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#24

 道具類を片付け、聖剣になりそこねた残骸の灰が風に飛ばされていくのを名残惜しく見送りつつ、二人はレイチェルの待つ工房へと戻った。

 どうせまたルティアのベッドにでも潜り込んでいるのだろうと見当をつけて、部屋に足を踏み入れると――

「……はぁ、はぁ、お帰りなさい。儀式は……成功、したのかしら?」

「お……おい、なんて顔してるんだ!?」

 レイチェルの顔を見るなり、アレスは思わず大声で叫んでしまった。

 その顔色は、先程二万ソルという途方もない金額の書かれた請求書を目にした時のルティアにも匹敵するほどに蒼白に染まっていた。元の肌の色が白いせいもあって、ますますその不自然な青さが際立っている。

「なにを頓狂な声を上げているのかしら……あら、身体に力が入らなくて、まったく起き上がれませんわ……」

「ルティア! 確か街に医者がいると言っていたな、場所はわかるか!?」

「は、はい、案内できると思います。ええと、今から村長さんに緊急用の馬車を――」

「いや、馬車よりこっちの方が速い」

 そう言うや否や、アレスはレイチェルの眠るベッドに手を突っ込み、俗に言う「お姫様抱っこ」の姿勢で毛布ごと抱え上げた。

「お、お兄様、これはちょっと、恥ずかしいですわ……それに、ルティアを置いて行ってしまったら、場所はわかりますの……?」

「もちろん私も行きます! 私、こう見えて結構走りには自信あるんです」

 何がこう見えてなのかはよくわからなかったが、もちろん指摘している余裕など今のアレスには無い。

「よし、では頼む!」

 それだけ告げると、アレスはレイチェルを抱えたまま家を飛び出していった。それと同じくらいの速さで、ルティアも後から追いかけて行く。


 そして山道を走り続けること一時間と少し――

 突然、肩で息をしながら少女を抱えて飛び込んできた青年の姿に医者が腰を抜かしかけるハプニングもあったものの、すぐに事情は察してくれたらしく、それほど待たされることも無く応急処置を施してくれた。

 そして簡単な検査を行った結果、医者は首を傾げながらこう告げてきた。

「とりあえず、命に関わる病気というわけではなさそうだね。元々強くない体質のようだし、よっぽど疲れが溜まったんだろう。栄養状態が悪かったせいもあるかもしれん……まあ血液を見た感じ、ここ数日はしっかり栄養も摂れているようだが、完全に回復するには一月以上は養生する必要があるだろうね。ところでそっちのお嬢さんは大丈夫かね?」

 医者がそう声をかけた先では、一時間超の全力疾走で力を使い果たしたルティアが壁際にへたり込んでいた。

「大丈夫です……ちょっと一気に走り過ぎて気持ち悪くなっただけです……アレスさん、まさかレイチェルさんを抱えたままあんな速さで走り続けられるなんて……」

「いやまあ、訓練所では砂袋抱えて走り回る訓練もあったし、むしろ何故君が最後までついて来られたのかが不思議で仕方ないんだが……それにこいつは無闇に軽いからな。しっかり食べろといつも言ってはいるのだが」

 アレスの言葉に医者は頷きつつ、薬瓶の並んだ棚に手を伸ばす。

「とりあえず栄養剤を出しておくが、あくまで間に合わせだからね、食べるものはちゃんと食べないといかんよ。とりあえず夕方までここで休めば、まあ歩けるようにはなるだろう。そっちのお嬢さんは……まあ走り過ぎが原因だろうが、ちょっと慢性的に過労気味なようにも見えるね。身体は丈夫なようだが過信はいかんよ過信は。せっかくだから隣のベッドで一緒に休んで行くといい」

 その時、診療所の入口からドアベルの音が聞こえてきた。医者はため息とともに立ち上がり、来客を出迎えに行く。

「やれやれ、僕一人しかいない時に限ってずいぶんとお客さんが多いことだね」

 アレスはその背を目だけで追っていたが、次に聞こえてきた声は非常に聞き覚えのあるものだった。

「俺はこういう者だ。ここに男が女の子を連れて駆け込んできたって話だが、間違いないか?」

「騎士様がどうしてこんな所に……確かに急患抱えて飛び込んで来ましたが、それが何か?」

「その男と女の子に用がある。ちょっと連れて来てくれないか?」

「男の人はともかく、女の子は患者です。いくら騎士様の頼みと言えど、今すぐというのは無理ですよ」

 そんなやり取りの中、アレスは病室を出て訪問者――アルンハイム隊長と対峙し、やや険悪な視線を向ける。

「まさかこんなところまで追いかけて来るとは、大した執念ですね、隊長。聞いての通り、レイチェルは今は動かせません。俺だけで良ければ行きますよ」

「ああ、できれば彼女にも話を聞いてもらいたかったんだが……仕方ない、お前だけでもいいから来い。この間の店でいいか?」

「別に構いませんが……さてはあそこのパフェが気に入りましたね?」

「何言ってる、仮にも王軍騎士にして王国聖剣士ともあろう者が、そんな軟弱な食べ物に執着するはずがないだろう。いいから来い」


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