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リーユエンが気を失い、ポルブは慌ててカスパルを呼ぼうとした。しかし、やって来たのは、ツォンパだった。
ツォンパは、リーユエンの首筋に手を当て、脈を確認すると、
「上の階へ運び出せ」と、ポルブへ素っ気なく指示した。
ポルブは指示通り、リーユエンを担ぎ上げ、階段を上がり、隠し扉を開けて上階へ移動した。すると床には、例の白い魔法陣が描かれてあった。それは、ポルブの知らない文字で描かれた魔法陣だった。
魔法陣の外縁に立つツォンパは、ポルブへ、
「ここを嗅ぎつけた法座主の手下共が、もうすぐやって来る。我らは、別の隠れ家へ移動する」と言い、
「リーユエン様を担いだまま、魔法陣の中へ入れ」と、指示した。
ポルブが言われた通りにすると、周囲が突然、陽炎のように揺らぎ始め、眩暈が起きたと思った瞬間、全然違う場所に移動していた。
「えっ、カスパル・・・」
周囲を見回していたポルブは、足元にカスパルが倒れているのを見つけて、ギョッとした。
カスパルは、顔が青黒く腫れ上がり、口からは泡を吹き、脇腹を抑え呻き声をあげて、悶え苦しんでいた。
カスパルのことが気になったが、まずリーユエンをどうにかしなければと思い、部屋の隅にあった、寝椅子へ横たえた。そして、カスパルの様子を見ようと振り向いたとき、部屋の扉が開き、真っ青な顔のエスメルが入ってきた。
ポルブは、エスメルへ、慌てて駆け寄り尋ねた。
「ここはどこなんだ?カスパルは、どうしたんだ」
エスメルは、ポルブを不機嫌な顔で睨んだ。
「質問は一つずつにしてほしいわ、まず、ここは、カスパル所有のどこかの山荘らしいわ。
それから、カスパルは、ツォンパから、リーユエン先生を無傷で捕らえておけと指示されていたのに、その指示を守らなかったから、罰っせられたのよ」
カスパルは、呻き声の合間に「ちくしょう、ちくしょうめ」と、悪態をつき続けた。
(カスパルの独白)
ちくしょう、魔核さえ手に入れば、無限の魔力を使い放題だから、あんな化け物魔導士とはさっさと縁切りしてやるぜと、思っていたのに、あの野郎、俺を騙しやがった。
あいつは、魔核を俺の体に仕込んだ時、何か細工をしたに違いない。
あいつの眸が縦長になったと思ったら、その瞬間、腹の中が焼かれるように痛くなった。おまけに顔が、殴られてもいないのに、腫れ上がって、ひどい頭痛までして、吐きそうだ。
くそ、ツォンパの奴、絶対許さねえ、絶対、締めてやる。
ポルブは、エスメルへ尋ねた。
「エスメル先生は、異常はないのか」
「私は、今のところは、何ともないわ。
でも師匠からは、リーユエンに危害を加えたら、おまえもこうなるぞって脅されたわ。
どうして、カスパルは、あんな事になったのよ。
師匠は、カスパルに指一本触れなかったのよ。ただ、何か低い声で唱えただけで、こんな風になってしまったのよ」
ポルブは言うべきか言わないでおくべきか迷ったが、結局話す事にした。
「気を失う前に、リーユエンが言っていた、あの師匠はおそらく玄武だろうって・・・・・・
そして魔核を体内に成すには、太極石を閉じ込められるだけの、丈夫な核を作り出す必要があり、それが可能になるのは、第七階梯からだって、そして、長い時間をかけた修練によって、核殻に強度を持たせる必要があるそうだ。
魔核を閉じ込める核殻の強度が不十分な状態で、太極石を取り込めば、その力を制御しきれず、体内で内傷が生じ、最悪、死亡するって・・・」
エスメルは、呆然と話を聞いた。
「それなら、、どうして私たち、魔核をもらって平気なの?」
ポルブは、エスメルへ真相を告げた。
「リーユエンは言っていた。『魔核を得たというのなら、核殻ではなく、法力の力で太極石の暴走を抑え込んでいるだけなのでしょう』」
「そんな・・・私は、騙されていたわけ・・・」
ちょうどその時、エスメルの背後から、ツォンパの声が響いた。
「騙されたとは、随分、恩知らずなことを言うのだな」
エスメルは、「ヒッ」と息を呑み、恐怖のあまり開いてしまった瞳孔で、後ろを振り返った。
「師父、あなたは、玄武なの?」
ツォンパは、目を細め不気味な笑顔を見せた。
「左様、その通り、わしは、玄武。西荒の奥地、極光山に大国を築いたかつての白玄武、ヨギを開祖とする、ヨギの玄武魔導術の承継者が、このわし、ツォンパなのだ」
「白玄武ですって・・・そんなのあり得ないわ、あの国は、二千年近く前に、大牙の一族、銀牙によって滅亡したはずよ」
「立ち話は疲れるから、中へ入れてもらおうか」
ツォンパは、自分の頭より頭一つ分長い杖を手に、部屋の中へ入ってきた。そして、長椅子へまっすぐ歩いて行き、リーユエンをのぞき込んだ。
「ふむ、内傷を負っておられるな。当分は安静にさせねばならない。エスメル」
ツォンパは、急に冷たい口調へ変わり、エスメルを呼びつけた。細まった目は、冷酷な視線をエスメルへ向けた。
「リーユエン様は具合が悪いのだ。おまえは、このお方のお世話をよくしてさし上げるのだ。カスパルのように不服従な真似をすれば、おまえも法力を弱め、内傷を生じさせるぞ」
内傷と聞いたエスメルは、恐ろしさに身慄いした。すぐさま、揖礼し、「畏まりました。お世話いたします」と素直に応じた。
「よろしい」
ツォンパは冷たい口調で言った。それから、また、猫撫で声に戻った。
「さあて、わしは、畳地連結を立て続けにやってのけて、疲れてしまった。
リーユエン様からご褒美をいただくとしようか」
そう言うや、長椅子に横たわるリーユエンの上にひらりと跨り、その胸元をはだけて、いきなり大口を開け、胸元へ牙を突き立てた。
それを見て、エスメルも、ポルブも声にならない悲鳴をあげた。




