感じる違い
今年の夏休みは今までとは何か違う。
いつも家に籠って好きなことをして、何も考えずに只々意味のない日々を過ごしていた。
だけど、今年は違った。
集中できない。
ずっと考え事をしている。
恋は盲目。
そんなの私には関係ないと思っていた。
恋と認めた途端世界が変わった。
色鮮やかで毎日が楽しみ。
些細なことで一喜一憂している。
「そんな真顔なことある?」
日菜の方に目を向ける。
私の家だけど、この人はほぼ毎日のようにここに来ている。
元々机と椅子しかなかったこの部屋にいつしかソファとテーブルが追加された。
この家でおそらく一番広い部屋を書斎にしたのは父だった。
今ではこの家に帰ってくることはあまりないから私が有効活用している。
「これなんの話?」
「え、読んだのお前だろ」
「全然頭に入ってない」
日菜、、ひーちゃんの仕事の参考にしようと思い、本棚から本を取り出して読んだのはいいものの、何一つ頭に入ってなかった。
困った…
「エロ本真顔で読んでる人みたことない」
「エロ本読んでる人見たことあるの?」
「……揚げ足取ってくるガキは嫌いだな」
呆れたように日菜は近くにあった本を手に取って表紙を見ていた。
そして私の膝上にいる雪を眺めた。
「なぁ、女子高生って距離感バグってないか?」
「というと?」
「付き合ってないやつに膝枕するか?」
「するでしょ」
距離感が近いと言うれることはたまにあるけど、別に膝枕ぐらい友達とも普通にしている。
大したことでは無い。
「いやいや、私の知ってる距離感じゃない」
「お姉ちゃん友達いなかったから知らないだけでしょ」
雪は姉に対してすごく火力が高い。
「あんたらは見慣れたけど、最近の女子高生まじで全員付き合ってるのかってレベル」
「付き合ってんじゃないの」
「適当だなおい」
特に街中の女子高生を気にしたことはなかった。
手は別に友達とも雪とも繋ぐことはある。
「カップルでできそうなこと大抵できそう」
「まあ、できるかも」
この姉妹は似てるようで似てない。
「漫画の参考にしたいからさ、いまから言うことできるかできないか教えてよ」
「仕方ないな、やってやろう」
雪は膝から起き上がり、手に持ってた携帯をテーブルに置いた。
何故かファイティングポーズをしていた。
「じゃ恋人繋ぎ」
「できる」
あ、これ実践演習なのね。
また茶番が始まったと思っていたら、雪は日菜の言ったことを私にしてきた。
私は別に雪とならこれぐらい平気でするから特に何も思わない。
日菜も常識はあるから心配ないと思っていた。
「関節キスぐらいじゃ響かないよねえ」
「ちょっと悪い顔なってるよ」
「そうだな、ほっぺにちゅーは?」
「んー、できるね」
雪はそう言って、私のほっぺに唇を近づけた。
そんなことをされたのは小学生ぶりな気がする。
「近くに居すぎると感覚はおかしくなるもんなんだな」
「別にお姉ちゃんみさきとしろって言ったらできるでしょ」
「できちゃうね」
二人とも私で遊ぼないで欲しい。
こんなところ誰にも見られたくない。
「じゃふたりはキスできるの?」
「マウスのほう?」
「いえす」
雪は私を見つめた。
このままではおそらく彼女は試そうとする。
別に嫌な訳では無い。
ただ私は少し戸惑った。
「はいはい、もういいでしょ」
私は止めることにした。
雪とのキスが嫌な訳では無い。
ただ雪では無い人……
――宮下さんとキスをしてみたい。
ファーストキスはまだ取っておきたい。
幼稚かもしれないが、私も夢を見る乙女なんだ。
「ワンナイトならできそう?」
「しねぇわ」
思わずつっこんでしまった。
日菜が突拍子もないことを言い出したから、ほぼ反射神経で返事をしてしまった。
「ワンナイトはナシ派なんで」
「ワンナイトにありもなしもないだろ」
私は清純派を目指してるので、そんなことはない。
雪の方に視線をやると彼女は頭を傾げていた。
「どうした?」
「ワンナイトって?」
「「え?」」
知らないことなんてないだろ。
