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太極石強奪発生後の数日間、ナーガムの指揮のもと、エスメルの捜索を続ける一方で、リーユエンが指摘した容疑者像に基づき、魔導士学院の卒院者の中で、動力機関科を専攻した学生を抽出し、その日のアリバイ確認が続けられた。動力機関科を専攻する学生自体が少数で、卒院生のほとんどは、動力保安局の役人になっており、怪しい者は見当たらなかった。また、元教員、現教員など学院関係者全員についても調査され、全てアリバイを確認した。
強奪事件後の事情聴取や、諸々の調整で多忙であった学院長は、ようやく学院島へ戻り、執務を再開した。そして、ナーガムが送ってきた動力機関科の名簿を見て、あることに気がつき、魔鏡を使い、プドラン宮で捜査を続けるナーガムを呼び出した。
「総執行、あなたが送ってくれた名簿を見ておって、一人、抜けておることに気がついたのじゃ」
魔鏡越しに、ナーガムは、くっきりした眉を持ち上げた。
「教員、動力室関係者、元職員、学生、卒院生について、アデレン総務部長とザカリン教授にも確認の上、全て網羅したはずなのだが、誰が抜けているのだ?」
学院長は名簿から目線を上げ、丸縁メガネの位置を調節し、総執行へ焦点を合わせた。
「八百九年に退学処分となったカスパルというアオサギ族の男だ。彼も、動力機関科へ数年在籍しておった」
「退学者か・・・それは盲点だな。動力機関科で、不名誉な処分者が出ていたとは想定外だ。では、早速行方を探させよう」
「カスパルは、失脚したクレスパ元財務大臣の嫡男だ」
「わかった。情報提供に感謝する。クレスパの周辺から探ることにしよう」
ただの鏡に戻った魔導鏡を見つめたまま、学院長はつぶやいた。
「カスパルか・・・もしかしたら、あやつが関わっておるのかもしれないな」
普段はおどけて、頼りなく見える学院長だが、彼の頭の中には、この学院に在籍した、全ての生徒・学生の記録が整然と詰まっている。もちろんカスパルのことも覚えていた。
(魔力発動は実に強力で冴えておったのに、あの者は、己の魔力の強さに自惚れ、調息法・導引術を軽視しておった。一・二回生のうちに良い指導教諭に恵まれれば良かったのじゃが、財務大臣の息子に対する遠慮があってか、誰も真剣に指導しなかったのじゃ。そして階梯を上げることができず、数年留年が続くうちにすっかりやさぐれて、リーユエンを氷漬けにしたのもおそらくあの男だ。そのあとも階梯が上がらないまま、とうとう調整魔獣を毒殺する騒ぎを起こし、退学になってしまった。あの男は、どこで何をしておるのだろう。強奪犯でないことを祈りたいがのう)
臨時休業最終日の前日、リーユエンは第三クラス生徒たちとの約束を守るため、彼らを連れて、まず玄武国観光のお決まりのコースである、上層区の見学へ出かけた。まず、全員で法座主府宮を見学して宮殿前広場を散策し、その後、街の中層区へ出かけた。
モンシェン、ハンツォン、マルテンは、三人で一班になり、魔道具や剣や槍などの、兵器の見学に行くことにし、ツカリーゼが付き添った。
ロージーとタロナは、魔導術関係の書店と、アクセサリーや靴を見に行く予定で、リーユエンと護衛のシュリナが付き添った。
リーユエンは心の中で、嘆いた。
(こっちの班にツカリーゼ教授が付き添う方が絶対いいのに、私も魔道具や武器を一緒に見に行きたかった)
このような差配をしたのは、ウラナだった。
ウラナは、男子は活動的だから、移動距離が長くなり、内傷がまだ完治しないリーユエンの負担になってはいけないと思い、女子班の付き添いにするよう、ツカリーゼ教授に、こっそり頼んでいたのだ。
けれど、ウラナの目論見は完全に裏目に出てしまった。
彼女は、ロージーの並外れた活力を考慮するのを失念していたのだ。
初めて目にするものばかりで、すっかり心が舞い上がったロージーは、雑貨店から衣装店、靴屋と、次から次へとのぞいていったのだ。中層区へ降りてきてから正午近くまで、ロージーの精力的な活動は止むことがなかった。
そして、正午の鐘が鳴ったとき、リーユエンは、タロナとロージーを呼び止めた。
「あなたたち、ちょっと待ちなさい。お昼ご飯を食べましょう」
リーユエンは、彼女たちとシュリナを、ツカリーゼ教授に以前連れてきてもらった「紋白蝶の隠れ家」へ連れてきた。
店の外観と内装の可愛らしさに感激する二人から離れ、リーユエンは、シュリナへ昼食代を渡しながら、小声で言った。
「食事が終わったら、噴水広場へ来てちょうだい。私はそこで休憩しながら、待っているから」
「えっ、リーユエンは食事しないの?」
戸惑うシュリナへ、リーユエンは肩をすくめた。
「内傷がまだ治りきっていない。私は、まだ、麦のお粥ぐらいしか食べられないのよ」
「そうだ、食事に制限があるよね。了解、食事が終わったら、私がちゃんと噴水広場へ連れて行くよ」
「お願いね」
リーユエンは、ロージーとタロナへ、
「私は少し他を回るから、ゆっくり食事をしなさい。後で、噴水広場で会いましょう」といい、店を出ていった。
リーユエンは、瑜伽業の前には、潔斎で絶食するため、食事が取れなくても苦にならない。ただ、ロージーの買い物に対する熱意の激しさには、かなり当てられてしまい、珍しく疲れを感じていた。
魔導士外套のフードを目深に被ったまま、噴水広場へ来ると、噴水池の縁石に座り、大きなため息を思わず吐き出した。
そこへ、声をかけられた。
「リーユエン先生、随分、お疲れのご様子ね」
声の主へ視線を上げたリーユエンは、目を見開いた。
「エスメル先生・・・」




