鷹野さんといる夏休み
中学の頃はバスケ部に所属していた。
レギュラーになれるほどの実力と運に恵まれ、常に練習をしていた。
休みは休みでなかった。
いつからかバスケはつまらないものになっていた。
高校では違うスポーツを選んだ。
興味本位ではじめた弓道は楽しかった。
無駄に人との関わりがなく、常に自分との戦い。団体戦はあっても敵は自分であった。
その環境は私に合ってた。
意外と言われることはかなり多い。
すごく繊細なスポーツで奥深い。
嫌なことも考えなくて済む。
明鏡止水。無心の射。
曇りのない鏡や、静かな水のように、何のわだかまりもなく、澄みきった心の状態。
私はこの言葉に強く惹かれた。
座右の銘として掴んでる。
どんな時でも冷静沈着でブレない心。
そうなりたい。
だけど、最近自分でもわかるほど、心に邪心が混じってる。
心が曇るような、そんな状態。
これでは勝てる試合も勝てない。
私の心を乱してる本人を目の前にしても分からない。
「どうかした?」
彼女は私の視線に気づいたようで、微笑んでくれる。
最近はよく遊ぶことも多くなって4月に比べるとかなり仲良くなった。
「鷹野さん普段なにしてるかなーって」
「普段か、なんだろうね」
「自分なのに分からないの?」
なんだよそれと軽くつっこんだりと、仲のいい友人に昇格できたような気持ちになれる。
「わりと普通に何もしてない」
「部活はしてないよね、バイトとかは?」
「バイトか、似たようなのはしてるかな」
「雪のお姉ちゃんのお手伝いだっけ」
「そそ、一応お金は貰ってるからバイトかな」
相変わらず詳しいことは教えてくれない。
雪から聞いてるから知ってるけど、本人からは聞いたことがない。
本人にとって人に言えないような、お手伝いだからだろう。
鷹野さんのことは知りたいけど、無理に聞きたい訳でもない。
言いたい時に言ってくれたらそれでいい。
夏休みというのはずるい。
けど、私はそのずるさを利用している。
夏休みなら誰にも会わずに鷹野さんと会える。
友達だから。
その一言で会える理由になる。
別に学校でも話そうと思えば話せるけど、私たちは現状違うコミュニティーにいる。
私が今いるグループから離れたいいというわけでもない。
そもそも私が鷹野さんのいるところに突然行けば少なくともクラスの人達は気にすると思う。
私の意識過剰ではなく、鷹野さんの人望のせい。
何かきっかけがあれば、学校でも鷹野さんと友達になれるのだろうか。
「それ美味しくなかった?」
私がこんな良くないことを考えている間に鷹野さんが作ってくれたアイスティーの氷が溶けていた。
「ごめん!考え事しちゃった。めっちゃ美味しいから安心して」
「大丈夫?部活とかの悩み?」
「部活ね、大会近いからかな」
正直部活で悩んでることはない。
大会が近いのは事実で、鷹野さんが心配そうに私を見ている。
この事実の方が私は嬉しい。
瞳に私だけを映すこの優越感が私の良くない感情を鷲掴みする。
「部活ってやっぱり大変だよね」
「夏休み一週間しかないのがだるいかな」
「大切な夏休みに私と遊んでいいの?」
「鷹野さんと遊びたいから、それに午前練だけの日もあるしその時に他の友達と遊んでるよ」
鷹野さんも私以外の友人と遊んでいるのだろうか。
雪とはほぼ毎日会っているのは知っている。
私の知らない友達、その言葉はあまりいい言葉ではない。
「今度試合見に行っていい?」
「え、試合?」
また考え事をしていた。思わず聞き返してしまった。
「弓道の試合見たことないから気になる」
「あー、なるほどね、弓道興味あるの意外」
「弓道に興味があるというより、弓道している宮下さんに興味あるかな」
「わたしに?」
どういう意味だろうか。
友達として、部活しているところに興味があるのか。
それとも___
一人の人間として興味を持ってるのか。