高校生だぞ。
お前の姉はエロ漫画作家だぞ。
と、思わず声に出しそうになった。
たしかに雪は私と日菜が作業してるところに来ることは珍しい。
会話になってくることも少ない。
それにおそらくこういう話に疎いというより避けている気がする。
「簡単にいうと、、セックスかな」
「ド直球だ」
「なっ、せっ…!?」
狼狽えていた。
中学の時にもこういうことがあった気がする。
「出来るわけないだろ!」
雪は今日一のドデカボイスで叫んだ。
そしてソファにある毛布を被ってしまった。
「そりゃそうか。」
日菜は何故か納得していた。
「我ながらピュアな妹だぜ」
「ひーちゃんとは大違いだよ」
「む。心外だな。それを言うなら美咲も同罪だろ」
「本命のは丁寧な恋をしてます」
「チキンめ」
心に深く刺さってしまった。
後悔を恐れてる私には深いダメージを受けてしまった。
「てか、ひどい」
雪は毛布と取って、会話に戻ってきた。
「みさきの方が七瀬好きなんて、聞いてない」
「言ったらろくなことないからだ」
「お姉ちゃんが教えてくれたしいいもん」
私は日菜を睨んだ。
雪には言わないでとお願いしたのに。
この人は妹の願い事に弱い。
どシスコンめ。
ただ伝わってしまったことはどうにもならない。
「夏休み花火してお泊まりでしょ、いいなー」
「え、お泊まりするの!?」
この姉妹は……手に負えない。
最近特に思うようになってきた。
かなりめんどくさい姉妹だ。
「夏休み終わる前にね」
「お泊まりとかえっちなシーン待ったなしじゃん」
「そんなことしないから!?」
「しろよ!家に女連れいれるんだろ」
「付き合ってないから」
「体から始まる関係も悪くないよ」
この人は常に頭の中がお花畑なんじゃないのかと疑う。
私は今も真剣に悩んでる。
告白するにはまだはやすぎるだろう。
まだこの関係を続けない。
「是非とも監視カメラつけさせて欲しい」
雪は私の手を握って目を光らせていた。
「やめなさい。」
犯罪者みたいなことを言う彼女に頭を抱えそうになる。
「その日家族旅行をキャンセルするしか」
「めっちゃあり、お母さんに相談しよ」
この姉妹………
「なしに決まってるだろうが!」
二人のあたりチョップした。
人をおもちゃだと思ってるこの二人にはバチが当たって欲しい。
「同じクラスなんだから、もっと仲良くなる方法なんていくらでもあるでしょ」
雪はチョップされた頭を撫でながら、私に問いかけてきた。
「明らかに違うグループに声かけるの勇気いるでしょ」
「勇気出せばいいじゃん」
「出せたら苦労してないから」
納得してくれたようで、ようやく少し落ち着く。
「みさきもギャルぽくなれば?」
「似合わないでしょ」
「金髪とか似合いそうだけど」
私は自分が金髪になった時の髪型を想像した。
少なくとも似合わないと思う。
それは雪もわかっているはず。
「多分服の系統と性格も変える必要あるかも。」
「それ似合わないって意味だからね」
雪はなんのことかな?と言わんばかりに本棚に手を伸ばした。
「まあとりあえずお泊まり楽しみにな」
「いってもまだ来週だから」
書斎のカレンダーに目をやると、あっという間に夏休みが終わりそう。
夏休みが終われば文化祭や宮下さんの試合、修学旅行が待ってる。
もちろんテストもある。
行事は沢山あるから、宮下さんと仲良くなれるチャンスはいくらでも降ってくる。
そのチャンスを私が捕まえれるかどうか。
「あ、お泊まり勝負下着にしときなよ」
「黙って描け」
日菜は余計な事ばかり言う。
だけど、役に立つ時もある。
勝負下着、か。
新しい下着ちょうど欲しいと思っていたから、買いに行こう。
決して宮下さんに見せるためではない。
ほんのちょっと見て欲しい気持ちもある。
宮下さんはお泊まり楽しみにしているのかな。
こんなに浮かれてるのが私だけなら辛い。
夏休みが終わって欲しくない。
まだ宮下さんとの思い出が足りない。
私を宮下さんで埋めて欲しい。




