(18)
リーユエンは、一寸沈黙し、
「精神的な問題があって、術を制御できなかったと、君はそう考えているのだね」と、確認した。
モンシェンは、先生の口調が淡々としていて、自分の失敗の原因を真剣に分析しているのだと気がつき、真面目な顔でうなずいた。
先生の宝石のように透明で鋭い光を放つ紫眸が、モンシェンを真正面から見た。
モンシェンは、思わず姿勢を正して緊張した。その反応を見て、先生はふっと笑みを漏らした。すると、先生の雰囲気は柔らかに変わり、一瞬別人のように見えた。
(えっ、今の何?)
モンシェンは、ハッとして先生を見たが、いつも通りの厳しい表情で、一瞬見えた笑顔は、目の錯覚だったのかと思った。
「なるほど、確かに、緊張しやすい性質のようだね。しかし、君は精神面ばかりを問題視しているが、術の制御ができない原因はそれだけではないね」
先生からの指摘に、モンシェンは驚いた。
それ以外に一体何があるというのだろう。自分は霊力は強いと指摘されてきたし、術式の発動について自分の唱えた呪文に問題があるとも思えなかった。
リーユエンは、モンシェンの反応を見て、目を細めた。
やはり、何も気がついていないなと思い、当然予想していたことなので、冷静に問題点を指摘してみせた。
「術を正しく発動させ、力を制御するには、自分自身の身体自体を、君の精神が把握し、制御下に置くことが必要だ。それが、完全にできなければ、また力の制御に失敗し、術の成果が思ったように得られない状況が出現するだろう」
モンシェンは戸惑った。魔導学院に入学してから、そういう指摘をされたことは一度もなかった。けれど、亡くなった村の魔導士から、生前によく言われたことを思い出し、思わずその言葉を口にした。
「内なる己に向き合い、吹き抜ける風を感じるのだ」
それを聞いた先生の紫眸が細まった。
「誰からそれを教わった?」
「僕の村の魔導士です。学院に上がる前に亡くなりましたが、それまで色々指導を受けました。僕は伯父さんみたいに役人になろうかと思っていたのですが、魔導士が亡くなる前、僕を後継にするように指名したので、学院を受験したのです」
「役人になろうと思っていたのか」
リーユエンは、どうしてこれほど霊力の高いモンシェンが役人になろうと思ったのか不思議に思い尋ねた。すると、モンシェンは、目を輝かせた。
「僕の伯父さんは、都の伝奏部で働いているんです。僕も伯父さんみたいに都で働いてみたかったんです」
それを聞いた瞬間、リーユエンは顔が引き攣りそうになったが、何とか表情を保ったまま、さり気なく尋ねた。
「君は、ムササビ族だったね。伯父さんのお名前をうかがってもいいだろうか」
「伯父はモンティンといいます」
リーユエンはため息を押し殺した。
世の中って本当に狭いと思った。いつも離宮へ、自身の背丈の三倍くらいある決裁書類を運んでくる真面目なモンティンの甥っ子が彼であるとは・・・
「そうか、君は、伯父さんのことを尊敬しているんだね」
「はい、僕たちの一族の出世頭ですから・・・立派な伯父さんを見習いたいのに、僕は、皆から期待され、魔導士になろうと学院に入ったのに、皆の期待を裏切ってしまいました」
モンシェンは、また視線を下げた。
一族の期待に応えられそうにもない不甲斐ない自分自身にすっかり落胆し、自信を失っていた。
けれどリーユエンは、そんなモンシェンを慰めることもなく、
「二回生の期間、私は、導引術と調息法を重点的に指導する方針だ。『内なる己に向き合い、抜き抜ける風を感じよ』とは、まさしく調息法の要諦だ。君が自身の強い霊力を制御するには、必須の境地だね。導引術と調息法は、その境地へ至るためには、表裏一体で必須の科目であり、習得するには、根気強く修練を続けていくしかない。明日から、授業を行う。第一と第二クラスとは、履修過程が異なり戸惑うだろうが、私の指導に従ってもらう」と、淡々と告げた。
リーユエンは敢えてモンシェンを励まそうとも、慰めようともしないまま、彼との面談を終えた。そんなことに言葉を尽くしても、結果が出なければ意味がないのだ。そして、結果を出そうと思うなら、導引術と調息法を収めることは、必須条件なのだ。




