第87話 腹ごしらえ
驚くべき事実を知った。あの邪竜があれだけの強さを誇りながら使い魔だというのか。さらに恐ろしい奴が、この世界のどこかにいるのか。
「まぁ、その邪神も今は眠りについているはずだから……安心して」
「眠りについているって、それじゃいつ目覚めてもおかしくないんじゃ。もしボラリスが目覚めさせたらどうなる?」
「そうはならないわ。邪神を目覚めさせることができるのは……邪竜だけ」
「……なるほど。じゃあ邪竜の魂を解放させたら、その心配の必要はないと」
ミシェルは頷いた。でも心なしか、やや不安気な顔にも見える。
「ボラリスは一刻も早く見つけないと……第二の候補を見つける前に」
「第二の候補? それはどういう意味だ?」
「さっき解放させた邪竜の魂だけど、人間の肉体を欲しているのよ」
「……まさか……?」
ということは、さっきのリリアンと同じように邪竜に乗っ取られる人間が、また出てくるということか。でも理解できないことがある。
「一つ聞くが……そもそもなんでリリアンは乗っ取られたんだ?」
「やっぱり気になる? そうね……多分あのリリアンは、邪竜にとって最も適正な精神状態だったのよ」
「精神状態? 肉体としての強さなどは関係ないのか?」
ミシェルが少し思いつめたような顔を見せる。
「さっきも島に帰還させるって言った時、あの子少しためらってたでしょ。多分帰りたくないのよ」
「帰りたくない……何かあったのか?」
「あの子の額に触れたとき、少しだけ過去の記憶を覗かせてもらったわ。そしたら……」
「ゴーイチー!!」
突然サリアが叫びながら戻って来た。
「大変よ! リリアンが……」
「リリアンが!? 一体何があった!?」
「……急に泣き出して……」
「なんだと!?」
俺もサリアに続こうとしたけど、その前にミシェルの顔を見た。驚いていない顔だ。
「行ってきなさい。本人もやっと話す気になったのよ」
「……わかった」
*
洞窟の外に出ると、座ったまま顔に手を当てて泣きじゃくる少女がすぐ目に入った。リリアンだ。
「おいおい、急にどうしたんだよ!?」
「……うぅ……うっ……」
「さっきから、ずっとこの状態よ」
「リリアン。泣いてばかりないで、説明してくれないか。俺達なら、どんなことでも力になってやる」
どんなことでも、というのは言い過ぎかもしれないけど、今はこういうしかないな。するとリリアンもやっと顔をあげてくれた。
「……お父さんと……お母さんが……」
「ご両親が……どうしたの……?」
「…………うぅ……うわあああん!!」
さっきよりひどくなった。両親についての悲しい出来事か。不吉なことを想像してしまう。
「……シモーヌ、来てくれ」
リリアンに聞こえないよう、距離を置いて小声で話そう。
「多分あの様子からして、おそらく親がいないんだろうな」
「ちょっと! まだそうと決まったわけじゃないでしょう!」
「じゃあ、あそこまで泣きじゃくるのはなぜだ? ほかに説明がつくか?」
シモーヌは黙り込んだ。でもサリアは違うようだ。
「両親にひどい仕打ちを受けている可能性もあるわ。だから帰りたくないのよ」
「……とにかく本人に聞くしか……でもあの様子じゃ」
「ゴーイチ、あなたにしかできないわ」
「おいおい、こんな面倒なこと、どうして俺が……」
「だって……勇者様でしょ!」
勇者にだってできることとできないことがあるんだぜ。でも全幅の信頼を置かれているようだ、参ったな。
泣いている少女をどうやってあやすか。子供がいない俺にはわからない、まぁサリアやシモーヌもそうだけど。
仕方ない、乗り掛かった船だ。俺にできることは決まっている。
「リリアン、顔を上げてくれ」
そっとリリアンに近づいて話しかけた。俺の顔を見た途端、泣くのを止めた。
「何があったかは敢えて聞かない。今は……思う存分泣いていいぞ……」
「……あ、ありが……とう……」
「故郷のストラカディア島に帰りたくないなら……しばらくはここにいてもいいぞ。大精霊様が守ってくれるから、安全は保証される」
ミシェルからしたら迷惑な話かもしれない。あとで本人が知ったら怒るだろうな、許してくれ。
「……でも……食べ物が……」
そうか。ずっと食べていない状態だから空腹になるのは無理もない、俺も腹が減ってきた。
「そうだな……ラズリーに乗れば移動にも困らない。サリア、この近くで何か食料が取れそうな場所はないか?」
「あぁ、ちょっと待って……そうね……南の方に行けば、バジュウの実が取れる木々が生えているわ」
「え? バジュウの実は大好き……」
「そうか! よし、俺が取ってこよう!」
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