↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔導士学院生は、今日も元気ですっ!(落ちこぼれ呼ばわりされても、くじけません)  作者: nanoky


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

123/138

(123)

 その日の夕暮れ近い頃、リーユエン捜索に捗々(はかばか)しい成果が上がらないナーガムは、自身の執務室で、学院島で起きた事件の資料を見ながら、考え込んでいた。


(明妃殿下が連れ去られたのは、やはり事件と関連があるのだろうか?

 しかし、法座主の力が(あまね)く及ぶこのプドランの地で、そんな大それた犯行に及ぶとは・・・

 猊下は反応を感じるが、どこにいるのかが分からないと悩んでおられた。大切な昇格試験の期間中だ、猊下のお心を悩ます問題は、早々に解決せねばならないというのに、足取りすら掴めないとは・・・)

 

 何度も見落としたところはないかと、資料を見返すのだが、何も手掛かりが見つからない。そこへ、総執行に仕える見習い玄武の一人が、扉を叩き、中へ入ってきた。


「総執行、サラザルのデリオンと名乗る男が、面会を求めております」

 

 総執行の机の傍で、彼と同じように手がかりを探そうと、資料を読み耽っていたツカリーゼ教授が顔をあげた。


「デリオンってサラザルの当主だわ」


 ナーガムは、見習い玄武へ、「お通ししろ」と指示した。

 

 薄灰色のメガネをかけたデリオンが、入ってきた。

 分厚い資料の束を見て、デリオンは目を細めた。


「サラザル当主、デリオンでございます」

 デリオンは胸元へ手を当て、総執行へ丁寧にお辞儀した。それから、ツカリーゼに気がついた。


「おや、ツカリーゼ教授もいらっしゃったのですか」


「ええ、少しお手伝いをしているのよ。ご多忙なサラザル当主が、わざわざ法座主府へ来られるなんて、一体どうなさったのかしら」


 デリオンは、ツカリーゼと総執行へ素早く視線を走らせた。

「総執行もご多忙のようだから、単刀直入に申し上げる。明妃殿下の捜索に協力します」

 

 ナーガムは眉毛を微動だにせず、デリオンを見た。

「何のことだ?」

 

 ツカリーゼも、眉毛を動かさず、ナーガムとデリオンを見比べた。

(サラザル当主、明妃殿下が行方不明って、もう情報をキャッチしたわけ・・・どれだけ情報通なのよ、恐ろしい・・・)

 デリオンは、執務机の資料へ視線を落とし、微笑んだ。

「東三条通 山猫筋交差点の噴水広場、あの周辺には、サラザルの一員がよく屋台を出しているのです。今日の正午ごろ、噴水池の縁石に、長身で細身の魔導士が腰掛けているのを、その屋台の店主が目撃している。そして、その魔導士にもう一人の魔導士が近寄り、しばらく立ち話をした後、二人で姿を消した」


「もう一人の魔導士・・・」

 思わず呟いたナーガムへ、デリオンはさらに告げた。


「もう一人の魔導士のフードの隙間から、燃えるように紅い髪が見えたそうだ」

 

 これには、ツカリーゼが椅子から腰を浮かせた。


「縁石に腰掛けていたのはリーユエン先生でしょう?

 その後、玄武兵が周囲を封鎖し、捜索していた。私は、取引に来たのではない、本当に捜査協力のため情報提供に来たのだ」


 ナーガムとツカリーゼは、視線を合わせた。

(さすが、サラザルの当主だわ、玄武兵が動いたというだけで、ここまで気がついてしまうなんて・・・それに凡人関係の情報は、総執行がいくら有能だとは言っても玄武だから、集めるにも限界があるわ。確かにサラザルの情報網が利用できれば、捜索しやすいわね)

 

 ツカリーゼは、微かに頷いた。ナーガムはデリオンへ座るよう勧めた。


「サラザル当主、どうぞ座ってくれ。わざわざご足労いただいて、感謝する」

 

 ナーガムは、学院島の動力炉から魔石が盗まれ、機関室付きの技師と整備士、それに都から派遣した技師も殺されたこと、犯人がエスメルの職員証を利用して、機関室へ侵入したこと、エスメルは行方不明なこと、そして、今日、噴水広場を最後に、リーユエンの行方が分からなくなったことを話した。

 

 デリオンは、動力室へ侵入した者たちの映像を見せてほしいと言った。ナーガムは機関室の魔鏡に記録されていた、侵入者の映像を映し出した。それを見るなり、デリオンは激しく動揺した。


「このエスメル先生の姿、これは水霧術を使った幻像だ。これはサラザルの秘術で、誰でも使えるものではない」


(エエッ! サラザルの連中まで関わっているの。何てことなの、ドロメル、サラザル両方だなんて・・・)

 

 ツカリーゼが呆然とし、ナーガムが難しい顔で考え込んでいるところへ、玄武見習いが書類を持ってきた。

「ツカリーゼ教授、本草科のハイメル教授から、分析結果が届きました」

 

「あら、ありがとう」

 ツカリーゼは、男前の玄武見習いから封緘された報告書を受け取り、中身を取り出し、すぐ目を通した。


「さすがは、ハイメル先生、一回洗った服だったけれど、成分を抽出できたみたい」

(うわっ、これって中毒性のある幻覚作用や、麻酔作用のある禁止薬物じゃないの・・・性格は最悪だけれど、生真面目なエスメル先生は、薬物になんか、絶対手を出さないタイプのはずなのに、どうしてこんな薬物の匂いが、服に染み付いていたのかしら?)

 

 ナーガムも分析結果が記された報告書を一読し、それをデリオンへ渡した。


 デリオンは、それを見るなり、

「この薬物を扱う店は、下層地区に一軒あるだけだ」と言った。


 ナーガムが鋭く、彼を一瞥した。

「それは、どこの店だ」


「下層地区十三条西下るタウナギ横丁にある青鷺洞だ。あそこは、確か、魔導士学院を退学処分になったカスパルが店主のはずだ」


 ナーガムは、デリオンへ詰め寄った。

「そこへ、すぐ連れて行ってくれ。手がかりがあるはずだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。