第12話
私、宮下七瀬。
もしかしたらすごくちょろいのかもしれません。
「やっば、鷹野さんかわいすぎ」
「ちょ、寄りすぎ」
「データ持ってないの?ちょうだいよ」
「図々しいなおい」
雪が鷹野さんとの昔のアルバムを持ってきてくれたので私は堪能してました。
今更ですが、鷹野さんの顔面がすごくタイプだということに気づきました。
ついさっき自覚出来ました。
可愛いです。
タイプです。
推しです。
「まじでかわいやば」
「うるせ、手のひら返しすぎる」
さっきまで雪には敵意の眼差しを向けていた。
「いやもう、まじでゆきだいすき」
「心にもないこと言うなよきもいぞ」
だいすきはさすがに言い過ぎだけど、かなり感謝はしている。
「やっぱりこれ置いていってよ」
「いやだよ、私のだし」
「じゃ鷹野さんのところだけ切り取っていい?」
「ぶっころすぞ」
さすがに切り取るのは冗談だけど、それぐらいほしい。
幼い頃の鷹野さん。
生まれた頃から一緒にいるんだと改めて思う。
恐らく雪の姉であろう人も時々映っている。
この人が鷹野さんのことを誰よりも知ってる。
雪にも知らない鷹野さんがいることに驚いたけど、知りたくないこともあるだろう。
恐らく鷹野さんは私は雪のお姉さんについて詳しく知らない、どんな仕事をしてるかも知らないと思っている。
じゃなければ前のような言いにくい顔はしなかったはず。
「ねえ、雪ってさ、鷹野さんとお姉さんがいつもどんなことしてるか知ってる?」
「知らんことはないけど、知らないようにしてるかな」
「なんで?」
「姉はともかく、友達の性癖知りたくないでしょ」
確かに。
家族の性癖すら知りたくない。友達なんてもっと知らなくていい。
でも少しぐらい気になる。
鷹野さんのタイプや性癖…
気になる。
気になってしまう。
「お姉さんどういうの書いてるの?」
「……え?七瀬ってそういうの好きなの」
「そういうのって?」
「いや…下ネタとか…そっち系の…」
雪は言葉は探しているようにみえる。
もしかして…雪って…知りたくないんじゃなくて…
「雪ってむっつり系なんだ」
「なっ…」
図星だったみたい。
彼女は恥ずかしいだけのようだ。
雪は顔が茹でたたこのように赤くなって、声に出ない悲鳴をあげていた。
初めて見る狼狽えた雪。すごく新鮮でからかいようがある。
この反応からして、興味がない訳ではなさそうだし、なんなら気になってる様子だ。
「別にそういうわけじゃない」
「またまた、すんごい顔赤いんだから」
彼女は顔を伏せても耳が赤くなっている。
初めて勝った気分だ。
知らない雪を知れた。
今までからかわれた分やり返そうと思う。
「ほれ、ゆきちゃん教えてよ」
「なにをよ」
「お姉さんどういう感じの漫画書いてるのよ」
「前にも言っただろ」
「だーかーらー、どれぐらいえっちなやつ?」
どこまで踏み込めるか試したい。
それに、普通に私が知りたい。
雪に何度も聞いたけど、タイトルやお姉さんのペンネームとかは教えてくれなかった。
「普通のそこら辺にあるのと変わらん」
これ以上聞いても教えてくれなさそう。
教えてくれそうな質問を考えるしかない。
「鷹野さんってアイディア出すの手伝ってるよね」
「そうだけど…」
気にしてる訳じゃないけど、気になることを少し聞きたい。
これぐらいなら知ってそう。
「鷹野さんって貧乳派?巨乳派?」
「……七瀬…変態すぎるのも考えものだよ」
「教えなよ、友達がお願いしてるんだよ」
「大きい方が多分好き……」
上手い感じに躱された気分。
だけど教えてくれたので、これ以上追求しないことにした。
「じゃ雪は鷹野さんのタイプじゃないね」
「うるせぇ!誰がまな板じゃ」
雪は決して小さい訳ではない。ただ控えめなだけ。
私に比べたらみかんとメロンぐらいの差がある。
