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ツカリーゼの部屋の中は、様々な人形制作道具がテーブル一面に整然と並べられ、縫い掛けの衣装がその脇に置いてあった。
生徒が全員部屋へ入ると、ツカリーゼは、彼らを見下ろし、恐ろしい顔つきで言った。
「いいこと、これから、あたしがする事は、絶対に誰にも喋っちゃいけないわよ。
傀儡術の秘術中の秘術を、今から行うのだから、絶対よ。これが見られるなんて、あんたたちは、どれだけ凄いことなのか絶対分かってないでしょうけれどね、ふんっ」
ツカリーゼの、まさしく魔王そのものにしか見えない形相の方が恐ろしくて、彼の言っていることがよく理解できないまま、生徒たちは、ただ何度も頷いた。
ツカリーゼは、自分の信玄袋から、大きな鏡と、小指の先ほどの、ほとんど透明な人形を取り出した。その人形を指先でそっと摘み、鏡をテーブルへ立てかけると、小さな人形へ向かって囁きかけた。
「さあ、人形ちゃん、リーユエン先生のところへ行きなさい」
ツカリーゼがパッと手を離すと、人形は鏡の中に呑み込まれた。
突然、鏡の中に別の部屋が映し出された。
生徒たちは、皆、目を見開き、口をあんぐり開けた。
ロージーが、「これ、すっごい魔道具ですわね。ツカリーゼ先生、本物の闇組織のお頭みたいですわ」と、漏らした。
ツカリーゼは、ロージーを横目で睨んだ。
「闇組織なんて目じゃないわよ。この術はね、濫りに使っていい術じゃないのよ。これ一回やると、魔力の三分の一くらい、私は持って行かれてしまうのうよ」
「ええっ」
ツカリーゼの魔力量が一体どれだけあるのか、生徒たちにはわからなかったが、実は彼は第五階梯到達者、あのサラザルやドロメルの当主たちと同じほどの魔力の持ち主なのだ。
ツカリーゼは目を細め、鏡を覗き込んだ。
「ほら、あんたたちもご覧なさい。リーユエン先生がいるわ」
人形は、見つからないように、高い天井の一角にいるようで、上から見下ろす状態で、リーユエンとウラナが部屋へ入ってくるのを映し出した。
「あっ、パパディおじさんだ」
マルテンが叫んだ。
「あら、あの人、あなたの親戚なの?」
「はい、パパディおじさんは建設部の管理職だったのに、最近急に出世して、今は宰相府の秘書長官だそうです」
「ええっ、あの人、秘書長官なの、そんな人が直々に訪ねてくるなんてただ事ではないわよ」
先に通され、応接室で待っていたパパディは、リーユエンが入ってくるなり、跪拝した。
リーユエンはすぐ彼の腕をとり、立ち上がらせ、
「挨拶は不要よ。急ぎの用でしょう、何があったの?」と、尋ねた。
パパディは、薄青に少し黄色みを帯びた眸をリーユエンへ向けた。
「動力保安局から緊急連絡が入りました。魔導士学院で、動力炉の太極石交換作業中、賊が侵入し、新しい太極石が全て奪われたそうです」
リーユエンは、完全に予想外の連絡に言葉を失った。
カスパルたちが、太極石強奪作戦を実行していた頃、動力操作室では、動力保安局から派遣された整備士が一人居残り、計器類の点検を続けていた。
ところが、大鵬鳥に長時間乗り続け、体が冷えたため、どうしても尿意が耐え難くなり、手洗いのため部屋から出たのだ。そして、手洗いから戻る途中、廊下の曲がる場所を間違え、地底湖へつながる洞窟へ出てしまい、そこでバーカンダーが、適当な横穴に転がしておいた整備士と技師の凍りついた体を見つけてしまった。
彼は、大慌てて外へ脱出し、上空で大鵬鳥を旋回させて待っていた警備兵へ、緊急照明弾を打ち上げ、異常発生を知らせた。武装した警備兵が直ちに地上に降り立ったとき、太極石を担いで地上に現れたカスパルたちと鉢合わせになった。
カスパルは、瞬間冷凍術を放ったが、警備兵は俊敏な動きでそれを躱し、火精の矢を打ち込んできた。しかし、火精の矢はポルフの水の盾によって威力を減殺され、地面へ落ちてしまった。
警備兵たちの目の前で、カスパル、ポルブ、ゴーズリー、バーカンダーは、ふっと消え失せた。ツォンパが畳地連結をかけて、彼らを引き戻したのだ。警備兵は、直ちに太極石が強奪された事実を、動力保安局へ緊急通信した。
数秒経って、リーユエンは、パパディへ尋ねた。
「太極石の交換ができていないのなら、学院島は、今、どういう状態なの?」
「生き残った整備士の話では、交換前の石は劣化が激しいため、すでに出力を落とした学院島を浮上させるには、動力源として全く足りないそうです。
今は、何とか浮遊していますが、あと数時間のうちに徐々に高度が下がり、大地へ激突するだろうと・・・」
「わかった。パパディ、私についてきて、新しい太極石を手に入れるわ。
ウラナ、ツカリーゼ教授にお願いして、動力機関科のザカリン教授を探し出してもらって見つかったら、すぐ私へ知らせてちょうだい」
鏡を覗き込んでいたツカリーゼは、立ち上がった。
「大変だわ、こうしてはいられない。すぐ、ザカリン教授に連絡を取らなくっちゃ」
彼が、外へ飛び出したところへ、廊下の向こうから、まさにウラナが走るような早歩きでやって来た。
「ツカリーゼ教授っ」
「ウラナさん、ザカリン教授でしょ。中層区三条中百舌鳥通りの魚鱗荘に泊まっているから、すぐ連れてくるわ」
「いえ、それでしたら、法座主府宮殿前広場へお連れください」
「わかったわ」
ツカリーゼは飛び出して行った。
生徒たちは、真っ青な顔で、ツカリーゼの部屋からゾロゾロ出てきた。
「まあ、あなた達、こんなところにいたのですか」
ウラナが驚くと、ロージーが真剣な顔で言った。
「太極石が盗まれたんでしょ」
ウラナは、珍しく口をあんぐり開けた。
「盗み聞きですか。はしたない」
「だって、緊急事態だから、仕方ないわ」
ロージーが話していると、廊下の向こうから、リーユエンがパパディを従え、いつも以上に厳しい顔つきでやって来た。




