(11)
彼らは、午前中に出発し、昼過ぎには林を抜け森へ入った。
けれど、グリムエール老師の魔導士塔まではかなりの距離があり、まだまだ歩かなければならなかった。
第三クラスの中で一番小柄なタロナは、足がひどく痛くなってきた。
(私は、すごく小柄だから、購買部で編上靴を買おうとしたら、ちょうどいいサイズの靴がなかった。購買部のおばさんには、あんただってすぐ背が伸びて大きくなるから、大きめを買っておきなさいって、大きな靴を押し付けられちゃった。ブカブカだから詰め物をしたけれど、足が擦れてもう痛い、我慢できない。でも、今、弱音を吐いたら、森の中に置き去りにされるかも知れない)
その時、一番後ろから、前を歩く生徒たちへリーユエンから、
「休憩しよう。一旦停止」と、声が掛かった。
そこは森の中の開けた場所で、小さな泉があった。リーユエンは騎獣を水辺へ連れて行き、水を飲ませ、自分の信玄袋を取り出すと、その中から、白い包みを取り出した。
「ロージー、みんなに配って」と、いい、それをロージーへ渡した。
包みを受け取り、中を開けたロージーは、「うわっ、美味しそう」と、歓声を上げた。
包みの中には、肉や野菜を炒めたものを包み込んだ揚げ菓子と、甘い餡を包み込んだ蒸し菓子が綺麗に並んでいた。ロージーは、みんなへ、揚げ菓子と蒸し菓子を一個ずつ配った。
菓子を受け取ったタロナは、ロージーの横に座り、黙ってお菓子を食べた。けれど、足が痛くてたまらず、もう立ち上がって歩けない…どうしようと、涙目になった。
「君、靴が合っていないのか」
上から声が降ってきて、タロナはビクッと顔を上げた。
リーユエン先生の紫眸が、自分を見下ろしているのに気がつき、タロナの目から涙がじわっと溢れ出た。
(見つかっちゃった。先生は、きっと怒って、私のことを置き去りにしちゃうわ)
タロナは、涙をボロボロ流しながら
「先生、まだ歩けます。歩きますから、置いていかないでください」と、必死で訴えた。
その横では、いきなり泣き出したタロナに、ロージーが驚き、
「何を言っているの。置いて行ったりするわけないでしょう」と、慰めた。
リーユエンは、タロナの反応に構うことなく、そばにしゃがむと、
「靴を脱がすから、動かないで」と言い、編み上げ靴の紐を解いた。それから、靴をそっと脱がせた。
「まあ、ひどい靴擦れだわ。そんなのでよく歩いていたわね」と、ロージーもタロナの真っ赤になった足を見て、同情した。
リーユエンは立ち上がると、泉の方へいき、白布を水に濡らしてくると、タロナの足へ濡れた布を巻きつけた。
「これで、しばらく冷やしなさい」
清水の冷たさで、足の痛みが和らぎ、タロナは落ち着きを取り戻した。
リーユエンは、タロナの靴擦れの具合を確かめ、それから、靴とタロナの足をじっくり観察した。
「この靴は、学院の購買部で買ったのだろう。どうして、サイズが合っていない?」
リーユエンの問いに、タロナは購買部を仕切るおばさんから言われたことをそのまま伝えた。
リーユエンは、こめかみを抑え、
「まったく、あのおばちゃんは、今でも相変わらずだな」と、小さな声でこぼした。そして、タロナの靴を二足揃えて、自分の前に置き、手をかざした。青白い光が現れ、タロナの靴が光に包まれた。そして、光が消えた。
「靴擦れが治ってから、履いてみるといい、これで多分、君の足に合っていると思う。また、合わなくなったら、言ってくれれば、調節するから」
「は、はい」
予想に反して、先生は怒らなかったので、タロナは驚いた。
リーユエンのことを、ものすごく厳しい怖い先生だとばかり思っていたのだ。けれど、休憩して、おやつをくれたし、靴擦れの手当てまでしてもらい、その上靴のサイズまで調節してくれたので、本当は、怖い先生ではないのかもしれないと思った。
モンシェンは、青白い光を見て、仰天した。
(凄い、錬成術だ。リーユエン先生は、錬成術ができるんだっ)
モンシェンの一族の亡くなった魔導士は、錬成術が使えた。
彼も、小さな頃、その魔導士が錬成術を使うところを一度だけ見たことがあった。青白い光が広がり、壊れた騎獣牽引車の折れた車軸が見る見るうちにつながり、真っ直ぐになった。
けれどその術を使った後、魔導士はくたびれ果てて、動けなくなった。大きな車軸を直すのに比べたら、靴のサイズの調節くらい大したことではないのかもしれないが、それでも、錬成術を使った後、特に疲れた様子もないので、リーユエン先生は、もしかしたら、偉い魔導士なのかもしれないと思った。




