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「あの刃物のように鋭い魔力素を、自分の中へ取り込んだの・・・」
ボロボロになった騎馬人形チョムキンと、魔導士服がズタボロに切り裂かれ、吐血したリーユエンの姿を思い出し、ツカリーゼはどれだけ危険な真似をしたのか理解し、頭髪が逆立つほどの恐怖を感じた。
「なんて、恐ろしいことをしたの、内傷が起きるのは当然よ」
ツカリーゼは傀儡術の使い手であるため、内傷を起こすほど魔力を使い切ったことはないし、傀儡術を破られ、術返しにあって内傷を負った経験もない。
そもそも、魔王のような外観とは真逆の平和主義者であるため、術比べの勝負なんて、したことがない(魔王のような雰囲気に呑まれ、誰も勝負を挑んでこない)のだ。
そして、リーユエンが自身の身を省みることなく、学院島のためにそこまで尽くしてくれていたのだと知り、感動の涙が止まらなくなった。
(もうっ、リーユエンったら、なんて意地らしい子なの、人知れず、そこまで学院島のために動いてくれていたなんて・・・感動だわ)
ナーガムもまた、衝撃を受けていた。
まさか、瑜伽業の術で、動力炉の暴走を押さえつけたとは、全く予想だにしなかった。ツカリーゼから話を聞いてようやく理解できたのだ。
(霊気ですら、制御が難しいというのに、魔力素を瑜伽の術で制御するなんて恐ろしいお方だ)
カーリヤは、一人落ち着いた態度でお茶を飲んだ。
「太極石を盗み出した連中の目的が何なのか気になるね。
あんなもの、危ないだけで、並の魔道士では使いこなせない。その上、太極石の力を解放した途端、居場所はすぐ猊下の知るところとなるのだから、売り捌こうにも、買い手がつかないよ」
その時、扉を引っ掻く音が聞こえ、ウラナが立ち上がり、扉を開けた。そこには、魔獣ソアラスの背にぐったり伏せったリーユエンがいた。ウラナは、顔色をかえ、彼女をのぞき込んだ。
「リーユエン様っ、寝ていないと、ダメじゃありませんか」
ウラナは、珍しく大声を上げた。
リーユエンと聞こえ、カーリヤも驚いて席を立ち、扉の方へ向かった。。
血の気の失せた白い顔で、リーユエンはカーリやを見上げ、力無く微笑んだ。
「ちょっと気になることがあって・・・」
「リーユエン・・・仕様のない無い子だね。中へ、お入り」
カーリヤは、扉を開け放ち、リーユエンを乗せたソアラスを中へ通した。
ウラナは、「寝椅子を持って参ります」と、廊下へ出ていった。
しばらくすると、大きな寝椅子を抱えてきて、部屋の隅へドンと置いた。ウラナはリーユエンを軽々と抱き抱え、寝椅子へ横たえた。
「法力は頂けないのですから、絶対に無理はなさらないでください」
「ありがとう、ウラナ」
ツカリーゼは、リーユエンの姿に呆然と見入った。髪は白金色に輝き、白い薄衣の長衫に、その上に灰色がかった青いガウンを着て、ウラナが背中に当てた大きな羽枕にぐったりと背中を預けていた。とても儚げて、魔道士姿の時とは別人にしか見えなかった。そして、長いまつ毛に縁取られた紫眸は、少し眠たげで、かなり無理をしているのは明らかだった。
「途中でお邪魔してごめんなさい。でもどうしても気になることがあったので、先に、調べてもらいたいのです」
リーユエンは小声で切り出した。
「強奪犯は複数で、動力機関室の技師と整備士になりすましていました。入り口のセキュリティにも異常はなかった。学院島の動力炉について、よく知っている者が仲間にいるに違いありません。それに侵入方法から考えて、協力者がいた可能性が高いです。出入記録から直近に立ち入った者が誰なのか、至急割り出してください」
ツカリーゼは頷いた。
「分かったわ、それは学院長と連絡をとって、すぐ調べてもらうわ」
「それから、技師、整備士の遺体ですが、凍りついていました。遺体があそこまで損壊するほど破壊できたのなら、超極低温で氷結させたに違いありません。そこまで強力な氷結術の使い手なら、かなり絞られてくると思います」
ナーガムが、まとめた。
「つまり、学院内部の事情に詳しい、職員もしくは在校生、もしくは卒院生など学院と何らかの接点がある者で、なおかつ、動力機関室について詳しい者、そして、強力な氷結術の使い手が容疑者ということですね」
「そうですね。それから、これを言うのは心苦しいのですが、機械工学部の動力機関の在籍者と卒院者があの時刻に何をしていたのか調べた方がいいと思います」
リーユエンは、言い足した。
「あと、もう一つ、私は、猊下と、去年の瑜伽業で、およそ六百個の太極石を産出しました。それにも関わらず、太極石の在庫は払底状態でした。いくらなんでも、消費量が多すぎると思います。配分の流れを一度監査していただきたいです」
それには、カーリヤも大きく頷いた。
「確かに、猊下単独で行った瑜伽業では、石の品質が劣ったとはいえ、使えないわけではなかったのだからね。リーユエンが瑜伽業に参加する前には、石には在庫があって余裕があったと記憶している。妙だよね、パパディに調べてもらえばいいだろう」
リーユエンは目元に手を当て、嘆息した。
「学院長に、臨時教員を頼まれて引き受けただけなのに、こんな痛い目に遭わされて、授業もままならなくなって・・・」
言葉が途切れたと思ったら、リーユエンはうつむき、声を殺して泣き始めた。
それを見たナーガムは、すっかり平常心でなくなり、慌てて彼女の側へ走り寄った。
「明妃殿下、どうかお心を平らかにお保ちください。私は、猊下より、あなたを守るよう承っております。拙僧が、必ず真相を究明いたします」
ウラナが手渡した薄絹のハンカチで目元をそっと抑えながら、リーユエンは上品な笑みを浮かべた。
「では、総執行が陣頭指揮をとって解決してくださいますね。学院島内部のことは、調査が難しいと思いますが、学院長とツカリーゼ教授が協力いたしますから、どうかよろしくお願いしますね」
カーリヤとウラナは、こっそり目配せしあった。ツカリーゼは、二人の様子にしっかり気がついた。




