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ポルブは、体が硬直した。気づかれた、と思ったのだ。
ところがカスパルは、笑顔を浮かべ、
「急病で昨日から高熱を出して三人とも寝込んでます。夏風邪のようでして、無理はさせられないし、感染されても困るので、宿舎で待機させています。すみません」と、愛想よく説明した。
技師は、納得した。
「そうか、急病なら仕方ないな。作業はどの程度まで進んでいる?」
カスパルは、役人の技師二人と動力炉の出力について、専門的で、込み入った話をし始めた。
カスパルの受け答えは正確で、彼が偽の技師だとは、都の役所から派遣された彼らは、思いもしなかった。
年配の技師ともう一人の若い技師が計器を確認し、年配の技師が、
「よし、この出力まで落ちたら、あと四分の一時間後には、動力炉は完全に停止するはずだ。地底湖にある太極石を先に取り出しに行こう」と指示した。
カスパルは立ち上がり、「では、案内いたします」と、先頭へ立った。
それから、ポルブの方を振り返って見ると、次は年配の技師を見て、
「ここの整備士は連れていきましょうか、それとも、こちらで計器盤の点検をする方がいいですか」と、指示を仰いだ。
年配の技師は一寸考えた。太極石の取り出しは水に濡れるので、自分ではやりたくなかったので、学院島所属の二人にやらすことに決めた。そこで、一緒に来た整備士に計器の点検をするよう指示した。
「計器盤は、この整備士が見るから、君たち二人とも来てくれ」
こうして、カスパルとポルブ二人とも、技師たちと共に、地底湖へ向かった。
(すごい、最初の作戦通りに進行している)
ポルブも、これは成功する、いや、絶対成功すると意欲が湧いてきた。
地底湖に到着すると、水底には、動力炉の停止で光らなくなった太極石が転がっていた。
昨日から徐々に湖は排水してあったので、水深は浅く、くるぶしくらいまでの深さだった。
カスパルは年配の技師へ
「では、太極石を取り出してきます」と告げて、地底湖に備えつけてある防護服を上から着込んだ。ポルブも慌てて、カスパルが着用するのを見ながら、防護服を着込んだ。
もしこの時、技師たちが、ポルブを注意して見ていたら、彼が防護服を着慣れない様子に疑念を持ったかもしれない。けれど、技師たちは、地底湖の周辺を見回っていて、ポルブを注視することがなかった。
防護服を着たあと、カスパルの後ろに従いポルブは、地底湖へ階段から降りて行った。
水深が浅くなった湖底に、太極石が三十個あった。大きさは幼児の頭くらいで、持つとずっしり重かった。それを一個ずつ水の中から持ち上げ、階段を上がり護岸の上へ移動させた。
慣れない作業にポルブは腰が痛くなり、足が震えてきた。だが、ここで根を上げて、偽者だと気づかれたら万事休すだと思い、必死で頑張った。
カスパルは、石をその場で持ち上げ、運搬はポルブへ任せた。ポルブは恨めしく思ったが、途中で、カスパルは小声で言った。
「俺は、奴らが、新しい太極石を入れたあの背嚢を下ろしたら、すぐ術を発動させなきゃならない。余力を残しておきたいから頑張って太極石を運んでくれ」それから、
「力を放出する前の太極石は軽いが、放出し切って光らなくなった太極石ほど重くなるんだ。だから、ここの石は重い。辛いだろうが、頑張れ」と、ポルブを励ました。
カスパルの言う通りで、動力保安局から派遣された技師と整備士は用心深く、大きな背嚢を決して下へおろすことはなかった。
太極石は、純粋な魔力素の結晶体なので、わずかな衝撃でも魔力が外へ漏れ出すことがあった。魔導術の心得がない者は、魔力を遮断する術がないので、取り扱いには細心の注意が必要だった。そのため、魔力素を遮断する特殊な容器に入れ、次元袋の中に収納し、必要な場所へ設置する直前まで、動力保安局の役人が携行することが義務付けられていた。彼らは、交換の直前まで、規則通り、太極石を入れた次元収納の背嚢を体から決して離さなかった。
技師は、ポルブが何回も護岸の階段を上り下りして並べた太極石を確認した。
「よし、三十個全部取り出し完了だ。では、新しい太極石を配置しよう」
技師と整備士は、自分たちの背中に背負っていた背嚢を地面へ下ろした。
それを見た瞬間、カスパルは湖水の底から階段を駆け上がりざま、水精から変態させた氷精を召喚し、彼らめがけて一気に冷気を放射した。そこへポルブが、水精を召喚し、彼らの足元へ水を撒き散らした。その水は一気に氷結し、彼らは身動き取れなくなった。
「しまった」
技師はその叫びを最後に真っ白に凍てついた。
「ゴーズリー、バーカンダー、出てこい、こいつらの背嚢をそのまま外へ運び出せ」
洞窟の天井付近の横穴に隠れていたゴーズリー、バーカンダーが、地上へ飛び降りた。
二人は、凍りついた地面から背嚢三つをひっぺがし、軽々と担ぎあげた。そして、凍りついた技師二人と整備士を乱暴に蹴飛ばした。非常な低温で凍りついていた彼らは、そのひと蹴りで粉々になった。
それを目撃したポルブは気分が悪くなった。
「さっきの連中と一緒だな。あっけない、身体強化するまでもないな。どうして、凍っているとこんなに脆くなるんだろう」
バーカンダーが無邪気に言った。
カスパルは粉々になった彼らを見下ろし、冷笑した。
「体の中の水分まで全部凍ったんだ。ここまで凍りつくと人間の体だって、ガラスみたいなもんだ。衝撃を受ければ、粉々になるのさ」
そして、色眼鏡の奥の目は狂気じみた喜びに輝いた。
「俺も氷結魔法をこれほど超低温で発動させたのは、初めてだ。ここまで魔力が強まるなんて、師匠の力は本当にすごいぜ」




