(22)
ロージーは、笑みを深めた。
「もちろん、承知の上よ。その事は、ミネリオス長官ともよく話し合ったわ。でも、私、あの事件の後、いろいろ反省して考えましたのよ」
ロージーは、姿勢の良い上半身をさらにピシッと伸ばし、王女らしい威厳をまとった。
「私は、好奇心が強くて、珍しいものは手に入れたいし、使ってみたくてたまらなくなるの。自分でも、それがよくわかっているわ。
魔道具が危険だって事は、この前の一件でよく理解できたし、気をつけようと思っているの。
でもね、将来、私の好奇心に付け込んで、また魔道具と知らずに道具を押し付けられるかもしれないし、魔導術絡みの謀略に巻き込まれないとも限らないでしょう?
まして、将来の金杖国の王座に誰がつくのかは分からないもの、お兄様がおつきになればそれでいいのだけれど、万が一にも、私の未来の夫が王座につくことだってあり得なくはないわ。そうしたら、私は王后になってしまう。
そんな立場になるのなら、魔導術をもっと真面目に勉強して、仕掛けられた時にそれを見破れるようにしておくことが重要だと思ったのよ。決して、不真面目な動機から受験したわけではないのよ」
リーユエンは、話を聞くうちに、サンロージアの事を見直した。考えなしの無鉄砲なところのある王女様だと思っていたけれど、なかなか思慮深いし、将来を見据えているのだ。これなら、魔導術の指導に耐えていけそうかなと思った。
「なるほど・・・そういう事なら、二回生も真面目に勉学に励んで頂戴。ただし、私が今年重点的に指導するのは、調息法と導引術だから、あなたが期待しているような、華々しい魔導術ではないと思うわ」
ロージーは大きくうなずいた。
「そんなの、全然平気。まさかリーユエンに指導してもらえるなんて、思ってもみなかったもの。こんな幸運に恵まれるなんて、嬉しくって天にも昇る心地だわ、これを聞いたら、きっとお兄様は悔しがるわ」
いきなり王太子デミトリーへ話題がふれてしまい、リーユエンは乾いた笑みを浮かべた。
魔道士学院内で、妹のサンロージアを指導する分には、もう、あの王太子と関わることはないだろうと思った。
それからリーユエンは、念の為、サンロージアの進路の希望を聞き取りした。
「君は、どの課程にまで進むつもりなの?」
「もちろん、卒業までに決まってますわ。お父様のように中途退学なんて、無様な真似は致しませんことよ」
(ゲッ、ロージーったら、卒業まで居座るつもりなのか・・・最短でも、六年かかるって分かって言っているのか?)
リーユエンは、その遠大な野心に呆れながらも、質問を続けた。
「三回生になったら、専門課程が入ってくるが、何か希望はあるの?」
ロージーはうなずいた。
「ええ、あるわ。私、使役獣医学について、学んでみたいの。獣医学の基礎学科なら、魔力を使うことはあまりないと思うから」
ロージーにしては、地味な学部を希望したなと思い、リーユエンは志望動機を尋ねた。
「どうして、使役獣医学部へ行きたいの?」
ロージーは両手を胸の前で握り合わせ、満天に輝く星のように双眸を輝かせた。
「魔導庁長官が教えてくださいましたの、使役獣医学部では魔獣の家畜化を研究していて、契約を交わすけれど、対価は以前よりももっと穏便で、使役者の命を削らない対価ですむ、調整魔獣を飼育していると聞きましたの。
そして、調整魔獣に主人として認められたら、契約を交わして自分の使役獣にすることが認められているって、ですから、私は、使役獣医学へ入って、調整魔獣を作り出す方法を学び、自分自身の使役獣を手に入れたいと思っておりますのよ」
リーユエンは、ため息を盛大に吐き出し、こめかみを右手で揉んだ。
あれほど、魔道具の危険性を教え、反省させたのに、もう、魔獣を手に入れる事に夢中になっているので、呆れてしまったのだ。
やはり、ロージーの恐いもの知らずの性格は、直るようなものではなかったのだ。リーユエンは教師にあるまじき事だと背後暗く思いながらも、ロージーが二回生の授業で飽き飽きしてしまい、その時点で退学し、金杖王国へ帰ってはくれないだろうかと思った。
リーユエンのブラックな思いも知らず、ロージーはテーブル越しに身を乗り出し、
「リーユエンが、昨夜契約したソアラスも調整魔獣なのでしょう?早速魔獣を手に入れるなんて、さすがですわ」と、話し、「私もあのような格好いい魔獣の使役者として、国へ凱旋したいものですわ」と、明るい口調で夢を語った。
リーユエンは、首を振り、
「進路が叶うように、二回生では、調息法と導引術を真面目に頑張りなさい」と、言って、面談を終わらせた。
最後に呼ばれたのは、タロナだった。
椅子に腰掛けるように言われ、東屋の中で、先生と対面して腰掛けたタロナは、テーブル越しに先生を見た。
(リーユエン先生、何だかお疲れみたい…)
いつもは鋭い光を放つ紫眸は、視線を書類に落としているため、長いまつ毛がかかり、薄っすらと霞がかかったように光が鈍く、表情もいつもほど厳しくなく、愁い顔で、艶やかで形の良い唇からは今にも密やかなため息が漏れそうだった。そうやって間近に見る先生は、物凄く綺麗な人だと思った。
タロナの指導記録に目を通していたリーユエンは、ある項目に気がつき、目を見開いた。
「タロナ、君は野ウサギ族だったね、身元保証人は、タルタネアとなっているが、この方はもしかして、ウラタナ村のタルタネア媼のことかい?」
タロナは、先生が自分の曽おばあちゃんの事を知っていることが嬉しくて、笑ってうなずいた。
「はい、タルタネアは私の曽祖母なんです」
「・・・・君は、共情の聖女、タルタネアのご一族なのか」
リーユエンの顔は、見る見る青ざめた。それを、タロナは不思議そうに見上げた。




