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「エエッ!どうしてここに戻ってきたのを知っているのよ」
小声で文句を言うと、ウラナは、
「学院島全体が閉鎖されたのですから、こちらにいらっしゃるとお考えになるのでは?」と、ささやき返した。
リーユエンは、生徒たちにしばらく自習するよう指示し、離宮の中へ戻った。
リーユエンが建物の中へ入って、しばらく経った時、モンシェンは、離宮の渡り廊下を歩く伯父の姿に気がついた。
「あれ?伯父さん・・・」
渡り廊下の側まで走ってきたモンシェンへ、モンティンも気がついた。
「おや、おまえも離宮へ来ていたのか?」
(伯父さん、今 離宮って言った?)
モンシェンは、渡り廊下の突き当たりの、中庭へ続く階段を降りて来ると、
「勉強は頑張っているのか。リーユエン先生は、とっても優秀なお方なのだから、しっかり指導してもらいなさい」そう言いながら、モンシェンの頭を撫でた。
「もうっ、伯父さんったら、僕は小さい子供じゃないんだから、それより、伯父さん、ここは離宮なの?」
「そうだよ、今日は明妃殿下がいらっしゃるから、決裁をいただこうと思って、起案文書を色々持ってきたんだ。決裁が下りたら、また持って帰らないといけないんだ」
「そうなんだ、おじさんも大変だね、じゃあ、頑張ってね」
いつまでも自習をサボるわけにもいかないので、モンシェンは他の生徒のところへ戻った。
マルテンが近寄ってきた。
「あのお役人は、君の知り合いなのか?」
「うん、僕の伯父さんだよ、モンティンっていう名前で、伝奏部にいるんだ」
伝奏部と聞いて、マルテンは眉を寄せた。自身も役人を親戚にもつ彼には、都の役所について知識があった。彼の知る限り、伝奏部は、法座主府の関係者と、一般の凡人の役所の連絡調整を主な管轄とする部署だった。普通の民家に伝奏部の役人が来るなんて、普通ならあり得ないと思ったのだ。
「伝奏部だって・・・ここへは、何しに来たの?」
「それがさ、変なんだよ」
モンシェンは、マルテンの耳元で小声で言った。
「おじさんは、ここが離宮だと言って、明妃殿下に何かの書類を届けに来たらしいんだ」
「明妃殿下だって・・・」
マルテンは、叙勲式典で法座主猊下の隣に腰掛けた美しい女人の姿を思い出した。
(ハハハッ、まさか・・・あの方が教師をしているなんて、そんな事あり得ないよ)
思いついたことを、自分でも大胆な推論すぎると思い、頭を振って追い払った。
リーユエンは、書類の山から超至急分だけを選別して決裁し、残りは明日渡すからとモンシェンを追い返した。
(リーユエンの独白)
帰って来るのを秘密にして、到着もわざわざ真夜中過ぎにしたのに、もう書類を持って押しかけて来るなんて、全く伝奏部の連中ときたら、仕事中毒だよ。私に回さないで、他へ回して代決しておけばいいのに・・・(怒)、とにかく、残りの書類は、睡眠時間を削って明日までに決裁して返してしまおう。あれ?私も、もしかしたら、仕事中毒なのかな・・・
リーユエンは、午前中に伝奏部から上がってきた書類に目処をつけ、午後からは再び後期の課題である魔導術基礎編の授業を始めた。ところが一時間ほど過ぎたところで、第二の妨害が発生した。
離宮の一室で、生徒相手に魔法陣の幾何学的な構成について説明していたところへ、ウラナが厳しい顔つきで入ってきて、またもやリーユエンへ耳打ちした。
「宰相府秘書長官のパパディが、至急お目どおりしたいと参っております」
「パパディが・・・」
リーユエンは、左手で額を抑え頭をふり、教科書を閉じた。そして、
「今から自習にします。資料にある魔導関数式で法陣図形を作成し、そこから自分たちで、発現させたい魔導術の構成要素を記入しなさい」と言うと、部屋から出て行った。
リーユエンが出ていくと、モンシェンがマルテンへ話しかけた。
「今、先生、パパディって言ってなかった、それって君の従兄伯父さんだろ?」
マルテンは、腕組みし難しい顔でうなずいた。
「おじさんは、最近、宰相府のものすごく偉い役人に出世したって、夏季休暇で帰ったとき父さんが言っていた。リーユエン先生に何の用なんだろう」
マルテンは立ち上がった。
モンシェンは、「自習しようよ。課題やっておかないと、先生戻ってきたら怒られるよ」と、止めた。
けれどマルテンは、そのまま出て行こうとした。
「どうしておじさんが来たのか気になるんだ。ちょっと様子を見てくる」
すると、ロージーも側に来た。
「私も一緒に行くわ。きっと何かあったのよ」
タロナが、三人へ、
「私とハンツォンで課題をしておくから、様子を見て行ってきて」と、声をかけた。
マルテンは、「ありがとう、そうさせてもらうよ」と言い、扉をそっと開けて廊下へ出た。
廊下は無人だった。彼らは、廊下の角まで行き、さらにその先をのぞいた。
その時、モンシェンの襟首を誰かが掴んだ。
「ヒッ」と声を上げかけたが、大きな手のひらで口を塞がれた。
「あんた達、授業を抜け出して何をしているのよ」
低音の声の主はツカリーゼだった。
モンシェンはツカリーゼを見上げ、うなずいた。
ツカリーゼの大きな手の平が離れるや、大きく息を吐き出した。
マルテンがツカリーゼを見上げて尋ねた。
「先生は、ここで何をしてらっしゃるのですか?」
「私?私は、人形を作っていたんだけれど、何だか外が騒がしいから出てきたのよ。あんた達、今、授業中でしょ?リーユエン先生はどうしたのよ」
ロージーが、背伸びし、ツカリーゼの耳元へ
「宰相府の偉いお役人が至急の用件で来られたそうなんです」
ツカリーゼの太いまゆがピクっと動いた。
「あんたたち、私の部屋へ来なさい。急いで」
と言い、三人を急かして人形製作中の部屋へ連れて入った。




