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魔導士学院生は、今日も元気ですっ!(落ちこぼれ呼ばわりされても、くじけません)  作者: nanoky


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(116)

 ツォンパは、太極石の砕けた欠けらを両手に握りしめ、次々に口の中に入れ、噛み砕き飲み込んだ。


 カスパルは唖然とした。


(あれは、魔石の一種だぞ。魔力素の入った石の塊を、噛み砕いて飲み込むなんて、あいつは化け物なのか?)


 初めて会ったとき、ツォンパは、自分は魔導士だと名乗ったので、カスパルは、彼のことをずっと凡人だと思い込んでいた。けれど、今、この光景を目にして、自分の師匠が、不気味な化け物に見えてきて、恐ろしくなった。

 恐怖の混じった視線を向けるカスパルへ、ツォンパは顔を向け、ニヤッと笑った。


「魔石を食おうとは思わんが、太極石は別だ。これほど純粋な魔力素の結晶はないのだから、効率的に力を取り込むには、体内に入れてしまうのが一番だ。

 これから、わしは、そなたらに、秘術を施さねばならんから、魔力を強めておくために、先に食させてもらったのだ」

 

 秘術と聞いた途端、カスパルの目が輝いた。

「師匠っ、では、いよいよー」


「そうだ、この太極石が手に入ったからには、おまえに、究極の魔導の力を授けてやろう。そして、エスメル、そなたも、望むのなら、その力を同じく授けてやるがどうするね」

 

 エスメルは、喉を鳴らした。

 今以上の力、圧倒的な力、あのリーユエンを凌駕する力、喉から手が出るほど欲しいと思った。

 その一方で、不安を払い除けることができなかった。それほど圧倒的な力を手に入れる以上、必ず何らかの対価を求められるに違いない。それが払えなければ、破滅するかもしれない。

 

 カスパルが横から言った。

「エスメル先生、躊躇っている場合じゃないぜ。その太極石を、俺たちは危険を犯して奪い取ってきたんだ。俺は、圧倒的な力を手に入れたい、大魔導士どもに一泡吹かせてやりたいんだ」

 

 ツォンパが、エスメルへ話しかけた。

「魔導の究極の力とは、太極石を体内に取り込み魔核を形成し、経絡から取り込んだ(ルン)の循環へ、太極石から放出した魔力素を練り込み、魔核から循環させ、力の流れを、永久的に形成することで、初めて実現するのじゃ。

 その究極の奥義を、魔導士学院を創設したヨーダムどもは、玄武と結託して独占し、秘訣だと言って隠してしまったのだ。そのために、この秘術を授けるものが、玄武の国には、いなくなってしまった」


「では、大魔導士たちと私たちの力の差って、その魔核の有無だけなの?」

 

 ツォンパは頷いた。

 

 エスメルは、まだ疑いながらも、心は大きく傾いていた。


「魔核を手に入れさえすれば、尽きることのない魔導の力を手に入れ、自在に操れるのね」


「そうじゃ、魔導士の力の根源は、魔核にあるのじゃ。魔核が形成され、それが機能することで、初めて、真の魔導士としての階梯に達するのじゃ。そこへ達しない階梯の魔力行使など、所詮は子供騙しだ。ただの魔術師にすぎない」

 

 実際にカスパルの力を目にしてしまったエスメルには、もうツォンパの言葉に抗うことはできなかった。その都合の良すぎる話を疑い続ける理性よりも、強大な魔導の力を手に入れ、第一等の魔導士になりたいという欲望が遥かに優った。


(氷結使いのカスパルが、あれほどの術を使えるのなら、火精使いの私なら、遥かに強力な術を使えるようになる。そうなれば、あの目障りななリーユエンを圧倒することができる)


 エスメルは、ついに後戻りのできない一歩を踏み出した。

「わかったわ、あなたに弟子入りする。あなたの力を私にも分けてちょうだい」

 

 ツォンパは、目を細め微笑んだ。

「そうか、そなたのような優秀な魔導士が弟子入りしてくれて、わしは嬉しい」

 

 ツォンパは、カスパルへ視線を移して指示した。

「カスパル、エスメルの後ろから肩を掴んで押さえていてくれ。動くとやりにくのでな」

 

 それから、エスメルへ言った。

「前を寛げて、胸と腹を出しなさい。丹田の上あたりに魔核を形成せねばならん。それと、弟子入りする儀式として、そなたの鎖骨の下にわしの印を入れるぞ」


「えっ」

 印を入れることを、聞いていなかったエスメルは、一瞬動揺したが、強大な魔力を手に入れたい以上、我慢するべきだと思い直した。

「わかったわ」

 

 ツォンパは、エスメルの鎖骨と胸の間に手を当てた。

 

「ああっ!」

 

 胸から背中に貫通するような痛みと熱さが生じ、エスメルは苦痛に顔を歪めた。しかしそれは一瞬の痛みだった。

 次にツォンパは、エスメルの鎖骨の下、横腹のあたりに手を当てた、その手は、体の中へ沈んでいった。


「嘘っ」

 

 不思議と痛みはなかった。けれど、臓腑を触る異様な感覚があった。吐き気が込み上げてきたが、数日、何も口にしていなかったので、吐くことはなかった。突然、ツォンパの体から、黒い靄と青白い燐光が同時に現れ、それが腕を伝い、エスメルの体の中に入っていった。


「ううっ、ああっ」

 

 体の中が焼けつくように熱くなり、エスメルは気を失った。

 

 エスメルの両肩を掴み、苦痛で動こうとするのを、カスパルは必死で押さえつけた。

 エスメルが気絶し、体から力が抜けた。


「よし、魔核ができたぞ。もう、手を離して良いぞ」

 

 エスメルの体は冷たくなっていた。パスカルは、彼女の額に手を当てた。


「師匠、彼女、大丈夫なのか。冷たくなっているぞ」

 

 施術の凄まじさに圧倒され、珍しく怯えるパスカルへ、ツォンパは、ニヤッと笑いかけた。


「大丈夫、心配不要じゃ、明日には目覚める。

 魔核が安定するまで、代謝を落とし、仮死状態にしたのじゃ。さて、次は、おまえの番だ」


 そう言うや、ツォンパは、また、太極石の欠けらを口に入れ、音を立てて噛み砕いた。


「えっ、すぐやるのか」

 

 まさか、立て続けに施術すると思わなかったカスパルは慌てた。だが、もう、体が金縛りになって動けなくなった。

 

 ツォンパは、カスパルへ、「そこの床へ横になれ」と命じた。

 カスパルの意思と関係なく、体は勝手に動き、床へ横になった。


(どうして、体が勝手に動くんだ・・・・どうなってる)

 しかし、深く考える時間はなかった。ツォンパの手は、皮膚へ潜り込み、カスパルの体の中を触り始めた。

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