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カスパルは、嗤いをを深めた。
お高く止まったドロメル当主の娘が、圧倒的な身分差に、敵う相手でないと悔しがり、落胆する様をじっくり眺めるのは、実に愉快だった。しかし、せっかくのお楽しみの時間も、ツォンパが話しかけたために中断した。
「エスメルよ そなた自身が望むなら、誰も手に入れたことのない、強大な魔力を手に入れることができるのじゃ。先ほどのカスパルの技を見たであろう」
その言葉にエスメルは、再びカスパルとツォンパへ意識を向けた。
「さっきの技、どうやったの?あなたは、ものを凍りつかせることは昔から得意だったけれど、破壊できるほど凍りつかせる技なんて、聞いたことがないわ」
「師匠から、力を分けてもらったおかげで、こんな技ができるようになったのさ」
「力を分ける?」
ツォンパが頷いた。
「左様、わしの力をカスパルへ送り込むことで、魔力がかつてない水準にまで強まったのじゃ」
(力を送り込むなんて、聞いたことがないわ。魔力出動は、その人間の力の範囲でしかできないはずよ。どうして、他人の力を取り込んで発動できるのかしら)
ツォンパは、エスメルの心の中が見えかのように、笑った。
「そんなことは、聞いたこともないと考えておるのだろう。それでは、そなたに、魔導術の中で上位の階梯に達したものにしか明かされない、秘中の秘である秘訣を教えてやろう」
「秘訣なんて、当てにならない、出鱈目なんか聞いても時間の無駄よ。
そんな事より、早く、ここから出してちょうだい」
「そう慌てなさんな。ここを出ていくにしても、わしの話を聞いてからでも遅くはないだろう?そなたは、強大な魔力を手に入れたのじゃろう?
リーユエンに圧倒的な差をつけたいのじゃろう?」
面と向かい、自分の秘めた願いを口にされてしまうと、意地を張るのが馬鹿馬鹿しくなってきた。
「いいわ、話を聞くわ。でも、そのあとは、さっさと解放してちょうだい」
「よかろう。わしの話を聞いて、それでも魔力を上げることに興味がないと言うのなら、解放してあげよう」
リーユエンの正体を知ったエスメルは、投げやりな状態だった。
急いでドロメルの屋敷へ戻っても、今頃、屋敷の中は、学院島で起きた事件とエスメル関与の疑いで、大騒ぎになっているに違いない。
犯人たちとは無関係だと主張しても、これほどの失態を犯した以上、父グレゴルは、当主として、エスメルに厳しい罰を下すに違いない。すぐに帰る気にはなれなかった。
「ヨーダム太師を筆頭に、齢数百年を越えるあ奴ら大魔導士どもは、その身内に強大な魔力を生み出す魔石を隠し持っているのだ」
「魔石を体内にですって、そんな馬鹿なこと・・・」
魔石は、魔力素を高濃度に含む鉱石だ。高濃度の魔力素は、暴走すれば凄まじい破壊力を生じる。そんな危険なものを体内に取り込むなんて、あり得ないと思った。
ツォンパは、懐から、幼児の頭ほどもある大きな石を取り出した。それは、ぼうっと青白く発光した。
「これをよく見るのじゃ」
ツォンパが石をテーブルの上に置いた。
「何、これは魔石なの?でも、こんなに大きな魔石は、見たことがないわ」
財力に優れたドロメルの屋敷には、様々な魔石が収集保管されているが、最も大きなものでもせいぜい鶏卵くらいの大きさだった。
「これは、ただの魔石ではない。太極石というのじゃ。大魔導士の体内にあるのは、この太極石なのじゃ」
「太極石・・・それって、混沌の海が陰陽に分かれ、始原の世界が生み出される際に現れたという伝説の石のことなの?どうしてそんなものをあなたが持っているの。それ、本物なの?」
魔導術概論基礎編で、閻浮提が虚海より出現した経緯を記す『創世記』の授業を受けたとき、その名を耳にした記憶があった。しかし、目の前にあるその石がそれだと言われても、信じられなかった。
「創世記を知っておるな?」
「ええ、暗唱させられたわ」
魔導術概論基礎編の担当教諭は、生徒たちに創世記を全文章丸暗記させて、試験まで行ったのだ。
「では、混沌の海が陰陽に分かたれたとき、その海を、神々は何によってかき混ぜ撹拌したのかは、覚えておるだろう」
「もちろんよ、玄武と大蛇ナーガが、神の命により、まず玄武が巨大なヒレで撹拌し、大蛇がその胴体を海に叩きつけて波立たせ、やがて陰陽に分かれた」
「そうじゃ、玄武と大蛇の力が交わり、陰陽に分かれた海は、螺旋の渦をまき、その渦の中心に現れたのが太極石なのじゃ。太極石の光が、海の底まで照らし出し、水・風・火・木・金の五行が陰陽の中より生じ、それが集まり閻浮提を形成したのじゃ」
「でも、それはあくまで伝説よ。どうしてそんな大昔に現れた石が、今、私の目に前にあるのよ」
ツォンパは、エスメルへ笑って見せた。
エスメルは背筋がゾッとした。
一瞬ツォンパの顔が、半分皮が剥がれ落ち、剥き出しになった髑髏に見えたのだ。
「この太極石は、玄武が秘密とする業により、作り出されるのじゃ。今現在、わしが知る限りでは、これを作り出せるのは、この玄武国だけなのじゃ」
そう言うと、ツォンパは、いきなり手刀をテーブルに置いた太極石へ振り下ろした。彼の手刀が当たった瞬間、太極石は強い光を発し、数個へ割れた。その一つをつまみ上げると、驚いたことに、ツォンパは、いきなり口の中へ入れ、噛み砕き呑み下した。
「えっ、食べるの」
「ゲッ、食うのかっ」
エスメルとカスパルも、衝撃の光景に顔が引き攣った。