きっと前者だと思うけど、後者であればいいな。
もっと私に興味を持って欲しい。
「弓道してる宮下さん絶対かっこいいじゃん」
判断が難しい。
弓道してる私がかっこいい。
じゃ普段はどう思ってるのかな。
「普段の私はかっこよくないの?」
思わず聞いてしまった。
口に出した後に後悔が溢れる。
これではまるでめんどくさい彼女じゃない。
こんなの私じゃない。
自分に対する険悪感で溺れそう。
「普段の宮下さんはかっこいいっていうより…」
鷹野さんが何を言いたいのか気になるけど、もし聞きたくないようなことなら耳を塞ぐ。
さらにいえば記憶を消したい。
「かっこいいよりかわいいし、きれいな人かな?」
「いい意味のほうだよね?」
「ちょータイプって感じの方」
良かった。
聞いて良かった。
曇っていた心が一気に晴れた。
「今度見に行っていい?」
「……いいよ」
「まじ!ありがとう!」
本音を言うと来て欲しくない。
いや、来て欲しい。
普段緊張しない私でも、友達が見てるってなるときっと緊張してしまう。
それに弓道は謎にイケメンやきれいな人が多い。
鷹野さんが私だけを見てくれるなんてないだろう。
私だけを見て欲しい。
鷹野さんの前では失敗したくない。
かっこいいところを見てて欲しい。
葛藤は鷹野さんの願いに負ける。
「文化祭終わった辺りに大きい試合あるから、それくる?」
「いくいく!約束ね!」
かわいい。
鷹野さんはやっぱり感情豊かだ。
表情筋全てを使ってるんじゃないかと思うぐらい、感情がわかりやすい。
「鷹野さんはなんで部活入らなかったの?」
「えー、わりと普通にめんどくさかったから」
「まじ?それだけ?」
「大事っしょ」
もっと複雑な理由でもあるのかと少しは思った。
鷹野さんは見かけによらず、面倒くさがりだし好き嫌いが結構多い。
あと深夜テンションがめんどくさい。
「鷹野さん花火大会とか興味ないの?」
「ないかな、人多し、そもそも花火にあんまり魅力感じない」
「まじ?珍しすぎるでしょ」
「だって火薬の玉が上がるだけでしょ?」
「花火職人に謝っといた方がいいよ」
こういう意外と冷めてるところも私は結構すき。
花火大会一緒に行かないかと誘おうとしたけど、やめておいた方がいいのかもしれない。
「でも手持ち花火はすき」
一緒に出かける予定を諦めてたところに鷹野さんはスマホを出して何かを見ていた。
「手持ち花火…」
手持ち花火ならふたりでできそう。
だけど私はマンションに住んでるからできないし、できるとしても河川敷か花火していい公園に行く。
もしくはこの家でやらせてもらうか。
そうなると雪も来そう。
3人で遊ぶことはあまりない。
別に3人で遊ぶことは嫌じゃないけど、3人だと雪と鷹野さんの仲良さに押しつぶされそう。
友達なのに嫉妬してしまう未来が見える。
ダメなことだ。
「鷹野さん夏休み最後の日と前日空いてる?」
「最後の日と前日…?えっと、空いてる!」
なんのために聞いたのかは分からないけど、なにかに誘われてるのならそれに応じたい。
「うちで花火しようよ」
「…まじ?いいの?」
「いいよ、ついでにお泊まり会しようよ」
お泊まり会は何度もしたことある。
だけどこんなにも心が踊るお泊まり会って言葉は初めて。
「嫌、かな?」
「そんなわけないじゃん、むしろいいの?」
「宮下さんとお泊まり会したいな」
ずるい。
彼女はこういうことを言うから、私は彼女から離れなくなる。
来年同じクラスであることを度々願うようになっている。
「じゃ約束ね」
「約束どんどん増えるね」
「全部叶えてもらうもんね」
「鷹野さんは叶えないの?」
「宮下さんが居ないと叶えられないでしょ」
やはり、ずるい。
そして、可愛い。
友達になって良かった。
これからも友達でいてくれるように約束すればよかった。
楽しい。
鷹野さんといる時が一番楽しい。




