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史上最強のメジャーリーガーは引退後は二度目の異世界で自由なスローライフを送りたい  作者: 葵彗星


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第88話 山の中の果樹園

 バジュウの実と言えば俺も食べたことがある。甘酸っぱい果実で、味は洋ナシに似ていたな。

 俺も食べたくなってきたから、ラズリーに乗って大量に採取だ。そう思ったら、タイミングを見計らったかのようにラズリーが頭上から飛んで着地した。


「ひぃ! なんて大きな鳥なの!」

「驚かせてごめんなさい。この子はラズリー、精霊鳥の一種よ」

「リリアンをここまで運ばせたのもラズリーさ。改めて挨拶しろよ」

「ぴきぃい!」


 ラズリーが長い首を下ろしてリリアンに顔を近づけた。さすがに近すぎかな、でもリリアンは落ち着いて頭を撫でた。顔も少しだけ明るくなってきている。


「よかったら、一緒にどう?」

「え? 乗って……いいの?」

「もちろん。普通はほかの人間にはなつかないけど、あなたは特別よ」

「……じゃあ……」


 リリアンが近づくと、ラズリーはゆっくりと態勢を低くした。初めて精霊鳥に乗る時の顔を見て、思わず俺も最初にラズリーに乗った時を思い出した。

 

 二十年前、俺もまだ子供だった。初めて鳥に乗って大空を羽ばたいてこの世界を見て回れる、胸が躍って仕方なかったな。


「……誰かさんが最初に乗ったときの反応とそっくりね」

「誰かさんって、誰だよ」

「さぁ誰でしょう?」


 サリアがニヤニヤしながら話しかけた。思わず感傷に浸ってしまったな。早いところ仕事を済ませよう。


 俺はリリアンの後ろに乗った。念のためロープで体をつないでおこう、万が一にも振り落とされないように。


「大丈夫? 怖かったら降りていいわよ」

「……平気です」


 震えもそこまで激しくない。意外と肝が据わっている少女だ。


「そういえば自己紹介がまだだったな。俺の名前はゴーイチだ、改めてよろしく!」

「よろしくお願いします、ゴーイチさん」

「じゃあ出発だ。ラズリー、ゴー!!」


 俺の合図とともにラズリーは一瞬で空高くまで飛び立った。相変わらず離陸の初動の速さが凄いな。


「え? 嘘……もうこんな高く……」

「ラズリー、少し加減してもいいんだぞ。目的地はわかるな?」

「ぴきぃい!!」


 ラズリーが方向を変えた。さっきより少しだけ速度を緩めたようだ、賢くて助かる。


「……もうちょっと速くていいかも」


 リリアンが小声でつぶやいた。


「大丈夫か? あんまり速すぎると……酔うぞ」

「酔う? 私のことは大丈夫よ。それより今はもっと楽しみたいの、風も気持ちいいし」


 なんて明るい表情で話しやがる。さっきまでの暗くて悲しい表情は嘘みたいに消えている、しかもその上この絶叫マシンを最高に楽しむとは。

 二十年前の俺は、最初にラズリーに乗ったとき、この速度で大空を飛び回られて思わず失神したんだ。今思えば相当恥ずかしいが、リリアンはそんなこと気にも止めないのか。

 異世界の人間に、遊園地のジェットコースターの感覚を説明しても理解されないとは思うが、今俺達が乗っているラズリーはまさにそんな感じだ。ジェットコースターの速度が時速百キロメートルほどで、ラズリーはその三倍くらいの速さなのに。

 でもせっかくリリアンの気分が高まったんだ、この勢いを止めたくない。ここは思う存分楽しませよう。


「……わかった、リリアンがそこまで言うなら……ラズリー、速度を上げ……」

「ぴきぃ!!」

「うお、急に高度を下げるな!」

「あ! バジュウの実よ!」

「え? もしかしてもう着いたのか?」


 意外と距離は近かったな。甘酸っぱい香りがしてきた。バジュウの実がたくさんなっている、間違いなくこの場所だ。

 それにしても凄い量だ。見渡す限りの果樹園が広がっている、誰も足を踏み入れない禁断の地だから乱獲なんて無縁なんだ。

 でも、ところどころに狼の足跡があるのが気になるな。


 ラズリーを適当な場所に着地させて、俺はそのまま下りた。どの木にもありったけの量のバジュウの実が垂れ下がっている。懐かしい、最後に食べたのは二十年前だが、この特徴的な形は覚えている。

 二、三個ほど摘まんでリリアンのそばへ寄った。腹が減っているから喜ぶだろうと思ったら、意外なことに怪訝な顔をされた。


「……なんかちょっと臭いが違うかも」

「そうか? でもこれはバジュウの実で間違いない、俺も食べたことがあるから安心しろ」

「そうなの……私が島で食べたときはもっとこう……」

「しゃあ!!」

「きゃ! どうしたの!?」


 突然ラズリーが威嚇した。首を低くし、遠くの方をじっと見つめる。俺もすぐに理由がわかった。


「なんなの……なんか嫌な予感が……」

「リリアン、ラズリーと一緒にここに残ってくれ」

「……ゴーイチさん……」


 リリアンも察したようだ。意外と勘が鋭いな、女性の勘ってやつだな。


「一人で大丈夫ですか? サリアさんたちのところへ戻った方が……」

「心配してくれてありがとう。大丈夫、こういうのは慣れてるさ」


 ラズリーにリリアンを守るよう促して、俺は血に飢えた魔物どもの臭いがする森の奥へ進んで行った。

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