第90話 気まぐれな大精霊
「……おい、これは……」
「あら、ゴーちゃん。お帰りなさい、早かったわね」
魔物を片付けバジュウの実をあらかた採集し、俺は大精霊の祠に戻った。でも戻って来たら、なぜかあいつがニコニコしながら飯を食っている。しかもシモーヌとサリアと一緒に。
どういうことだ。これは目の錯覚か、俺のことを“ゴーちゃん”と呼ぶのは、ほかでもないミシェルだけだ。格好までさっきの女神風な感じとは違って、完全に私服に変わっている。
「お帰りなさい。あなたの分もあるわよ」
「せっかくバジュウの実を取って来てもらって悪いけど、こっちの方が断然おいしいと思うわ。遠慮なく食べて」
「た、食べて……いいんですか?」
「もちろんよ。お腹すいてるでしょ! さぁ、座って」
「い、いただきます!」
「さぁ、ゴーちゃんも座って。こうやって全員そろって料理を食べる機会なんて、滅多にないんだから。今日は思う存分楽しみましょ!」
「ゴーちゃんって……なんてお茶目な呼び方!!」
「うふふ。私昔から彼のこと、こう呼んでたのよ」
「ゴーイチ、大精霊様からあなたのこといろいろと聞かせてもらったわ。さぞかしチキュウでは大成功して大金持ちになったんですって」
「……大金持ち? なんのことやら……」
「もうとぼけなくていいわよ、ゴーちゃん。全部見せちゃったんだから……」
「ぜ、全部見せたって……」
ミシェルが食卓の中央に置いたオーブに手をかざすとそこに映像が出た。見覚えのあるスタジアムの光景だ。
「俺の……現役時代か……」
「凄いわよね、これが噂に聞くメジャーリーガーですって」
「三冠王って称号? よくわからないけど、毎年取っていたんですって。何が凄いのかわからないけどさ」
「メジャー……リーガー? あの……ここに映っているの、どこですか?」
「リリアンは気にしないで。これは私達だけの話だから」
「……全部……見たのか?」
シモーヌとサリアは頷いた。秘密にしておきたかった事実だ。なんでこうなった。
「ミシェル……話が違うだろ」
「話が違うって、なんのこと言ってるの?」
「とぼけるな! さっきは二人に正体を秘密にしておけと言っただろ!」
「あぁ、そのことなんだけどさ……気が変わったのよ」
「き、気が変わったって……」
ミシェルが両手を上げた。
「大精霊様のお許しをいただいたの。もう秘密を打ち明けてもいいって……」
「……なんだそりゃ……」
わけがわからない。大精霊って本当に神様なのか、だとしたら随分と気まぐれな神様だ。そんな気まぐれな性格で、俺の素性が完全にバレるだなんて。
「ちょっと、大精霊様を呼び捨てにするだなんて! いくら勇者様でも失礼じゃないの!」
「いいのよ、私とゴーちゃんは仲良しなんだから」
「な、仲良し……?」
「変な言い方するな! ただ異世界を案内してもらっただけだ」
「それよ! ねぇ、一体全体どうやって異なる世界を移動できたって言うのよ!? 空間転移魔法とか使ったの!?」
「俺にそんなこと聞かれても……それこそミシェルに聞いてくれ」
「うぅん……ごめんなさい。詳しいことは企業秘密でね」
「企業……秘密!? 企業って何ですか?」
俺の世界でしか通用しない専門用語を使うなって。ミシェルも完全に地球人のノリで話すなよ。
「……まぁ、会社みたいなもの……あ、会社もないのか! こっちの世界だと」
「それはそうと……ゴーイチも食べたら? お腹すいてるでしょ」
サリアに促されたけど、正直まさか異世界に来て元の世界の食事はあまり口にしたくない。今食卓に置かれている料理やデザートは、俺がメジャーリーガー時代にホテルでよく口にしたものだ。
そりゃこっちの世界の住人にとって、これほどの御馳走はないだろうな。特にシモーヌはかなり気に入ってるようだ、もう半分も平らげたのか。
「……お前達だけで食べていい。俺にはさっき採って来たこれがある」
「私も……そっちがいいかも……」
「え? リリアン、あなた……」
これは意外だな。リリアンは目の前に置かれた豪華な料理には目もくれないのか。確かにあまり食べてない。
「……ふぅ、負けたわ。あなたには」
ミシェルが少し悔しがっているように見える。もしかして気に入られたかったのか。
「でも本当にそれだけでいいの? こっちのが方が断然おいしいと思うけど」
「大丈夫よ。バジュウの実はそう見えて意外とタンパク質が豊富だから」
「タンパク……質?」
「簡単に言うと、栄養満点って意味さ。育ち盛りの子供にもうってつけの果物さ」
「そうなの。だからバジュウの実って、高値で取引されてるわけね……あっ!」
シモーヌが何か思い出したかのように顔を上げた。
「以前、ギルドの依頼で見たことがあるわ。バジュウの実の採取依頼だったけど、あまりに大量で超高額だった」
「特に貴族の連中に多いのよ。やっぱり貴重な果物だから、ティアランピアに住むエルフの貴族の間でも人気なの」
「いいえ、あの依頼は……貴族ではなかったはず」
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