々とため息を吐き出した。
基礎教練を担当する教師の穴埋めを引き受けたつもりであったのに、気がついたら魔導士界を二分する派閥争いと、それを終わらせ、魔導士界をあるべき方向へ戻したい長老派閥の暗闘に巻き込まれてしまったようだ。
(リーユエンの独白)
調息法と導引術を二回生の生徒に指導するのを引き受けただけなのに、それがどうして、ドロメルの一員、生意気なエスメルと戦うことになったのだ?絶対、おかしい、こんなの詐欺だっ・・・最初に約定を取り交わしておけばよかった。
また、余分な用事まで引き受けて、猊下にお叱りを受けるのが確定だな。おまけに、あのお気楽玄武のパオディンとヨーディンまで潜り込んできて、お世話してやらなきゃならないなんて、絶対、絶対、不条理だ。どうして私ばかり、面倒なことに巻き込まれるのだ?こんなことなら、ウマシンタ川へ、玉石採掘と狩猟を兼ねた交易へさっさと出かければよかった。(嘆)
一週間後、魔導士学院島の敷地内に、演習場が設営された。
半径十丈四方の円が描かれ、円周上には、強力な結界障壁が作動する。結界障壁は透明で、中の音はそのまま透過するが、衝撃波や危険なものは、障壁によって阻まれ、見学者が巻き添えにならないよう配慮されていた。
演習場から五丈離れて見学席がつくられた。二回生第三クラスの生徒たちは、ソアラスの背に三人乗り、両前足に二人掴まれ、会場へやって来た。リーユエンも六尺棒に立ち乗りして来ると、地上へ降り立った。
第一クラスと第二クラスの生徒たちと、担任二人は、もう見学席に座っていた。
この模範試合の噂を聞きつけ、学院の外からも見学者が訪れた。
ドロメルの当主、エスメルの父であるグレゴルも、学院長の横の貴賓席にどっかり腰掛けていた。グレゴルは、鉄灰色の髪を額から後頭部へ撫で付た束髪、猛禽のような鷲鼻の目立つ顔には立派なカイザー髭を蓄え、眸は剣呑に光る鉄灰色、闘争的で、狷介な雰囲気をまとう魔導士だった。
学院長の横で腕組みし、椅子へ足を広げてどっかり座り
「エスメルの相手は、リーユエンというのか、聞いたこともない名前だな。そんな魔導士が本当にいるのか」と、不審気に呟いた。
学院長のもう一方の側には、サラザルの当主、デリオンが腰掛けていた。
デリオンは、漆黒の巻き毛が肩のあたりにまでかかり、緑色がかった琥珀色の目に、薄灰色の丸いサングラスをかけ、薄っすら笑みを湛え、グレゴルとは対照的に、親しみやすい顔立ちだった。
彼は、グレゴルなど存在しないかのように視線を演習場へまっすぐ向けていたが、立ち上がると、第一クラスの担任、ペリオンへ歩み寄り、話しかけた。
「ペリオン、火竜姑娘の調子は良さそうなのか?」
ペリオンは、父である当主へ一礼し、
「火竜姑娘は自身の勝利を確信しているようです」と答えた。
デリオンはさらに声を低めて尋ねた。。
「対戦相手のリーユエンとやらは、何者なのだ?」
「リーユエンは、ヨーダム太師の直弟子、通り名は『竜石の錬成師』です」
デリオンは一瞬目を瞠った。
「なるほど、噂に高い、学院を二年で卒業したという神童だな。ヨーダム太師はとうとう痺れを切らし、我らを押さえつけようと、秘蔵っ子をぶつけてきたのだな」
ペリオンは、当主のつぶやきに眉をひそめた。
「それは、どういう意味ですか。我らは、太師の不興を買ったのでしょうか?」
デリオンは、笑みを深くした。すると眸に酷薄な色が現れた。
「ふん、大師など前世紀の遺物だ。奴らの魔導術など時代遅れなのだ。我らの、素早い魔力発動、素早い直接攻撃、大規模な法陣に頼らぬ単独発動こそ、これからの主流になるべき術だ。長老たちの理想とする、正確な呪文詠唱、精密な法陣の集団展開など面倒で辛気臭いだけだ。ドロメルの娘が勝利するのは不愉快だが、今日の試合によって、今後主流となるべき魔導術のあり方が明らかとなり、学院の者たちもそれを認めるしかなくなるだろう」
ペリオンは、デリオンへ
「ですが、父上、リーユエンが去年の後半担当した魔導術概論を受講した学生は、実技試験の成績が三割増しであったと、話題になっておりました」と、告げた。
聞かされたデリオンは、鼻を鳴らした。
「フンッ、そんなもの、ただの偶然だろう。魔導術概論の講義で実技試験の成績が左右されるはずがなかろう」と、取り合わなかった。
父と子が交わす遠慮会釈ない会話は、第一クラスの隣に陣取る第二クラス担任エスメルの耳にも届いた。彼女のこめかみには青筋が立った。
(あの、ニヤけ親父、何が火竜姑娘よ、私には、ちゃんとエスメルっていう名前があるのよ。本当に失礼な奴だわ。それにしても、お父様ったら、今日は私が戦う日なのに、言葉もかけてはくださらないなんて)
エスメルは学院長の隣に腰掛け、微動だにしない父親を見上げた。その時、彼女の脳内に父の声が響いた。
「エスメル、今日はおまえの火性の力を存分に見せつけてやれ。相手が重傷を負っても、いや、最悪死んでも構わない。圧倒的は勝利を収めるのだ、我が家門の力を示し、学院内での力関係を我ら一族が圧倒的優位に立てるよう変えてしまうのだ」
「はい、お父様」
エスメルの闘志は俄然燃え上がった。




