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魔導士学院生は、今日も元気ですっ!(落ちこぼれ呼ばわりされても、くじけません)  作者: nanoky


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(12)

 リーユエンは生徒たちを見回し、

「他に足が痛い者はいないか?」と尋ねた。皆、首を振った。

 

 ロージーは、リーユエンに言われた通り、編み上げ靴に履き替えてよかったと思った。最初の華奢な靴では、林の中を抜けることすらできなかっただろう。

 

 タロナ以外、皆、歩けるのを確認し、リーユエンは、

「休憩は終了。グリエール老師の塔には、夕暮れまでに到着したい。君たち、あともう数時間頑張って歩いてくれ」と、言った。

 

 タロナは、白布をとり、まだ赤い足を編み上げ靴の中へ入れた。

(本当だ、ちゃんとサイズが合っているわ。さっきと、全然履き心地が違う)

 リーユエン先生には、すごく感謝したけれど、靴擦れが治ったわけではないので、この足でまだ数時間も歩くのはすごく憂鬱だった。


 ところが、リーユエンは彼女へ近寄ると、

「ちょっと失礼」と、声をかけるや、胴を両手で抱えあげた。気がつくと、タロナは騎獣の鞍の上だった。

 

 リーユエンが、騎獣の手綱を取りながら、タロナへ、

「君は靴擦れがひどいから、無理に歩かない方がいい。騎獣に乗っていなさい」と、言った。


 タロナは、雪ウサギの一族で、体は小柄で、騎獣に乗ったことがなかった。鞍に跨っても、足は(あぶみ)に届かず、ぐらつく体をどうしようかと、オロオロするタロナへ、

「鞍の前に取手があるだろう、それを両手で掴んで、揺れたら足を踏ん張って落ちないように気をつけなさい」と、リーユエンは指示した。タロナは、「はい」と、返事をして取手を掴んだ。

 

 ハンツォンは、騎獣に乗ったタロナを見上げ、

(やっぱり小柄な女の子は得だよな。もう、騎獣に乗せてもらっている。リーユエン先生は、どうして人数分の騎獣を用意してくれないんだろう。みんな、一頭ずつ騎獣に乗っていけば、楽に行けるのに・・・こんな長距離歩くなんて、時間の無駄だよ)と、思った。

 

 リーユエンは、ロージーへ、

「君はまだ歩けるよね」と、確認した。ロージーは頷き、

「もちろんですわ。先生」と、元気よく返事をした。


 リーユエンは、男子生徒三人へも

「君たちも、まだ歩けるね」と、確認した。


 モンシェンはムササビ族、マルテンは雪豹族で、二人とも山育ちなので、この程度の道は全然平気だった。それで、二人揃って

「問題ありません」と、返事をした。そうなると、内心では不満があっても、ハンツォンだって他の男子生徒の手前、騎獣に乗りたいなんて言い出しにくい、結局「俺も大丈夫です」と、返事をするしかなかった。

 

 彼らはさらに森の奥深くへ分け入った。

 騎獣二頭の手綱を持ち、後方にいるリーユエンから、生徒たちへ、

「この森は、五、六回生の戦闘魔術演習場だ。魔獣や妖魔の類がいるから、大声は出さないように」と、注意があった。


 男子生徒三人は、それを聞いて、恐ろしいと思う反面、魔獣や妖魔がどんな風なものなのか、怖いもの見たさの気持ちが生じた。

 

 ロージーは、リーユエンの注意を聞いて、

「あら、魔獣や妖魔って、確か、演習中に優秀な生徒なら、使役魔として契約を結ぶ人もいるって聞いたことがありますわ」と、魔導庁長官の受け売りで言った。


 それに対して、リーユエンは、

「使役魔にするには、何らかの対価が必要だし、使役魔の世話をする責任も生じる。軽々しく決断しない方がいい」と、応えた。

 

 その声を聞いたタロナは、驚いた。リーユエン先生が、何だか悲しいのをこらえて言っているように聞こえたのだ。タロナは、他人の感情の揺らぎにとても敏感なのだ。


 雪ウサギ族の呪術師である祖母は、タロナのことを、

「お前は、(かんなぎ)の才能があるから、魔導士学院で勉強しなさい」と、受験を後押ししてくれたのだ。


 先ほど、先生に抱き上げて騎獣に乗せてもらい、タロナはリーユエンの体と接触したので、先生の感情の動きがよく分かるようになった。

 先生は、厳しく沈んだ表情のせいで、何だか恐ろしい人に見えたけれど、抱き上げてもらった時に、とても繊細で優しい感情が流れ込んできて、歩けなくなった自分のことも気遣ってくれているのがはっきり伝わってきたのだ。そして、今は、どうしてなのかは分からないが、先生は使役魔の話をするのが辛そうだった。

 

 タロナが気づいた通り、リーユエンは、ドルーアの毒にやられ、失ったアスラのことを思い出して悲しんでいたのだ。けれど、そんな感傷に浸る暇などなかった。

 この危険な演習場を早く通りぬけ、五人の未熟な生徒たちを、日暮までに魔導師塔まで連れて行かなければならないのだ。リーユエンは自身の感情を殺し、目の前の生徒たちの安全に気を配り、周囲の気配を油断なく探った。



 その頃、魔導士学院の五、六回生の学舎を飛び出した使役獣医学部の学生たちが、真っ青な顔で担当教諭の研究室へ駆け込んできた。

「先生、大変です。魔獣が制御できなくなって、森の中を勝手に徘徊しています」

 

 お気に入りの使役獣、長毛大山猫をブラッシングでお手入れ中の使役獣医学部教授のピセツキーは、ブラシを落とした。日課のお手入れを突然中断された長毛大山猫は、不機嫌な唸り声を上げた。ピセツキー教授は、ブラシを拾い上げ、

「ごめんよ〜、チェリーちゃん、あとでもう一度ブラシをかけてあげるからね、でも、今は緊急事態だから、ちょっと小さくなっててね」というや、指をパチンと鳴らした。大山猫は見る見る小さな子猫サイズになった。


「どうして、制御できなくなった。決まった区画にいたはずだろう」

 

 駆け込んできた二人の学生は、顔を見合わせた。

「それが、一昨日と昨日の餌やり当番が、餌やりを忘れていて、腹を空かせて、区画の結界を破って飛び出してしまったんです」


「何だとっ、馬鹿者、使役獣の餌やりを忘れるなんて、主失格だぞ、非常事態発生の鐘を鳴らせ、演習場は立ち入り禁止だ。すぐさま、捕獲に向かうぞ」

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