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ロージーが、眉尻を下げた。
「私たち、まだ魔力をたくさん使えるほど力がありませんわ。どうしましょう」
モンシェンが、タロナへ尋ねた。
「それって、どれくらい魔力が要るんだ?」
タロナは夏季休暇の間、ウラタナ村へ帰り、曽祖母の手伝いをした時の会話を思い出そうと集中した。
(あの時、大お祖母ちゃんは、私に何と言ったかしら)
日中は、診療の受付や、カルテの整理を手伝ったタロナは、家族みんなで夕食を食べ、その後、短い夏を楽しむため、家の屋根にあたる低い丘の頂上へ、ハンモックや蔦の網椅子を持って上がり、曽祖母たちと、おしゃべりを楽しんだ。
その時、タロナは、第三クラスで経験した色々なことを話した。そして、曽祖母であるタルタネアに、リーユエン先生と初めて会った日、足に靴擦れができて痛がっている自分を、先生が抱え上げて騎獣へ乗せてくれたことを話した。
「私、その時、先生にまだ、共情ができることを話してなくて、先生が素手で私の体に触れたとき共情状態になったの。その後、演習林の中を通り抜けた時、前に契約した使役魔獣が死んだことを思い出して、先生が悲しんでいるって分かってしまったの」
タルタネアは、片方の眉だけ器用に跳ね上げた。
「おや、おまえは、あの先生と共情したのかい。そのことを、先生には、正直にお伝えしたんだろうね」
「うん、面談の時に話したの。先生、物凄くびっくりしてた」
「前の担任みたいに、おまえの事を病気扱いしたりしなかったのかい?」
「ううん、そんな事なかったよ。先生は、大祖母ちゃんのことも 『共情能力の高さと、その高度な癒しの治療技術で、あなたの曽祖母さまは、『共情の聖女』と号されるほど高名なお方ですもの、知っていて当然ですよ』って、お話しになっていた。
それに、私がまだ共情をうまく制御ができないって打ち明けたら、『他の人との接触は自分で気をつけなさいね』っておっしゃっただけだった」
「ふむ、去年の愚かな担任よりは、よほど優秀だ。さすが、ミン・・・だね」
曽祖母が最後に言った言葉はよく聞き取れなかった。
今、その時の会話を思い返したタロナは、曽祖母は、もしかしたらあの時、「明妃」と言ったのかもしれないと思った。
曽祖母は、リーユエン先生に会ったとき、明妃だと気がついたのだろう。その後も、タロナは、リーユエン先生の事を曽祖母にたくさん話した。
曽祖母は、タロナの頭を撫でながら言った。
「おまえはリーユエン先生が大好きなんだねえ。それなら、気をつけるんだよ。一度、共情した相手のことを強く思いすぎると、また、その相手と勝手に繋がってしまうことがあるんだ。どうしても行方を知りたい時なら、あえてそうすることもあるが、普段はあまり強く思いすぎないように気をつけなさい。相手にとっては、迷惑だからね。それに、共情は、すごく力を使うから、必要もないのに、共情しないように気をつけなさい」
タロナは、曽祖母の言葉を思い返し、無言になった。
すると、マルテンが、生真面目な顔で言い出した。
「力が要るのなら、あの模範演技のときみたいに、みんなで魔力を循環させて、強めればいいんじゃないのか。
そうして、タロナへ魔力を与えて、リーユエン先生の行方を探してもらおうよ。一日経っても戻ってこないんだから、俺たちも探そうよ」
ロージーが目を輝かせた。
「そうね、それがいいわ。私たちみんなで、魔力を出し合って、リーユエン先生の行方を探しましょうよ」
怖がりのハンツォンも魔力を分けることくらい、別に危険でもないなと安心した。それですっかり前向きになり、「そうだね、そうしようよ」と賛成した。
モンシェンは、「みんなで、中庭の広いところで円陣を作ろうよ」と、外へ出ることを促した。
五人は、荷物をそのままにし、もう日が暮れて闇に包まれようとする中庭を歩き、東屋に近い池のそば近くへ来た。
タロナ、ロージー、モンシェン、マルテン、ハンツォンは円陣を組んだ。そして、全員で、結跏趺坐し、お互いの気の流れを意識し、円陣の中に五芒星を観想した。
そして、一斉に立ち上がると、一糸乱れぬ動きで、四神獣大鵬拳を開始した。
厚い雨雲を切り裂く昇竜の動きを真似た回転蹴り、最果ての北にあるという黒い冥海で、北嶺の頂に達するほどの大波を、尾鰭の一叩きで起こすという巨大魚鯤を模した側転、そしてひと羽ばたきで、一気に一千里を飛行する大鵬鳥を模した構え、一巡するや、タロナを起点に霊力を五人で循環させ、次々に打突し、力を高め、魔力へと精製し、それを五芒星の真ん中へ移動したタロナへ、ロージーが打ち込んだ。
タロナの体から、五人の霊力から作り出された魔力が、空へ向かって打ち上げられ、光の柱となり金色に輝いた。
(リーユエン先生、どこにいるんですか?先生、タロナです。返事をしてくださいっ)
タロナは、懸命にリーユエンへ呼びかけた。タロナだけではない、四人の生徒たちは、全員、懸命にリーユエンへ呼びかけた。
生徒を引率し、学院島へ連れて帰ろうと、転身したペリオンは離宮の上空へ近づいた。その時、離宮の中から、柔らか金色に光る柱が、天へまっすぐ伸びていくのを目撃した。
「一体、あれは何だ?」
上空のうっすらと雲のかかったところにその光が当たると五芒星が浮かび上がった。
ペリオンは、慌てて下降し、離宮の門前に降り立ち転身を解くや、門番へ自分の身分を告げて、取次を頼んだ。




