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魔導士学院生は、今日も元気ですっ!(落ちこぼれ呼ばわりされても、くじけません)  作者: nanoky


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(107)

「チョムキン」と騎馬人形に呼びかけた瞬間、その馬に乗る人形は、馬ともども等身大となった。


「「ウワッ」」


 技師長と整備士長は同時に叫んだ。

 チョムキンは力強く手綱を引き、馬の脇腹をトンと蹴った。

 馬は一声嘶くや、力強く地を蹴り、空を駆け抜け、地底湖の中央リーユエンの元へ駆けつけた。


 チョムキンは、ナイフのように飛び交う魔力素の嵐をものともせず、下馬してリーユエンを抱えあげ、馬に載せると、自分も飛び乗り、今度は手綱を鋭く鳴らした。

 

 馬は宙を駆けて戻ってきた。

 戻ってきたチョムキンも、馬も、魔力素の強風に晒され、傷つきボロボロになっていた。たちどころ、その体は縮み、元の人形へ戻った。


 ツカリーゼは、手で額を抑え、しばらくうずくまった。

「キッツイ・・・今日は、もう忍び人形を使ってクタクタなのに、その上、騎馬人形まで使うことになるなんて」

 

 それでも何とか立ち上がり、リーユエンのそばへ近寄った。リーユエンの魔導士服も人形と同じように吹き荒れる魔力素に切り裂かれボロボロになっていた。

 

 技師長と整備士長が、ツカリーゼへ恐る恐る話しかけた。

「動力炉の出力が、これから増加します。魔力素が部屋中に充満するので、早く退避しませんと」


「分かったわ、では、あなた達は、気絶したザカリン教授を運び出してちょうだい。私は、明妃殿下を運びますから」

 ツカリーゼは当然のように指示を出した。


(どうしましょう、リーユエン先生、顔色がもう真っ白よ。一体あの術は何だったのかしら・・・)


 今にも爆発しそうだった魔力素の気流の乱れが、リーユエンの術で見るまに安定したのだ。しかし、ツカリーゼは、あんな術は見たことも聞いたこともないし、あの真言も全然知らない未知の呪言だった。


(あれって、まさか、玄武の術なのかしら・・・でも、リーユエン先生は、凡人よ。玄武の法術なんて、使えるはずないわ)

 

 そんなことを考えながら、廊下を通り抜け、扉の外へ出た。

 青草が風に吹かれ、空気は澄んで、学院島が今さっきまで墜落の危機にあったとは信じ難い、のどかな風景だった。

 しかしその景色を目にした次の瞬間、ツカリーゼは、またもや眩い白光の包まれた。

 眩しさに、強く目を瞑った。


「何、滅茶苦茶眩しかったじゃない・・・・って、ええっ、ここって、どこなのよ」

 気がつくと、目の前にあったはずの、青草の茂る斜面は消え失せ、何だか見たことのある瀟洒な中庭、湯煙の上がる小川の向こうには、双翼を広げる白亜の宮殿・・・


「ええっ、ここって離宮じゃないのっ、一瞬で戻っちゃったの?」

 

 離宮の正面扉が開き、ウラナが飛び出してきた。

「明妃っ、何があったのです」

 ウラナは恐ろしい形相でツカリーゼへ詰め寄った。


 そこへ後ろから現れた貴婦人が制止した。


「おやめ、凡人のこの人を詰問したって仕方ないだろう。それより、早く、寝室へ運ばないと」


 ウラナが抱き抱えようとするのを、ツカリーゼは止めた。

「私がこのまま抱えて行きます。具合が相当悪いから、揺らさない方がいいわ」


「本当にすまないね。明妃を助け出してくれてありがとう」

 その貴婦人は、銀色の髪をきっちり頭頂部へ高い髷に結い上げ、顔立ちは、頬骨が高く、細く弧を描く眉に切れ長の双眸、細く高い鼻梁、薄く大きな口元、冷ややかで尊大な雰囲気を纏っているのに、同時に親しみやすさも感じる不思議な貴婦人だった。


「そんな、当然のことをしたまでです」

 貴婦人は、ツカリーゼへ近寄った。貴婦人は長身で、ツカリーゼよりまだ頭一つ分高かった。

「私は、巽陰大公カーリヤだ」

 

 ツカリーゼは衝撃を受けた。それは、玄武八大公の最年長者、玄武を統べる大長老だった。

 

 慌てて跪こうとするツカリーゼをカーリヤは止めた。

「明妃を抱いているのだから、礼なんか不要だよ。早く、その子を部屋へ運んでやっておくれ」

「御意」

 カーリヤに命じられるまま、ツカリーゼはリーユエンを部屋へ運んだ。


 リーユエンを休ませた後、彼らは別の部屋へ移動した。

 そこには、宮殿前広場でツカリーゼたちを学院島へ畳地連結で運んだ総執行のナーガムが待っていた。


 ナーガムは巽陰大公へ揖礼し、尋ねた。

「明妃殿下のご容体は、いかがでしょうか?」


 カーリヤは、長椅子へどさりと腰掛けると、立ったままのナーガムへ言った。

「おまえもお掛けなさい。ツカリーゼ先生、あなたもお掛けなさい。話がしにくいからね」

 

 そう話す途中、ウラナが彼らに軽食とお茶を配膳した。

「そうだ、ウラナもお掛けなさい。おまえも話を聞いてもらった方がいい。

 まず、ナーガム、明妃は、命に関わるような状態ではないけれど、内傷を起こしている。当分、安静が必要だ。それに、ものすごく酷い法力酔いを起こしているよ。あれは、一体どういうことなんだい?」

 

 ナーガムは、巽陰大公とツカリーゼの顔を交互に見た。


 ツカリーゼは「私は、席を外しましょうか?」と、立ち上がりかけたが、カーリヤがそれを止めた。


「ダメだよ。あなたには、居てもらわないとね。

 学院島で何があったのか、あなたは見たのだろう?

 リーユエンに聞いたって、どうせ、ちゃんと話すわけないからね。

 ツカリーゼ先生の口から、あそこで何があったのか、説明してもらおう。それから、心配しなくていいよ。私は、猊下から頼まれてここへ来たんだ。

 猊下は、明妃に異常が生じたのに気がついて、ナーガムに指示し、畳地連結で、離宮へ戻らせたんだ。その時、あなたが、彼女を抱き上げていたため、一緒に引き戻したのさ。驚かせてすまなかったね」

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