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黙り込んだリーユエンへ、ポルブが言った。
「カスパルは、『エスメルと俺は、師匠から魔核を授かった、これで、もう無敵だ』と、言っていた」
「魔核っ、本当に魔核と言ったのですか?」
ポルブは頷いた。リーユエンは、ポルブへ尋ねた。
「ポルブ先輩は、魔核を貰ったんですか」
ポルブは首を振った。
「いや、俺は、まだ貰っていない。魔核を体内に入れるのは、力を凄く使うそうで、今回は、二人だけだった」
リーユエンは、腫れ上がった顔をポルブへ向けた。
「魔核をもらうのはやめておいた方がいいですよ。下手したら、死にますから」
「えっ、どういうことだ?」
リーユエンは、もう躊躇わなかった。ポルブに、今の状況をはっきり自覚させるため、秘訣を明らかにすることを決断した。
「ポルブ先輩は、ご存知でしょう。
魔導士階梯は、第五階梯までは、才能と努力次第で、十数年から数十年で到達できる。けれど、そこから上、第六階梯を越えると、なかなか上の階梯へ到達することができない。そして、現在、第七階梯到達者は、協会の公式登録では、誰もいないことになっている。どうしてなのか、わかりますか」
「いや、そんな上の階梯は、俺には縁のない世界だから・・・」
「ゴドロフ学院長の第八階梯、ヨーダム太師が到達していると言われる第九階梯、ここへ到達するには、数百年単位の時間を要するからです。そして、カスパル先輩が話した『魔核』というのは、大魔導士の体内にある、太極石を中心部に据えた核のことです」
「太極石・・・俺たちが盗み出したあの石のことなのか」
「そうです、太極石を体内に取り込めば、外からは風を取り込み、中では太極石から生じる魔力素、この二つを循環させ、強大な魔力を作り出せるのです。ただし、それを可能にするためには、自分自身の体内に、太極石を閉じ込められるだけの、丈夫な核殻を作りだす必要がある。それが可能になるのが第七階梯からなのです。
体内に魔核を閉じ込め、安定させるだけの、十分な強度の核殻を作り出すには、長い時間をかけた修練が不可欠です。核殻の強度が十分でない状態で、太極石を取り込めば、太極石の力を制御しきれないため、体内では内傷が生じ、最悪、死亡します」
「・・・・・カスパルは第七階梯なんか到達していない、どうして生きているんだ?」
「法力ですよ。
おそらくツォンパは、見かけは凡人だが、正体は玄武でしょう。あなたの体の刻印、それは玄武国では見かけない紋だが、玄武紋である事は間違いない。あなたの魔力が突然復活したのは、法力を得たからです。そしてカスパルの力が強くなった原因も同じです。魔核を得たというのなら、核殻ではなく、法力の力で太極石の暴走を押さえ込んでいるだけなのでしょう」
「なんてこった・・・それなら、俺たちは、ツォンパの法力がなくなったら、元通りになるのか」
「元通りでは済まないかも知れませんね。法力を無理に通せば、経絡は相当痛みます。法力で絶えず、再生させ続けているのでしょう。魔力を使いすぎると、ますます危険な状態になりますよ」
絶望したポルブは、床に手をついた。
「ハ、ハハッ、話がうますぎると思ったんだ。でも、どうしても魔力を取り戻したかったんだよ。それじゃあ、俺は、もう師匠の法力に縛られて、逃げ出すこともできないんだな」
リーユエンは、何も言わなかった。
魔導士学院で学んだのだから、ポルブは当然、玄武紋のことも学んでいる。それを凡人に刻みつければ、凡人を奴婢として使役できることもわかっている。
ヨーダム太師ら、学院の創設者たちは、凡人が奴婢のように玄武に縛り付けられないため、苦しい修行を経て、自身の力で核殻を作り出し、魔核を制御できるようになるまで、太極石を体内に取り入れないよう、階梯を秘訣とし、一階梯上がるごとに次の階梯を明らかにし、階梯の全容は秘匿することにしたのだ。
現法座主のドルチェンは、ヨーダム太師たちの方針を支持した。ドルチェンは、銀牙を滅ぼしたが、その遠因となった白玄武と銀牙一族との支配関係には疑問を持っていた。玄武国で、そのような凡人の支配を行うことには反対の立場だった。
(玄武国では、法座主府が、凡人を法力で支配することは違法とする立場で、厳重に取り締まっているはずなのに、どうしてこんな事が起きたんだ。ツォンパは、玄武にしては体が小さずぎるし、中有と現世を自由に行き来ができると言っていた。まさか、ドルーアのように魔境に堕ちた玄武なのか・・・)
リーユエンは、考えようとしたが、さらに体の脱力は進み、もう、目を開けていることさえ辛かった。
(ダメだ・・・もう、意識が・・・)
ポルブはリーユエンの異変に気がつき、彼女の肩を揺さぶった。
「リーユエン、どうしたっ、しっかりしろ」
肩を揺するとそれに合わせて首も頭もグラグラ動き、壁から体は崩れ落ち、床へ倒れた。
ポルブは、まさか死んだのかと思い、首に手を当て脈を確認したが、弱々しい脈拍を確認し、ほうっと息を吐き出した。
「どうしたんだ、カスパルが痛めつけすぎたのか・・・」
カスパルは、顔まで蹴飛ばしたが、骨まで折れてはいない。カスパルは、昔から、相手を痛めつけながら、後々ダメージを残しにくいやり方が巧いのだ。
(カスパルは、昔もリーユエンに対してだけは、ひどく凶暴だった。どうしてなんだ・・・)
ポルブは、いつまでも床に寝かせては置けないと思い、彼女の脇の下に手を入れ、長椅子まで引きずっていき、そこへ寝させた。
(俺は、これからどうなってしまうんだ・・・師匠の法力がなければ、もう魔導士ではいられない、それに、師弟関係の解消なんて、絶対許さないだろう。いや、師弟関係じゃない、俺はあいつの奴隷にされたんだ)




