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魔導士学院生は、今日も元気ですっ!(落ちこぼれ呼ばわりされても、くじけません)  作者: nanoky


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131/138

(131)

 蹴飛ばされ、吸血までされ、疲れきっていたリーユエンは、離宮に戻っていた。


 ドロメル当主からの、至急に拝謁の希望は、最初、法座主府から侍女頭ウラナへ伝えられた。

 ウラナは、リーユエンは酷く疲労しているのを知っていたから、断ろうかと考えた。けれど、勝手な判断はするまいと考え直し、リーユエンへ取り次いだ。


「会います。法座主府は昇格試験期間だから、あちらでは会うのは面倒だわ。離宮へ来てもらってちょうだい」

 リーユエンの指示通り、総執行へ、グレゴルを離宮へ来させるように伝えた。


 立ち上る湯煙が霧となって揺蕩う、夕暮れに近い白亜の離宮を、グレゴルは訪れた。

 長身で痩せた、引っ詰め髪に厳しい顔つき、筒袖の灰色がかった茶色の袍姿の侍女が、彼を離宮内の一室へ案内した。

 

 出された茶を前に、しばらく待つと、サラサラと絹づれの音がし、銀の頭冠で透き通ったヴェールを止め、ゆったりとした薄絹の、紫の色味が微妙に異なる袍を重ね着した明妃が現れた。

 グレゴルは椅子から立ち上がり、跪拝叩頭した。そうしながらも、まだ顔の痛々しい青あざを残しながら、それでもなお美しい明妃の姿に驚嘆した。


(あの模範試合の時、あれほど間近に明妃を見たのに、これほど印象が変わっては、彼女が何者か気づけなかったのも仕方のないことか・・・)

 

 リーユエンは椅子に腰掛けると、グレゴルへ話しかけた。


「お掛けになって、楽になさい。ドロメル当主が出向いてこられたのは、もしかして、ご息女のことかしら?」

 

 単刀直入に尋ねられ、グレゴルは頷いた。


「ラザノル教授からは、魔核を取り除く方法がわからない。治療できないと言われた。

 教授は、法座主猊下なら、何か方法をご存知かもしれないと話してくれた」

 

 グレゴルは、再び椅子から立ち上がり、いきなり平伏した。


「明妃殿下、お願いです。私は、娘を死なせたくありません。殿下から、猊下へ、何か方策はないか、お尋ねいただけませんでしょうか。どのような犠牲でも払います。どうか、何卒、私の娘エスメルをお助けください」

 

 リーユエンは、しばらくの間、平伏し続けるグレゴルを見下ろしていた。それから、尋ねた。


「あなたは、エスメルを助けてほしいと願っているが、彼女が、仮に、助かったとしても魔力を一切失い、二度と使えない状態になるかもしれない。それどころか、正気を失ってしまうかもしれない。そうなっても、あなたは、そのように変わらず娘を愛し続けることができるのですか?」

 

 それは、厳しい問いかけだった。けれど、グレゴルは躊躇うことなく即答した。


「娘の命が助かるなら、魔力が使えなくなろうとも、正気を失おうとも、私は、一生面倒を見ます。魔力があろうとなかろうと、正気であろうとなかろうと、私の愛する娘であることは、決して変わりません。

 誓って申し上げます。私は、エスメルの命が助かるのなら、私自身の命と引き換えでも構いません」

 顔をあげ、グレゴルは叫ばんばかりに訴えた。


 リーユエンは無表情で、その訴えを淡々と聞いていた。そして、しばし黙考した。


「わかりました。この件は私がしばらく預かります。あなたの期待に添えないかもしれませんが、三日以内に結論を出しましょう」

 

 リーユエンは立ち上がり、部屋から出ていった。


 グレゴルが離宮を退出した後、リーユエンは、難しい顔でお茶を飲んだ。


 ウラナは、リーユエンの様子に思わず尋ねた。

「あのお方は、リーユエン様に何用でこられたのですか」 

 

 リーユエンは椅子からウラナを見上げた。

「ものすごい厄介事を頼まれた・・・まさか、あれほど娘を溺愛する父親だとは、知らなかった」

 

 ウラナは、だんだん嫌な感じがしてきた。

「まさか、エスメルとかいう赤毛の女の父親ですか?」


「そう、ドロメル当主は、エスメルのお父上だ」


「あれだけ殿下に迷惑をかけた女の父親が、今さら何を願うと言うのですか、図々しいにもほどがございますよ」

 

 リーユエンは茶碗を受け皿に戻し、また考え込んだ。


 ウラナは、もう我慢の限界だった。リーユエンの傍に跪き、顔を見上げた。


「いけませんよ。情けに流されてはなりません。あのような者たちが、あなたを煩わすなんて、不敬もいいところです。魔核を受け入れたのは、本人の責任なのですから、放置なされば良いのです」


(ウラナの独白)

 リーユエン様は、憂鬱なお顔で考え込んでおられます。

 お傍に控える私は、もう気が気ではございません。

 

 このところ、リーユエン様は無理ばかりして、もう満身創痍でございます。

 瑜伽業の無理で倒れられ、療養なさっていたのに、今度は、動力炉の暴走を押さえつけ、また内傷を負われて、それがまたやっと癒え始めたと言うのに、あのカスパルとか言うけしからぬ輩は、尊い明妃殿下の脇腹と、その上、プドラン随一の至宝である美しい顔を蹴り付けたのでございます。

 それを聞いた時には、恥を忍び原身を曝してでも、そ奴を締め上げ、全身粉砕骨折であの世送りにしてやろうかと思いました。

 

 話が逸れてしまいました。(咳)

 

 リーユエン様は、先ほどのグレゴルとかいう、ドロメル当主の訴えを、お聞きになってから、生真面目に考え込んでおられます。

 けれど、あの男の言い分は身勝手すぎます。魔核を入れられたのは、エスメルとかいう、あの意地悪な女教師が受け入れたからで、自業自得ではございませんか。

 その上、あの女は、リーユエン様を脅しつけて、拉致までしたのですから、もう立派な犯罪者です。そのような者に、どうして煩わさなければならないのでしょう。

 そんなの理不尽でございます。もう、放置しておけばよろしいのです。

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