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「何とっ、離陰大公殿下のご一族なのか」
玄武八大公の一人である離陰大公ルーデラの身内と聞かされ、学院長は驚いた。
かねてより、乾陽大公、巽陰大公以外の大公たちは、凡人である明妃を受け入れようとせず、常に緊張関係にあるのは承知していた。そして、乾陽大公の挙式でルーデラが明妃のことを悪し様に言ったことも聞いていたので、リーユエンに親しげに声をかけた若い玄武が、そのルーデラの身内であると知り仰天したのだ。
パオディンは、学院長のそんな驚きなどお構いなしで、リーユエンの側まで椅子を引っ張ってくると勝手に腰掛けた。そして、顔をのぞき込み、
「俺の一千年慶賀のお祝いに、リーユエンにも是非来てもらおうと思って、招待状を離宮へ持って行ったら、ウラナが魔導士学院にいるって教えてくれたから、持って来たんだよ」と、懐から、招待状を取り出した。
学院長は、もう顎が外れそうなくらい大口を開けて驚いた。玄武から明妃へ招待状を渡すなんて、前代未聞の大事件だった。思わず、
「そ、それは離陰大公閣下もご承知の上のご招待なのですか」と、尋ねるほどだった。
パオディンは何の屈託もなくうなずいた。
「もちろんだよ、大伯母上からも、お前は、リーユエンには物凄く世話になったのだから、自分で持っていって必ず直接手渡せって言われたんだ」
「離陰大公閣下は直々にそのようにおっしゃられたのですか」
「そうだよ。まあ、大伯母上に言われるまでもなく、自分で持ってくるつもりだったけど、猊下にもお渡ししたけれど、猊下がお忙しくてご都合が悪くても、リーユエンは絶対来て欲しいな。俺、リーユエンとマブダチだって、みんなに自慢したいからさ」と、言いながらパオディンは、リーユエンへ招待状を押し付けた。
リーユエンは、押し付けられた招待状に目を落とし、それからパオディンの目尻が下がり気味のまん丸の目を見て、戸惑ったまま応えた。
「玄武の内輪の祝い事に、猊下を差し置き、私が一人で伺うのは・・・」
けれどパオディンは、首を振った。
「内輪って言うけど、リーユエンはその中に入ってるから、大伯母上は、俺が無事千年慶賀をできるのは、リーユエンがいてくれたからだ。絶対出席してもらえって、それから、うちの領地にも清流渓谷もあるし、魚もいっぱいいるから、若い奴らと好きなだけ遊んでいけばいいって話してたよ」
リーユエンは、微笑みを浮かべ、
「ご招待いただきありがとうございます」と、頭を下げ、招待状を袂へしまった。
そこでパオディンは、「どうして魔導士学院へ来てるんだ?何かあったのか?」と尋ねた。
リーユエンは、パオディンと学院長を交互に見て、どう説明したものかと悩んだ。学院長は、これは自分が説明するべきだと思い、今までの経緯をパオディンへ説明した。
「へえ、そりゃ大変だったな。魔導士塔が壊れるほどの嵐が来てたなんて、俺、全然知らなかったよ。ちょうどいいや、その穴の空いた屋根とかぶっ壊れた扉とか、俺とヨーディンとで修繕してやるよ」
パオディンは、気軽に請け負ったので学院長は、
「いやいや、相当ひどい壊れ方で、素人仕事で直すのは、難しいでしょう」と、止めに入った。
しかし、パオディンは、背後に控えるヨーディンを振り返り、
「ヨーディン、俺たちの腕前を見せるいいチャンスだ、頑張ろうぜ」と、声をかけた。
ヨーディンは前に進み出ると学院長へ、
「我が主人も、私めも大工仕事は玄人並みの水準でございます。どうか、我らにお任せください」と、丁寧な口調で言った。
学院長は、不思議そうにヨーディンを見上げ、
「失礼ながら、お二方は玄武の勢家である離家の方たちだ。そのようなやんごとないお方に肉体労働をさせては、他の玄武方からお叱りを受けるやもしれません」と、やんわり断ろうとした。
けれど、ヨーディンは、
「心配不要です。離陰大公より、リーユエン様にお困りごとがあれば、必ずお助けするよう言いつかっておりますし、我らが大工仕事が得意なのは事実なのです。離家の男子は、みな、一芸に秀でたものが多いのです。主は冒険家として有名ですが、建築関係についても玄人はだしで、旅費を捻出するため、私と二人、中央大平原では建築現場で実際に働いたことがなん度もございます。どうぞ、安心してお任せください」
パオディンは椅子に腰掛けたまま、ニカっと笑った。
「そうさ、他の家の玄武の奴らが、俺たちのことを探検ばっかりしている道楽息子と思っているのは知っているけれど、探検費用は、全部二人で稼いだ金なんだぜ。離家からの援助は一切もらっていないんだ。建設現場で、石積み作業したり、材木運んでノコギリで切ったり鉋をかけたり、色々やって稼いだ金で方々探検したんだ。だから、大工仕事は、玄人並みにできるんだ。材料も集めて、塔を住める状態にしてやるよ」
パオディンはすっかり乗り気になっていたが、リーユエンはまだ疑問があった。
「パオディン様は、玄武の法学院へご入学予定ではないのですか?」
「・・・・・」
リーユエンの質問に、パオディンは言葉に詰まった。玄武は齢千年を超えると、法座主が院主を務める法学院へ入り、最低で三十年、長いものなら三百年、法術の修行に励むことになっていた。
リーユエンは、真剣な顔で、
「大工仕事を買って出られたことはありがたく存じますが、法学院のご入学準備をどうか疎かになさらないでくださいまし」と、釘を刺した。
しかしパオディンは、顔を赤らめた。
「恥を忍んで告白するけれど、俺は、まだ調息も導引も、満足にできないんだ。だから、すぐに入学なんて無理だよ。あと十年くらい事前修行しないと行けないよ、このまま入学したら、猊下から大目玉を喰らうよ」
それを聞いて、今度は学院長とリーユエンが驚いて顔を見合わせた。




