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法座主、明妃、総執行が、三人の対角線上に、凡人ふたりが位置するよう三角に着座した。
法座主が、講堂へ集まった玄武たちへ、厳かに告げた。
「今より、この二人の凡人の体内から、魔核の除去を行う」
皆の緊張は一気に高まった。
玄武法学院に入学した玄武僧は、玄武は法力を甲羅に蓄え、魔導士は魔核に魔力を貯めて、循環させることを、まず指導僧から教わるのだ。だから、当然、彼らは魔核がどういうものなのかを理解していた。ただ、彼らの知識に照らすと、床に横たわる二人の凡人は、魔核を成すには、まだまだ力不足の未熟者にしか見えないことが、疑問であった。
その答えは法座主からの次の説明で明らかとなった。
「この者たちは、身元不明の玄武魔導士により、肉体的な受け入れ準備もないまま、魔核を挿入された。玄武魔導士の法力で、魔核は制御されていたが、その制御はすでに失われている。
幸い発見が早く、総執行が、法力で応急的に魔核を封印したが、三日の封印が限度である。
そして、今日がその三日目だ。よって、今より直ちに除去を行う」
説明を終えるや、ドルチェンは結跏趺坐し、法力を放射した。
法力によって、床に発光する魔法陣が浮かび上がり、あたりは強大な法力の圧が漲り、講堂を支える直径四尺越の柱がミシミシと音を立て始めた。
パオディンとヨーディンは、ドルチェンの凄まじい法力をまとも感じ、目を剥き、歯をガタガタと鳴らし、無意識にお互いの両手を握り合い、身を寄せ合った。
皆が法座主に注目する中、次に明妃が静かに結跏趺坐し、印契を結び、真言を唱え始めた。
玄武の目には、凡人には見えない霊気の流れが可視化される。彼らは、皆、明妃の体内から青白い火焔が凄まじい勢いで噴き出すのを目撃した。その火焔は、ドルチェンが放射する黄金の法力に絡みつき、法力を練り込んで縄のような形状へ変え、それは凡人二体の中へ呑みこまれていった。
そこへ、今度は結跏趺坐し、瞑目したナーガムが、複雑な印契を組み合わせ、唸るように気合いを発し、赤金色の法力を、両掌の間で凝縮し球体化させた。それを、彼は、二つに分裂させ、凡人の体二体めがけて、凄まじい勢いで衝突させた。
突如眩い光が無音のまま爆発的に拡散し、彼らは眩しさに目を眇めた。
凡人の体内から、法座主の黄金の法力と、明妃の青白い霊気が、分離し、超高速で飛び出した。それを、法座主、明妃が、素早く捉え、己の体内へ引き戻した。
次の瞬間、再び、法座主の黄金の法力が、凄まじい圧で発せられ、それが凡人の体を包み込んだ。ドルチェンが、抵抗する何かを、恐ろしい形相で法力を綱のように操り、二人の体内から引き摺り出した。それは、テラテラと光る黒い蛇のような邪気の塊で、床に投げ出されてもまだ蠢いていた。脇侍する執行たちが、その蛇を法力で捉え、閉じ込めた。
ドルチェンは調息し、呼吸を整え、法力を収めた。そして立ち上がり、凡人二人に近寄った。膝をつき、彼らの手首、首、足首に触れ、中の経絡とチャクラの状態を確認した。
リーユエンも、立ち上がると近寄ってきた。
「猊下、いかがでございましょう?」
「確かに、魔核は消失した。女の方は、これでなんとかなるが、男の方は、すでに経絡が痛みきり、チャクラも硬化し、風を通すことは難しい。魔核の影響も深刻で、もう、致命的だ。凡人として生きても、長い寿命はないし、まして魔導士となると、もはや再起不能だろう」
明妃は、ナーガムの前へ進み、深々と揖礼した。
「総執行、ご協力に感謝申し上げます」
全身全霊で法力放射を行ったため、放心状態に陥っていたナーガムは、その声にようやく正気に戻った。
「殿下・・・」
リーユエンは、ナーガムのさらにそば近くへいき、彼へ手を差し伸べ、立ち上がらせながら、囁いた。
「後で、離宮へお越しください」
魔核の除去に成功した凡人二人は、学院島で起きた事件の取り調べのため、玄武兵に引き渡された。
法座主は、業を終えると、講堂に集まった玄武を見回し、告げた。
「今年の昇格試験の実技は、我らが見せた法力の循環、そして陰陽の練り込み、その後、新たな法力の衝突による分離と再吸収、これを課題とする。皆、今日の実技を参考に、習得に励むが良い」
実技試験の課題を告げられた昇格試験受験者は、動揺した。
あのように凄まじい業を習得することなど無理だ、と、弱気になる者が大半だった。
しかも、明妃の発した霊気は、もう凡人のレベルとは思えない力で、あの霊気に匹敵する練習相手など見つかりっこないし、そもそもあれだけの霊気となれば、強力すぎて猊下でなければ務まらない。一体どうやって習得すれば良いのか途方に暮れたのだ。
ごく少数の、普段から弛まぬ研鑽を積む者は、あの業の要諦を理解し、完全とまではいかなくとも、なんとか業を収め、試験に合格しようと意欲を燃やした。
中には、明妃の霊気に瞠目し、いつか、あの方の相手を務めてみたいと野心を抱く者さえいた。
ドルチェンは、昇格試験の最中に業を行い、それが明妃への批判となることを回避しようと、公開のうえ、課題に指定したのだ。しかし、その事によって、またもや明妃へ過度な関心を持つ者が現れ、頭痛の種が増えてしまった。




