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魔導士学院生は、今日も元気ですっ!(落ちこぼれ呼ばわりされても、くじけません)  作者: nanoky


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 シャオロンパオ教授は、法陣八卦法について語ると熱くなり、やたら雄弁になるが、リーユエンは冷静だった。


「しかし、エスメルはドロメルの一員です。彼女を叩けば、ドロメルの面子を潰すことになりますし、サラザルとの拮抗状態が崩れるかもしれません。それでもよろしいのですか」

 

 シャオロンパオは、威厳を醸し出すために立派な髭を蓄えたいのに、いつまで経っても山羊髭程度にしか伸びない自分の情けない髭をしごきながら、目を細めて言った。


「リーユエン、君の後ろ盾なら、ドロメルだろうがサラザルだろうが、誰も手出しできまい。短絡的な魔力発動に頼る攻撃術偏重を正す良い機会なのだ」

 

 リーユエンは頬杖をつき、考え込んだ。

(シャオロンパオ先生は、昔から調子のいいことばかりおっしゃって、自分は徹底的に火の粉を避ける方なんだ。エスメルを叩きのめしたら、私がドロメル家の恨みを買うことになる。魔導士学院の中で、私の身分を明らかにはしたくないから、面倒事は避けたいのに・・・)

 

 リーユエンが前向きでないのを見てとった教授は、さらに説得にかかった。

「あまり乗り気ではないようだな。しかし、ここ数年、このような魔力発動と個人技が重視される風潮の、そもそもの発端は、あまり言いたくはないが、リーユエン、君にも原因の一部があるのだぞ」

 

 思ってもみない指摘をいきなりされて、リーユエンは驚いて教授を見た。

「それは、一体どういうことでしょうか?」

 

 教授は、白湯で喉を湿らせると、続けた。

「君が、入学当初すでに導引術も調息法を完璧に収め、さらには魔導術概論を完璧に自家薬籠(じかやくろう)中のものとしておった事は、直接指導に当たった教授たちは、皆、承知しておる。

 それは、君の後ろ盾でいらっしゃる()()()()が直接指導され、さらには、ヨーダム太師からも薫陶を受けたのだから、当然と言えば、当然であったのであろうが、それは、通常はあり得ない奇跡なのだ。だから、君は神童と呼ばれたのだ。

 ところが、事情を知らない者たちは、そのようには理解せず、導引術も調息法もすっ飛ばして専門課程に上がり卒業した君の上面(うわつら)だけを見て、そのような基礎過程は不要だと誤解しておるのだ」


「・・・・・・」

 

 教授の指摘に、リーユエンは何も言えなかった。

 

 導引術も調息法も、入学時点ですでに収めていたのは事実だった。ただ、それは、リーユエンを将来の明妃と定めたドルチェン猊下が、あんなことやこんなことの中で、瑜伽業に臨む準備として、実地に指導したのだ。


 それに魔導術概論も、ヨーダム太師から神聖紋を刻まれる間、出血と痛みで死にそうなくらい苦しんでいた時に、これでも勉強して暗記せよと手渡され、苦痛から気を紛らわせようと、やることもないまま読み耽って記憶したのだ。まさかそんな方法で収めたなんて、他人には言いたくないことだった。


 リーユエンがうつむき、黙り込んでしまったので、シャオロンポウ教授は慌てて言い足した。

「私は、君を非難しているのではないぞ。君がいかに規格外の優秀な教え子であったのかを強調したいだけだ。だが、君の事を知らない輩は、基礎修練など不要だと誤解してしまったのだ」

 

 リーユエンは、もう一つ気がかりなことがあり、それを尋ねた。

「私が、先生のご指導を受けて作成した八卦法陣法の連続発現と、展開組合せについての論文は、確か禁書指定になったはずです。エスメルと戦うのに、業を使えば、禁書の一部が明らかになりますが、よろしいのですか」

 

 シャオロンポウは、あっさり首肯した。

「構わん、あれを禁書にしたのは、先代の頭の硬い魔法陣教授どもだ。奴らは皆隠居して魔導士島を引き払っておる。私は、早々にあの論文の禁書指定を解除して魔導士学会へ正式に公表するつもりだ。だから、遠慮なくやってもらいたい」

 

 リーユエンは困惑した、数年前の禁書指定された論文を学会へ正式発表する意味がわからなかった。

「あの論文はもう六年近く前のものですよ、それを今さら発表するなんて・・・」

 

 シャオロンポウは、微笑んだ。

「あれは、魔導士界に知らしめるべき名論文だ。君が作成した論文は、どれもこれも内容が先鋭的すぎて、禁書指定が多いが、あの論文は世に知らしめるべきだ。発表すれば、おそらく魔導士の育成法は革命的に変わり、法陣法術学を重視する方向に変わるに違いない」


「はあ、そうですか・・・」

(ダメだ、これは師父へ後で報告して、対処していただくしかないな。まさか禁書指定の論文を引っ張り出してくるなんて思いもしなかった。もう、本当に勘弁してほしい)

 

 騎獣に跨り、機嫌良く大空へ飛び立った教授を見送りながら、リーユエンはげんなりとため息を吐いた。


 その夜、真円の観想を続け、頭の中が真円に占拠され、目の前で輪っかが回っているとか訳のわからないことを呟く生徒たちが早々に寝てしまうと、リーユエンは魔導鏡を現出させ、ヨーダム太師へ連絡をとり、シャオロンポウ教授の依頼内容を伝えた。


 ところが、師父からの答えは、リーユエンの予想を裏切るものだった。

「模範試合の件は、ゴドロフ学院長からも聞いておる。シャオロンポウの言い分には、一理あるとわしも思う。最近の魔導士界は、あの両家の争いに引っ掻き回され、この上ない迷惑を被っておるのだ。この際、ショック療法が必要だ」


「ショック療法?」

 

 ヨーダム太師の灰色の眸が炯々と光を放ち、魔導鏡越しにリーユエンを見た。

「百五十年ほど前に、詳細は忘れたが、何か些細な行き違いで両家の諍いは始まったのだ。

 それが、どんどんエスカレートし、今や魔導士界全体を巻き込む騒乱となり、手がつけられない状態だ。

 それだけならまだしも、あ奴らは、魔導士学院の教育課程にまで(くちばし)を入れ、古臭い教育課程は無駄だから変えろと意見してきたのだ。我らが六百年にわたり築き上げた教育課程を、奴らの生半可な知識で変えられては、取り返しのつかない魔導士の水準低下が起こる。そうなれば、北荒の魔導士は、南荒の僧魔導士たちと変わりのない末路を辿るであろう」

 

 太師の話ぶりでは、エスメルと模範試合を行えば、ドロメル一門との全面対決が避けられそうにもなく、リーユエンは、面倒なことになってきたと思い、憂鬱になった。

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