(19)
次の面談は、ハンツォンだった。
背がひょろっと高く、鼻梁が細く、いつも目が潤んでいる彼は気が弱く、神経質な少年だった。ところが彼は意外にも、南荒ではその勇猛さで名高い、タイソンファ公爵率いるタイ鳥一族の一員だった。
(面談って、リーユエン先生はいっつも厳しい顔で笑わないから、苦手だな・・・)
何を聞かれるのだろうかと、不安に思うのが顔にはっきり出ていた。
リーユエンは、ハンツォンの忙わしなく動く目線を観察しながら、タイ鳥一族は勇猛果敢で胆力が強いはずなのに、この子は随分気が弱そうだと意外に思った。
タイソンファ公爵なんて、いきなり初対面の自分とテンポがずれまくった曲でも平気で踊るくらい度胸のあるお方だったのにと、首を傾げた。
「君は、南荒からの留学生だったね。神聖大鳳凰教の門下生だったとあるけれど、玄武国の魔導士学院で修練することについて、君自身は納得できているのか」
彼を見て感じた印象については、一切面に出さず、リーユエンは単刀直入に切り出した。
ハンツォンは、どう答えたらいいのだろうと悩んだ。
彼の迷いを察したリーユエンは
「思うところを正直に言っていいよ。君が不満を言っても、何も影響はない。ただ、君の正直な気持ちは一度聞いておきたいからね」と、言い足した。
ハンツォンはうなずき、少し間をおいて話し始めた。
「俺の一族は、勇猛果敢な戦士が多いことで有名なんです。だから、武術や格闘技ができる者が皆から尊敬されます。
でも、俺は武術も格闘技も苦手で、父さんは戦士になれないなら、農家の仕事を継げばいいが、お前は長男ではない三男だから、この家は継げない。百姓になるなら、小作農になるしかないと言われました。
でも、小作農になったら、子々孫々本家に仕え続ける身分になって、領地から勝手に出ていくことはできなくなるんです。
俺は、武術や格闘技は苦手だけれど、色々な見聞はしてみたいと思っていたので、小作農になる以外に選択肢はないのか、村の長老に相談しました。
そうしたら、調度募集の回覧が来ていたから、神聖大鳳凰教の僧魔導士見習いの試験を受けてみればどうだ、推薦状なら書いてあげるよと言われたんです。
受かるなんて思っていなかったんですが、父さんに頼み込んで、試験を受けたら合格したんです」
リーユエンは、話を聞きながら、神聖大鳳凰教は、魔導士の水準が下がり、風紀も乱れて人気は下降気味だったそうだから、身分の上下に厳しい教団の試験であっても、農家の倅にすぎないハンツォンが合格する余地はあったのだなと思った。
「でも入団してみたら、お前は農家の出身なんだ、普通なら合格しないところを、最近人手不足で仕方なくお情けで合格させてやったのだから、有難いと思えって、先輩からは雑用ばかり押し付けられて、全然魔導術の修行なんてできなかったんです。
数ヶ月そんな状態が続いて、教皇が崩御なさって代替わりなさった就任式で、何だか凄い大事件があったらしくて、その後、僧魔導士は誰も術が使えなくなってしまったんです。
俺も、教団で指導も受けられないし、雑用ばかり言いつけていた先輩も将来を悲観して、もう教団を辞めて町へ帰るって言い出したんです」
リーユエンは額に手を当てて、うつむいた。
ハンツォンの話す大事件に直接関わっていたので、何とも居心地の悪い感じだった。
「君も、随分苦労したんだな。それで、どうして、こちらへ留学することになったんだ?」
先生が同情してくれた・・・思いがけない反応にハンツォンは驚いて、次に何を言おうとしたのか忘れてしまい、二、三秒、先生を凝視してしまった。それから、慌てて、
「あ、すみません。留学することになった経緯でしたよね。
教団の中はもうほとんど人がいなくなったので、俺も仕方なく町へ戻りました。そしたら、タイソンファ公爵から呼び出しがかかったんです。
一体何事かと、すごく心配しながら、父と一緒に、公爵にお会いしたんです。そしたら、公爵は、教団の魔導士たちの力が回復するまでには長い時間が必要だ。君が魔導士として修行を積みたいのなら、北荒の玄武国にある魔導士学院へ留学させてあげるが、どうする?と、希望を聞かれたんです。
魔導士の修行もできるし、行ったこともない場所へも行けると思い、その場で公爵閣下に是非留学させてくださいとお願いしたのです」
「なるほど、君は、自分の意思で留学を決断したのだね。」
ハンツォンは、頷いたものの、表情は暗かった。
「でも、正直言って、一回生で受けた授業は、教わったことと全然違っていたし、ここの魔力発動のやり方は、神聖大鳳凰教で指導しているやり方と違いすぎて、俺はここで指導を受け続けるべきなのか、迷っています」
リーユエンは、ハンツォンの言葉を聞き、うなずいた。
「私も、一回生の授業内容を確認させてもらったが、魔術発動の実技に重点が置かれて、基礎項目で必須であるはずの項目がいくつか抜けていた。君たち、南荒の魔導士には、調息気功法という訓練法があったはずだが、君はその指導を受けたことはあるのか」
ハンツォンは首を振った。
「いいえ、先輩はいつも俺に掃除とか洗濯とか雑用ばっかりさせて、基礎科目の指導なんて一回もしてくれませんでした」
リーユエンは、頬杖をつき、考え込んだ。
ハンツォンは、まだ魔導士の道についたばかりの見習いにすぎない。修練の段階を踏み、階梯を上がっていかなければ明かせない秘訣を、どこまで話していいものやら、迷っていた。
しかし南荒の魔導士の門下生であったハンツォンに、北荒系魔導士の特徴を説明し、修行に前向きに取り組む意欲を芽生えさせるには、ある程度は明らかにするしかなかった。




