2ー幼女様は聖女様?
何か柔らかい物が、規則的にペチペチと頬にあたる。
目を開けた時、それが幼女様の手だとわかった。
もっとだっ!
と言いたいが、俺は紳士な賢者だ。
やめておこう。
目があったその青い瞳には、生気があった。
よかったと思ったが、俺が口にしたのは……。
「と、尊い」だった。
だってそうだろう。
目の前の美幼女を表現しないでどうする。
何より俺の魔法で回復した記憶はある。
なら、この熱いハートをどう偽れというのだ。
ふぅ。少し熱くなってしまった。
どうやら幼女様は俺を心配してくれているようだ。
……ありがたや、ありがたや。
「ねぇ、大丈夫ぅ?」
「あぁ大丈夫だ」
そう言って俺は立ち上がった。
幼女様を見下ろす。
うん、素晴らしい眺めだ!
このまま幼女様をずっと眺めていたいが、そういう訳にはいかない。
なぜなら、俺には確かめないといけない事があった。
・この幼女様は、本当に聖女様なのか。
・なぜ血まみれ、傷だらけだったのか。
・お兄ちゃんと言ってくれるのか……だ!
特に三つ目に関しては最重要なのだが、ダメだった時の精神的ダメージが大きいので最後だ。
むしろ会話の流れで言って貰うのが幼女愛Sランクと言うもの。
では一つ目なのだが、異世界の人にあなたは聖女ですか? と言って聖女だと答えられる人はまずいない。
何より幼女様だ。慎重にせねば……嫌われてしまうっ。
では、どうする?
と悩んでいると、幼女様のそのふっくらとした唇が動いた。
「あなたはだあれぇ?」
「おしいっ。じゃなくて、俺の名はルーク。ルーク・クロイツだ。幼女様……じゃなかった、君の、名前は?」
「わたし?」
お兄ちゃんは出てこなくて残念だが仕方ない。
俺はうんうんと頷いた。
幼女様は、んーっと言いながら、思い出すように上を向き、考えた後答えた。
「セブン? だった?」
「だった?」
召喚されて混乱しているのか?
それとも知らないイケメンお兄さんには、名前は言ってはいけないと教えられたのか?
どっちだ!
と心の雄叫びを上げだその時だった。
ドンドンドンッと部屋の扉が叩かれた。
「ルーク様大丈夫ですか? 先ほどの光は?」
タイミングが悪いやつだ。
おそらく扉の向こうは、城を警備する騎士。
いつもの癖で鍵をかけておいてよかった。
聖女の召喚に成功した事を伝えてもいいのだが、今はやめておこう。
こんな夜中に血に染まった服を着た幼女様なんて見せられない。
最悪の場合、変態賢者は幼女様の血をすする。
とか言われかねないからな。
俺は扉の向こうへ聞こえるように声をあげた。
「ちょっとした魔力反応なので、大丈夫だ」
頼むから開けろとかいうなよ…………。
「わかりました。ただ、夜中に光を発する魔法は今後お控え下さい」
…………。
俺だって知らなかったんだからしかたないだろっ。
なんて言えない。
「すみません」
ふう。まぁ、扉を開けずに何とかなってよかった。
惨劇の部屋だ。誰も入りたいとは思わないか。
足音も聞こえなくなった所で、話を戻そうと振り返った。
「えっと。もぅ一回聞くけど、名前はセブンでいいのかい?」
「んーとねー。よくわかんない」
「どうして?」
「覚えてないの。でも名前って聞いてセブンって思った」
「じゃあ、そのー。ここに召喚される前の事を全く覚えてない?」
幼女様はこくこくと頷いた。
混乱している感じではない。
召喚された事で記憶がないのか。
もしくは、さっきまでの傷が何らかの影響を与えているのか。
まずいなっ、どちらにせよこれでは聖女だと断言出来ないな。
文献には召喚の事が少し載っていただけで、聖女についてはほとんど書かれていなかったから、俺の知識でも断言する事は無理だ。
俺の考えをよそに、セブンは目を擦り出し、口を大きく開けた。
「ふぁーーぁ。……ねむぃ」
「わかった。すぐ用意するからな。床で寝ないでくれよ」
頷いていたが、俺の言葉を聞かずセブンはそのまま寝てしまった。
可愛くて最高なのだが、いったいなんなんだ?
さっきまで死にかけて、それがなかったかのように安心して寝ている。
俺は起こさないように、そっとセブンを抱えた。
こんな所で幼女様が寝るなら、もっと部屋を片付けて置くべきだったな。
彼女を家に招き入れる男子だったら、もっとましなはずだ。
引かれていなければいいが……。
幼女様の血まみれの服を見て思い出す。
この出血量で、無事だったのは本当によかった。
魔法で治せるのは傷だけだ。
流れた血がもとに戻る訳ではない。
こんな可愛い幼女様を傷つける奴なんて、どんなクソやろうだ?
もし会うことがあれば俺が同じめに合わせてやる!
ダメだ。
セブンを見て、俺はこれはよくないと悟った。
寝ているとは言え怒りの感情は幼女様によくない。
ふぅー、深呼吸だ。落ち着こう。
幼女様はなんにせよ無事だったんだ。
明るい事を考えよう。
さぁ、今日はここまで。
そう思い、自室のベットにセブンをおろした。
明日は久々に許可を貰って、外にセブンの服を買いにいこう。
俺の全勢力を持って、最高にキュートな服をだ!
セブンの寝顔を見る。
明日の服を考えただけで、ごはん三杯はいけそうだ。
んっ?
そう言えば、頭痛がいつの間にか治まっている。
騎士は儀式の光を見てすぐに来たはず。
こんなに俺の魔力って、早く回復したか?
この世界に米はあります。粗いけどね。
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