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光が消えると、風景は一変した。
眼前には、蔦草に覆われた険しい岩壁があり、その岩壁中央、開け放たれた大扉を、五人の警備兵が殺気だって守っていた。
いきなり現れた彼らに、警備兵は一斉に魔法陣の描かれた火器を向けた。しかし、扉の奥から、整備士が飛び出してきて、
「ガオロ技師長、デンダン整備士長、来てくださったんだ」と叫んだ。
警備兵は、それでホッとした様子で火器をおろした。
「ウォズレイ、他の者たちはどうしたんだ」
ウォズレイと呼ばれた整備士は、力無く頭を振った。
ガオロ技師長はそれで察したが、冷静さを保ったまま彼へ指示した。
「代わりの太極石を運んできた。直ちに、設置したい。案内してくれ」
ウォズレイを先頭に、ガオロ技師長、デンダン整備士長、ザカリン教授、ツカリーゼ教授、リーユエンが続いた。歩き始めたザカリン教授が、ツカリーゼへ振り向き、言った。
「ツカリーゼ教授、あなたは専門家じゃないから、外で待っていてはどうだ?」
ザカリン教授は、専門外は邪魔だから、入るな、というのを婉曲に言ったつもりだった。けれどツカリーゼは、肩をすくめ、
「何言っているのよ。人のできない作業がもし必要なら、人形を出してあげるわ。ついて行った方がいいに決まっているでしょ」と、あっさり説き伏せた。
技師長と整備士長は、設置の前に、操作室で計器類の確認作業を行った。
「まずいな・・・動力炉はもうゼロ値だ」
リーユエンが技師長へ話しかけた。
「法座主府が、学院島を法力で包み、高度はしばらく保つそうです。ただ、半日が限度です」
「そうですか、それは有難い。では、動力炉で設置作業を急ぎましょう」
高度維持の問題が一時的にせよ解決したので、技師長は整備士へ指示した。
「ウォズレイ、計器類の点検を引き続き頼む。我々は、動力炉で太極石を設置し、出力の確認を行う」
地底湖に到着すると、リーユエンは信玄袋から太極石十二個と三極石五個と取り出した。
ザカリン教授は、太極石と三極石一つ一つの魔力素放出レベルを測定した。しかし、途端に難しい顔になって、うなり込んだ。
ツカリーゼが、思わず、
「どうしたの、教授、気分が悪いの?」と尋ねた。
「いや、そうではない。この三極石は、極端に出力レベルが高いのだ。太極石と組み合わせて使うとなると、組み合わせ方が難しい。しかし、太極石だけで構成すると、この個数では学院島の浮遊を維持することさえできない。かと言って、三極石だけで構成すれば、魔力素放出レベルが高過ぎて、暴走する恐れがある。太極石を組み合わせて緩衝し、暴走を抑えなければならないのだが、半日以内に最適解が見つかるだろうか。こんな面倒な解析は、数日かけないとできないのだ」と、言いながら、空中へ魔法式を展開し、最適解を見つけようと作業を開始した。
ザカリン教授は、髪を逆立たせ、最適解を探し出す作業を三時間近く続けた。極度の集中と魔導術の操作で、顔が土気色になった教授は、ついに、
「この組み合わせて一度配置してみよう」と言い、地面に伸びてしまった。
技師長と整備士長は、空中に描かれた指示図を参考に、信玄袋の中から石を取り出し、湖底に並べていった。
「よし、これで動力機関を起動させよう」
技師長は、操作室へ通話器を通して、指示を送った。数秒後、太極石は柔らかな金色の光を放ち、三極石は、金、青、紫の三色の光を放ち始めたが、突如、稲妻が現れ放電が起こった。あたりに白光が走り、火花が散った。
「魔力素放出が暴走している。止めないと、爆発するぞ」
技師長が、真っ青になって叫んだ。しかし、最適解を見つけ出すのに疲れ果てたザカリン教授は、気絶していて使い物にならなかった。
技師長と整備士長の横を黒い影が走り抜け、地底湖へ飛び降りた。
「明妃殿下、危険です。地底湖へ入ってはなりません」
彼らが止めた時には、もう既に、リーユエンは地底湖の中央部に達していた。そこで結果趺坐を組むや、複雑な印を手で結び、真言を唱え始めた。
体の周囲に風が渦を巻き始め、激しく放電する雷光が、その風の渦へ飲み込まれた。さらに、太極石と三極石の放つ光は、風が巻き起こす渦へ吸い寄せられ、巻き込まれ捻り合わされて一つの光の帯となった。
リーユエンは、手で結んだ印を解き、両手を宙へ伸ばした。それに従い光の帯は、地底湖の遥か高い天上まで上昇し、天蓋となって、再び地底湖全体へ降り注いだ。
技師長は、天上から降り注ぐ光の粒子を見て、
「臨界状態だ。暴走が収まった。これなら、安定運行できる」と言い、通話器を手に取り、機関整備室のウォズレイ技師へ、計器の数値を確認させた。
技師長のそばへ整備士長もやって来た。
技師長は、整備士長へ力強く頷いた。
「大丈夫だ。出力が安定した。高度も保ったままで、推進力も順調に増大中だ。二時間後には、通常運転に戻るだろう」
一方、術の展開を終えたリーユエンは、上体を折り曲げ、口元を抑えた。その指の間から血が溢れた。
「リーユエン先生、どうしたのっ」
異変に気がついたツカリーぜが、地底湖へ降りようとしたが、技師長が慌てて止めた。
「ツカリーゼ教授、地底湖はもう、魔力素が飽和し、臨界状態に達したので入ると危険です」
「ええっ、リーじゃなかった、明妃殿下の様子がおかしいのよ。助けに行かないと」
技師長と整備士長は顔を見合わせた。
「防護服を着たら、行けるだろうか」
「ですが、魔力素がもう充満しています。防護服を着ても影響がありますよ」
ツカリーゼは、自分の信玄袋を出した。
「分かった、私が連れて戻らせるわ」
そう言うと、袋から、小さな騎馬兵を取り出した。ツカリーゼは、手のひらサイズの騎馬兵へ命令した。
「チョムキン、仕事よ。明妃殿下を乗せて戻っていらっしゃい」




