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(ツカリーゼの独白)
あら?巽陰大公とウラナさん、今、目でお話をなさっていたわ。もしかして、リーユエン先生、あれは嘘泣きなの・・・・でも、お目目はうるうるして涙もポロポロ溢れていたわよ。
ちょっと後で本人に確認してみようかしら・・・
あら、嫌だ、素敵な総執行さまが、私のことを見てるわ。何かしら、えっ、私の方へ来るわ〜
ナーガムは、明妃の傍で振り返ると、ツカリーゼをきっと睨んだ。そして、素早く近寄ってきた。
「ツカリーゼ教授でしたね」
「はい」
「明妃殿下のご指示通り、まず動力機関室の入室者記録を調べなければなりません。今から、学院長のところへ私と一緒にまりましょう」
「はい、承知し・・・あれえぇっ」
ナーガムは、大柄なツカリーゼを小脇に抱え、部屋を飛び出して行った。
カーリヤは首を振った。
「まったくナーガムの怪力ぶりは相変わらずだね。俄然やる気になっているから、直に、情報を掴んでくるだろうよ」
それからカーリヤは、リーユエンを見下ろし、額を軽くこずいた。
「痛っ」
額をさするリーユエンの顔をのぞき込み、カーリヤが眉を寄せた。
「まったくおまえは、どんどん男の操縦ばかり上達して困ったものだよ」
リーユエンは口を尖らせ、カーリヤを見上げた。
「操縦だなんて、人聞きの悪い・・・私はもう手が回らないから、総執行におすがりするのは、当然ではございませんか」
カーリヤは、目を眇め、鼻を鳴らした。
「フンッ、そんな殊勝なことを言って、ナーガムは小姑みたいにうるさいから、追い払おうと思ったんだろう」
「・・・・・・・」
リーユエンは、黙秘した。
ウラナは、ため息をはいた。
リーユエンは、こっそりソアラスを呼び寄せ、その背に乗ろうとした。
けれど、ウラナは、リーユエンのやりそうなことくらい、ちゃんとお見通しだった。
「リーユエン様、どちらへ行かれるおつもりですか?」
「・・・手洗いへ」
ウラナは、仁王立ちして彼女を見下ろした。
「では、私がお連れいたします」
「いや、ウラナの手を煩わせなくても・・・」
ウラナは、こわーい顔でリーユエンを見下ろした。
「内傷が、今回は法力ですぐに治療できないのですから、安静になさってください。授業なら、生徒たちは、ちゃんと自習して課題に取り組んでいます。パパディにおっしゃった伝言通り試験をするって言っておきましたから、皆、真剣に取り組んでいます。とにかく、今日一日は絶対安静ですよ」
リーユエンは口を引き結んだ。それから、上目使いにウラナを見上げた。
「生徒たち、みんな気になっていると思うから、少し顔を出すだけ・・・」
「いけません、そんな真っ白なお顔の色で生徒に会ったら、あの子達は余計に不安になりますよ」
「そんなに白いかしら」
ウラナとカーリヤは、うなずいた。
「リーユエン、あなたは凡人なんだから、無茶をしてはいけないよ。おまえが体調を崩したら、猊下はおまえのことが気になるあまりに、大切な昇格試験を放擲してしまうかもしれない。おまえがしっかり養生しないと、玄武法学院まで揺らぐことになるだろう」
カーリヤは、この上なく真剣な表情で、リーユエンを諭した。そこまで言われては、リーユエンも寝室へ戻るしかなかった。
学院長は、昨日から、ヨーダム太師の魔導士塔を訪問し、太師へ魔導士将棋の四番勝負を挑んだ。
ヨーダムに将棋で勝つのが、学院長の長年の夢だが、学院長職は多忙で、なかなか勝負は実現できなかった。今回、学院島が臨時休業したので、ようやく長年の夢を叶えようと、太師の塔へ押しかけたのだ。
しかし、ヨーダム太師に二勝を取られ、この勝負を取らなければ、負けてしまうのに、形勢はヨーダム優勢だった。三十年ぶりの勝負に今度こそ完勝するぞと意気込んでいた学院長は、今やすっかりやる気をなくしていた。
その時、塔の広窓が勝手に全開し、突風が吹き込み、将棋盤はひっくり返り、駒が飛び散った。
窓から、ツカリーゼを軽々と小脇に抱えて、ナーガムが飛び込んできた。
(やった、三番目の勝負は勝敗つかずじゃ)
学院長は目を輝かせたが、そこへ、ツカリーゼ教授が恐ろしい形相で近づいてきた。
「ツカリーゼ教授、どうしたのだ。わしは、ヨーダム太師と旧交を温めておるところじゃ。遊んでいたわけではないぞ」
「学院長、緊急事態発生です。まだ知らせが来ていないのですか?」
「緊急事態?」
学院長が不思議そうな顔をしたところへ、窓から畢方鳥が小鳥サイズに縮こまって飛び込んできた。
「学院長、大変、大変、学院島で殺人事件に強盗だよっ」
「なんじゃとーっ」
学院長は、慌てるあまり、将棋の駒を踏み、足を滑らせひっくり返り、将棋盤の角に頭をぶつけ気絶した。
ヨーダムが、慌てて気付け薬を持ってきて、鼻へ嗅がせて正気へ戻した。
学院長の手当てをすると、ヨーダムは、ナーガムへ揖礼した。
「この時期に総執行がお出ましとは、一体何事ですかな」
「学院島で動力炉の整備作業中に、交換用の太極石が全て強奪されたのです」
「・・・・・」
ヨーダムですら、言葉を失った。
ツカリーゼが、ヨーダムを本棚の横の椅子へかけさせた。
ナーガムは続けた。
「幸い、明妃殿下がすぐ動いてくださり、別の太極石で交換作業は終了しました。現地で、動力保安局から派遣された技師と整備士が安定航行ができているか、確認中です」
その後、ツカリーゼが引き継ぎ、実際に見聞きしたことを報告した。それを聞くにつれ、学院長の顔は強張り、ヨーダム太師の顔は、さらに厳しくなった。
ツカリーゼが話し終わると、ナーガムが続けた。
「明妃殿下は内部の者が関わっているとお考えだ。私もそれに同意見だ。
学院長には、その直前、動力機関室へ入室者がなかったか確認してもらいたい」
「早速調べさせよう」
学院長は、魔鏡を取り出し、総務部長のアデレンを呼び出した。
魔鏡に映ったアデレンは、驚愕した。
「まさか、学院島に残っているのは、今、本草学の温室の世話や、調整魔獣の世話をする最小限の者たちです。魔力を使われると、動力炉の計器の微調整に影響が出るからと退去を命ぜられましたからね」