メロンは言い過ぎかも、デコポンぐらい。
「あいつは胸がすきなんだよ」
「え?鷹野のさん?」
「いつもいつも隣の部屋で叫んでるよ」
「なんて?」
「……お…、おっぱいがおっぱいしてるって」
いかん。
雪の恥ずかしがってるところをカメラに収めたい。
今世紀最大の対雪用脅しを手に入れた。
しかし、鷹野さんは巨乳派か。
私は自分の体に自信はある、出てるところは出てるし引き締まってほしいところは引き締まってる。
鷹野さんって…へんたいなんだ…
「大きいのがすきだけど、揉み心地が大事って言ってた。」
聞いた訳でもないのに、雪は教えてくれた。
恥ずかしそうに、そわそわしていた。
けど、教えてくれたのでこれ以上追求する訳にも……ここぞとばかりに聞きます。
「誰かの揉んだことあるのかな」
「しらん。お姉さんかほかのアシスタントさんの胸でも揉んだんだろ」
「えまって、それは新情報すぎる」
誰かの揉んだことあるとしてもちょっと待ってってなる。
お姉さんは百歩譲っていいとして、他の人も揉んでるならそれはちょっと許せない。
許せないとか言ってる立場では無いけど。
「余計気になるじゃん…」
鷹野さん…まじ推し。
「推しのおっぱい揉みてぇ」
「くそ厄介オタクじゃねぇか」
鷹野さんに感じてた違和感。
その正体をずっと分からなかった。
今日その感情が掴めた。
鷹野さんは私の推しなんだ。きっとそう。
「推し活…しよ」
私は密かに心に決めた。
鷹野さんを拝めるということを。
「待って、私もしかしてとんでもないことしてる?」
雪は何かを言ってたが、私は聞こえない。
私にはきっと関係ないことだから。
私には使命がある。
推しの幸せを願う。
鷹野さんの好きな物全部知らないと……
「友達を推すな」
「鷹野さんガチ推しなりました」
「やめろなんか違うし」
さっきまで顔を赤くしていた雪は消えたようで、今は少し慌ててる。
今日の雪は感情豊かで見てて飽きない。
「推しなのに友達は贅沢だろ」
「いいじゃん、寛大になろう」
「絶対違うじゃん……」
何か上手くいかなかった様子。
今度はテンションが下がって、少し萎れてる。
「推しの性癖…気になるぅ」
「それもう推しって言い訳にしてるじゃん」
「ナンノコトカナ」
本気で推しにしようと思ってるわけじゃない。
ただこの感情に名前をつけるなら推しが一番近し、納得する。
けど雪は納得してないようで、ずっと私に何かを吹き込んでる。
私は聞こえない体にして、アルバムに集中した。
早く鷹野さんに会いたい。
「え?待って鷹野さん誰かのおっぱい揉んでるの?」
「もっかいすんのその話」
改めて自分の中で消化してみようとしたけど、できそうになかった。
「ボケだったのに…」
信じてたか信じてないかで言うと信じてなかった。
きっといつもの悪ふざけだと思ってたけど、雪のリアクションを見ると本気のようだ。
そうなると少し、私も落ち着かない。
「え、まじのやつ?」
「まじだって」
困った。
私がどうこう言える立場ではないのはわかっているけど、少し、かなり落ち着かない。
「なに、揉んでほしいの?」
「いや、、そういう訳では…」
「元カノに誘われたのに戸惑いすぎて断った人だもんなぁ」
「誠実な恋愛です。純情派ですから」
間違っては無い。
誠実に向き合ってた。はず。
「ビビりめ」
「なんだと」
雪のこういう所が好き。私の悪ふざけに付き合ってくれるし。
お互いいじり合う関係性。すごく楽しい。
一体鷹野さんと何が違うのが、今の私には分からない。
雪はきっとわかっているけど、教えてくれそうで教えてくれない。
彼女はとんでもない悪魔でとんでもない天使なのだろう。
そして私は鷹野さんに対しての気持ちがより一層分からないものになってきた。




